第3話 ギャルゲー世界は、男には生き辛い
東青家に、壱成の居場所はない。
東青家を継ぐのは長女である
そんな俺が、東青家に呼ばれるとなれば要件を容易に想像が着く。
峰華のルートの過去回想でもあった、魔法学園への入学と廃嫡の件を言い渡すのだろう。
分かっていても、胸に込み上げてくるものが……
「……?」
壱成本人ならともかく、俺が思う事なんかないはずだろ?
「どうも、調子が悪いな。」
さっきと言い今と言い、どうも様子がおかしい。知らないはずの情報を知っていたり、悲哀の情が急に襲ってきたり……。まるで、俺が壱成になっているかのような……
「まぁ、壱成なんだが……。」
考えられる可能性は二つ。
一つは、ゲームで見た東青 壱成に俺が感情移入をしていたということ。
「ねぇな、このクズに同情の余地はない。」
二つ目は、この体の中に、東青 壱成の意思が残っている、或は、俺と壱成が混じりあっている可能性。
こっちも現実的ではない。なんせ、俺は壱成の意思を認識できていない。
俺に混じっていると言うのも考えづらい。俺は転生前と比べて、何かがて変わっている訳でもないし、壱成の記憶も残っていない。
とすると……
「着きましたね。」
思考の海に沈んでいると、峰華の声が聞こえた。
東青の本家に着いたらしい。
俺は思考を中断して、リムジンから降りる。
「てか、俺正装じゃないけどいいの?」
ふと思ったことを峰華に聞いてみる。
「問題ありません。」
なるほど。端から期待してないってか。
「じゃあ、行こうかね。」
そう言って、俺たちは屋敷に入っていく。
「……遅くね?」
通された応接室らしき場所で、出された水を飲みきり、氷を口の中で転がすのにも飽きてきた頃。
俺は、扉の前に立っている白髪のメイドさんに尋ねてみた。
「大奥様方は、大変多忙な方々です。もう少々お待ちを。」
感情を見せない機械的な声音で返してくる彼女。
「ほーん、どうせ廃嫡にするガキに使う配慮はねぇってか?」
そう言うと、メイドは目を見開き尋ねてきた。
「……それをどこで?」
「誰にも聞いちゃいねぇさ。聞いても答えんだろ?」
その言葉に納得したのか、メイドは頷き、
「それもそうですね。失礼しました。」
と、微塵も失礼等と思っていなそうに謝罪した。
「もうちょい頑張ろうぜ?面倒臭そうな雰囲気ぷんぷんだよ?」
「は?出してませんが?」
豆鉄砲撃ったら大砲が返ってきました。
怖っわ、あと怖い。何この子、氷属性?一瞬で場が凍りついたんだけど?
「ごめんって、そんな怒んなくてもいいじゃん。」
「……怒ってませんが?」
はい、
え、東青家のメイドって最高峰なんじゃないの?こんなわかりやすいことある?俺なんかした?
……すごいしてそう。だって
「……つかぬ事をお聞きしますが、俺なんかしました?」
ビクビクしながら、一応聞いてみる。
「別に大したことではありませんが、私のメイド仲間を叩きましたね。大したことではありませんが。」
大事じゃねぇか馬鹿野郎。何してんだ壱成。流石だよ。期待を裏切らない壱成クオリティ。
「それは俺が100パーセント悪いね。後で謝りに行こう。……あぁ、俺とは会いたくないとかだったら伝えといてくれる?」
またしても、驚愕の表情を浮かべたメイドは何を思ったのか少し近づいて来た。
「……誰ですか?あなた。私の知る東青 壱成は、生涯で1度も謝ったことがないクズのはずですが……。」
本人目の前にして良く言えんな、こいつ。一応俺のが立場上なんだけど……。
「気にするな。誰にでも初めてはある。俺はそれが今日だっただけの話だ。」
「……ニセモノ?」
偽物と来たか、さすが壱成。この程度で疑われるとは……
「ちゃんと愉快な御曹司様であってるよ。」
そうして、メイドとの会話を楽しんでいると
コンコン
ノック音が響いた。
メイドは居住まいを正して、来訪者を部屋に招き入れる。
ガチャ
「よく来たね、壱成。」
そう言って入ってきたのは、こいつ何人かヤってんだろと言いたくなるような威圧感を持ったババアだった。
海外版ではyakuzaという名で知られている某極道のゲームに出てくるキャラより厳ついんだけど。
何?殺されんのはまだ先じゃないの?
「今日あんたを呼んだのは二つ理由がある。一つ目は、あんたを来年からオリージネ魔法学園に通ってもらう。」
オリージネ魔法学園。
当然、主人公やヒロインたちは殆どがこの学園に通う事になる。
勿論、俺こと壱成も、この学園に通い最終的に死ぬことになる。嬉……悲しいね(´TωT`)。
「あぁ、答えは聞いていない。東青家に生まれた以上、あんたに拒否権なんてないからね。」
ちなみに、峰華のルートだけでなくいくつかのサブエンドでも、東青家に誅殺される。邪魔だもんね。仕方ないね。
「そして、二つ目。あんたが成人すると同時に、あんたを東青家から廃嫡することが決定した。」
廃嫡、つまりは相続権の剥奪。
屑とは言え、俺は先代当主の血を継ぐ唯一の末裔。そんな俺を人形として担ぎあげようという奇特な奴も少ないながらに存在するのだ。
お家騒動になる前に対処しようと言う訳だな。
「あぁはいはい、廃嫡ね。成人まで待ってくれるなんて、お優しいねぇ?」
ま、未成年を廃嫡したっつう汚名よりはマシだと判断しただけだろうが……
「そう言うこった。ま、精々頑張んな。支援はしてやるよ。」
「期待しといてやるから、さっさとしろよ?」
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