第2話 そもそもガチャがないと、リセマラは成り立たない


目が覚めると、ゲームのお邪魔キャラに転生していました。


そんななろう系で使い古されたテンプレが、まさか自分の身に起こるとは思わなかった。


俺が冷静になれたのは、数時間走り回って怨嗟の声を吐き尽くした後だった。


今、俺がいるのは『楽園×学園』エデン・スクールの世界だ。


東青 壱成の体に、見覚えのある学園もある。それに加え、通行人の9割以上が女性で、全員が可愛い。


「ここは天国か……?」


どうやら、連日の無理が祟り俺は天に召されたらしい。


たが、幸福をかみ締めてばかりも居られない。なんせ、俺が転生したのは東青 壱成。


『楽園×学園』エデン・スクールにおいての憎まれ役であり、悲惨な死を運命付られたお邪魔キャラだ。


「ヤバイ……いや、やばいなんてもんじゃないぞ……?」


取り敢えず、路地裏から出て公園のベンチに座り込む。


「確か、壱成は成人と同時に東青家から廃嫡されるはずだ。」


この世界での成人は、16歳。魔力の作用か、成長速度が元の世界より早く、義務教育を終えた者は漏れなく成人となる。


「今は入学、いや卒業前の2月か……。」


廃嫡まで時間が無い。俺がやるべきは、生活費の確保と、実力をつけること。


なんせこの東青 壱成という男。お邪魔キャラでありながらくそ雑魚である。ヒロインどころかそこらのモブにも余裕で負ける。


「いや、必ずしも強くなる必要はないか?」


東青壱成が死ぬのは全てイベント内の事だ。なら、イベントを起こさなければいい……?


イベントを起こさないとなると確実なのは……


「主人公とヒロインを殺す……か。」


主人公とヒロインを殺しさえすればイベントは起きない。なんせ起こす人がいないのだから。


だが……


「有り得ねぇ」


そう、ありえない。あの神の造形を持つヒロインたちを殺す?ねぇよ!絶対ねえ!彼女たちを殺すくらいなら俺が死ぬ。その程度の覚悟は、あのゲームをクリアした人間なら全員持っているはずだ。


主人公のことは個人的にあまり好きではないが、それでも殺すほどではない。


「取れる手は1つしかねぇよ」


つまり、最低限、生活費と実力の二つをクリアしなけりゃ、その先に待つのは終わりだ。


「……?」


ふと感じる違和感。まるで当たり前かのように流していたが……


「なんで、2月だとわかった……?」


そう判断するには材料が足りねぇ。たしかに寒いが、それは決定打にはならねぇだろ。


「どういう……?いや、今はそれどころじゃねぇな」


一つ一つ、自分が対処すべき問題に思考をめぐらせながら街を練り歩いていると――


「お兄様」


声が聞こえた。


液晶の前で何度も聞いた声。忘れることがないほどに脳に刻み付けた声。その有様に涙し、この子のために命を張った。その持ち主は――


「……峰華か」


東青 峰華。東青家次期当主であり、東青 壱成の遠縁の妹。そして、『楽園×学園』エデン・スクールにおいて、5人いるメインヒロインの一人である。


凛とした佇まいに、炎を思わせる紅色の瞳。身に纏う蒼色の本振袖は涼やかな雰囲気と相まって、神聖な空気を醸し出していた。


彼女は凍てついた声音で俺を呼ぶ。


「どこにいらしたのですか?急に居なくなられたので心配しました。」


その声と表情から、一欠片の心配もしていないことが読み取れる。


彼女は心底面倒臭そうな表情で言った。


「大奥様がお呼びです。」


必死で頭を回しながら状況を把握しつつ合わせる。


「もうそんな時間か。ごめんね?ちょっと迸る熱いパトスが抑えきれなくて。」


「いえ、それほど手間でもありませんでしたのでお気づかいなく。」


さすが壱成、こんな適当言っても何も言われない。


「じゃあ、もう行く?」


大奥様が呼んでるとか言ったか?


……じゃあ、多分あれだな。


「ええ、少し遅れてしまいましたが、問題は無いでしょう。行きましょうか。」


そう言って、道路に待たせていたリムジンに乗り込む。


さてさて、ここで東青 壱成の話を少々。


突然だがこの世界には、貴族階級というものが残っている。元は華族と呼ばれていたやつだな。これがなんやかんやあって、外国の制度に統一。


王家に始まり、大公爵、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵があり、東青家は王家に次ぐ2番目、つまり大公爵家なのだ。


そしてこの東青 壱成という男。なかなかに面倒な血を継いでいる。この男、先代当主の血を引いているのだ。


どういうことかと言うと、この男の父が先代当主とメイドの間にできた烙印であり、その烙印の息子が壱成というわけだ。まぁ、面倒な理由と言うのは殆どがこれのせいで大変迷惑している。


まあ、その血を利用して良い目にあってたんだから文句を言う資格は無いのだが。


兎にも角にも、そんな面倒な血と、先代は俺の親父以外の子供に恵まれなかったこともあり、今東青家には、俺以外に先代当主の血を引いている人間がいないということになる。


だからこそ、俺を廃嫡するわけだ。


俺の親父は、先代の大切な一人息子で殺すことも廃嫡することも出来なかった。だが、先代が死に俺と言う厄ネタをようやく始末できると踏んだ、東青家の大御所がようやく動き出したのだろう。


「……もう、時間がねぇな。」


ポツリと、誰に言うでもなく漏らす。

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