第4話 不思議パワーって大体魔力って呼ばれるよね


「家を支援って、改めて名家ってことを確認させられんね。」


家と言うより屋敷と言う言葉がしっくりくるような豪邸。二階建ての屋敷で、ダンスパーティーが開けそうな大広間に、娯楽室や図書室、視聴覚室、応接室に化粧室、和室に洋室に温泉。


最早、無いものが無いと言えるほどに揃えられている屋敷を、未成年の男にぽんと渡す東青家の財力に怖気が走る。


「まぁ、貰えるんなら貰うけど。一人暮らし用ではないだろ。何考えてんだあのババア。」


庭にはメイド用と思われる一棟あるが、俺にメイドを雇う財力はないしな。宝の持ち腐れと言うやつだ。


戦闘訓練用の設備も揃ってはいるが、俺以外に誰も使わねぇのに、一個師団が訓練できるぐらいには広い。


さらに、


魔導媒体器マジックデバイスまでつけてくるとは、太っ腹だねぇ。」


魔導媒体器マジックデバイス


これを誰かが見ても、日本刀にしか視えないだろう。


簡易的な装飾で飾られた鞘があり、柄の部分には、握りやすい加工が施されている。柄には、何かの細工か、鍔の部分まで伸びる線が掘られている。


よくよく見てみれば、鞘には何かをはめるような、いくつかの凹みがある。その凹みと凹みを繋げるような線が掘られており、紋様染みた細工になっている。


この凹みには、刻魔導体マジックメモリーと呼ばれるビー玉のような玉を嵌め込む事ができるようになっている。


しかし、この刀には致命的な欠陥が存在する。この刀、刀身が付いていないのだ。


何故このような機構になっているのかと言えば……『楽園×学園』エデン・スクールの魔法の発動方法に理由がある。


この世界では、魔法は特殊な器具を用いてしか発動できない。その特殊な器具こそが魔導媒体器マジックデバイスであり、刻魔導体マジックメモリーなのだ。


魔法は、この魔導媒体器に魔力を流し込み、発動する。


魔導媒体器の形は決まっている訳ではなく、俺が持っているこいつのような刀型以外にも、杖、槍、腕輪、弓、変わったところでは布の形のものもある。


この魔導媒体器に魔力を流し込めば魔法は発動するのだが、ただ魔力を流し込めばいいのではなく、魔導媒体器2存在する凹み――フレームというのだが――に刻魔導体を嵌め込む必要がある。


魔導媒体器にある孔に、刻魔導体をはめ込み連結させることで魔法を発動させることが出来るのだ。


刻魔導体は、一つ一つに何らかの魔法的要素が刻まれており、大別すると『生成』『属性』『操作』『変化』の4つになる。細かく言えば、もう少しあるのだが割愛。


例えば、魔導媒体器に、『生成』:球、『属性』:火、『操作』:射出、の刻魔導体を嵌め魔力を流し込めば皆様ご存知『火球ファイアーボール』を撃てるというわけだ。


そして、フレーム同士を繋ぐ導線によって威力や効果が変わってくる。


他にも、魔力を注ぐ量やタイミングによっては、クリティカルが出ることもある。クリティカルは、魔法の効力を大幅に上げてくれるが、その分タイミングがシビアで、難易度が高い。


「……恋愛はどこいった?」


思わずそう言ってしまうほどには、魔法の設定は凝っている。


魔導媒体器のフレームの数や、導線を配置等、とんでもなく奥が深く、恋愛そっちのけで検証に走るプレイヤーもいた程だ。


見た感じ、流石は東青家と言うべきか魔導媒体器は一級品で、3スロ全てがどうせんで繋がっており使い勝手がとてもいい。……が、刻魔導体の方は殆どジャンクだ。


弄りたいのは山々だが、今日はもう疲れた。


「……寝るか。」


夜も耽っており、疲れていたこともあって俺はさっさと寝ることにした。




「……夢だったらどれほど良かったか。」


朝5時に目を開けて、顔を洗い鏡を見る。そこにはやはり、クソオブザクソの称号を持つ壱成君がいた。


「はぁ、取り敢えず、導体メモリーいじって走りに行くか。」


ガチャガチャ


「導体足りねぇな。身体強化以外、使いもんにならねぇぞ。走り終わったらダンジョン行くか。」


その場しのぎで、身体強化の魔法を組んだ俺は魔法を発動しながら走り込みに出掛ける。




「ふっ、ふっ、はっ、はっ、……!」


魔法を発動させながら、速度を一定に保ち走る。呼吸は2回吸って2回吐く。テンポ良くリズミカルに。


下肢に魔力を集め、走る。足は魔力により青白く光り、ぐんぐんと体を前に引っ張っていく。景色は後ろに流れ、気持ちのいい風が頬を撫ぜる。



この『楽学』世界において、魔導媒体器は魔法の発動に必須の道具だ。言うなれば、引き金。


しかし、魔法をどのように活用し増大させるかは、全て魔術師(魔法の使用者)の実力にかかっている。


ゲーム風に言うならば、能力値パラメータと熟練度。


能力値は、体力、魔力、筋力、敏捷、器用の五種類があり、最も重要視されているのは『魔力』だ。


と言うのも、魔力を上げれば他の能力値も上がるのである。器用だけは上がらないが……。頑張れ器用、君ならできるよ。


魔力には、身体能力を強化する作用がある。だからこそ、俺は今身体強化を使えているのだが……。


魔力が多い者は身体能力が高くなる。人間の細胞には魔力を受け止められる容量があり、魔力を鍛えることでその容量が増える。


そうすると、増えた容量に魔力が入り、魔力の作用により身体能力が強化される。


そして、この世界の能力値の魔力というものは、俺たちの細胞に入り切らない、余剰分のことを言うのだ。


だからこそ、魔力の能力値が重要視されている。


で、肝心の魔力を鍛える方法だが、只管に魔力を使うしかない。


ゲームの時は、魔力の鍛錬を選択すれば自動的に能力値は上がっていたが、ここは現実だ。地道に鍛えていくしかない。


そして、この世界で効率的に能力値を上げるのなら、ゲーム時代には出来なかった方法がある。


それが、身体強化のランニングだ。魔力を使いつつ、体力や敏捷等も同時に鍛えることが出来る。ゲームではできなかった、現実リアルの特権だ。


まぁ、魔力を流して走るだけなのだが……。

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