第9話 決断

「うーん、やっぱり気になるよなぁ……」


 シャルとセラフィを助けた次の日、レストはいつものように宝箱に擬態しながら昨日の二人の会話を思い出していた。


(病を癒すための秘薬、スクナビの花……か)


 彼女たちの話によれば、その花を使えばあらゆる病や怪我を癒すことができるらしい。しかし、強力な魔物の生息地である魔素溜まりマナレイトが濃い場所でしか咲かないため入手は非常に困難だとか。


(手を貸してやりたいけど、迷宮から出られない俺には無理だしな……)


 異世界にやってきて初めての友人を助けることができないことに歯痒い思いを抱きながら、それでも何かできないかと頭を悩ませる。


『主さま、どうかされましたか?』


 すると、そんなレストの様子に気づいたのか、狛犬姿で気持ち良さそうに伏せっていたハクアとハクウが顔を上げて尋ねてきた。


「ああ、実は……」


 レストは二人に事情を説明する。

 シャルが必要としている希少な植物を手に入れたいこと。自分は宝箱の魔物だから迷宮から動けないことなど……全てを包み隠さず打ち明けた。


「どう思う? 俺は彼女たちの力になりたいんだけど……」


 黙って話を聞き終えたハクアとハクウは考え込むようにお互いの顔を見合わせる。もしも、二人が難しいと言うのであれば残念だが諦めよう。それでも、できれば何とかしてあげたいと思う。

 レストがそんなことを考えていると、ハクアが口を開いた。


『わかりました。では、私たちも協力します』

「えっ、いいのか?」


 あっさりとした返答にレストの方が驚いてしまう。

 スクナビの花が咲いているのは強力な魔物が蔓延はびこる危険な場所だ。下手をすれば命に関わるかもしれない。レストがそのことを伝えると、ハクアとハクウが揃って首を横に振った。


『私たちは主さまにお仕えする眷属であり、守護する者です。主さまのお役に立てるのなら喜んでお供いたします』

『私もハクアと同じ気持ちです。遠慮なくお申し付けくださいませ』

「二人とも……ありがとう」


 レストは感謝の念を込めてハクアとハクウを優しく抱きしめる。モフモフの毛並みが心地よかった。


「早速だけど、何か方法はないかな?」


 シャルたちを助けると決めたものの、そもそも情報が少なすぎて解決策が見つからない。しかも、レストは宝箱の魔物なので、迷宮から出ることができないのだ。


「うーん、街で情報を集めることも無理だよなぁ」


 仮に迷宮の外に出られたとしても、宝箱の魔物が街中で言葉を発したら大騒ぎになって討伐される恐れがある。レストが腕を組んで考えていると、ハクアが一つの提案を口にした。


『……一つだけ方法があるかもしれません。しかし、これはあくまで推測に過ぎません。試してみる価値はあると思いますが、危険を伴います。本当によろしいですか?』

「ああ、もちろんだ。頼む」


 レストは迷わず即答した。

 例えどんな手段だろうとシャルたちの力になれる可能性があるのならば実行すべきだろう。


『わかりました。その方法とは、主さまの等級ランクを上げることです。つまり、鉄の宝箱からさらに上の宝箱を目指すのです』

「なるほど。確かにそれなら……」


 宝箱のグレードが上がれば、中身もそれに合わせて豪華になるはずだ。例えば、鉄の宝箱の場合、取り出せる硬貨は銅貨百枚が限界だが、もっと上の宝箱に等級ランクが上がれば銀貨や金貨といった高価な物に代わるかもしれない。それは、装備品や魔法水ポーションといったアイテムもしかりである。


「俺の等級ランクが上がれば、スクナビの花も出るかもしれないってことか」

『はい。急いで等級ランクを上げるなら深い階層の魔物と戦う必要があります。しかし、今の主さまの実力では難しいでしょう』

「……そうだね」


 ハクアの言葉にレストは同意を示す。

 つい先日、六階層の魔物と戦ってようやく勝てたばかりなのだ。今のレストでは実力不足なのは明白である。


『そこで、私たちも一緒に戦います。私たちと主さまの三人であれば、きっと上位の宝箱まで辿り着けるでしょう』

「……でも、二人は大丈夫なのか? 俺のためにハクアとハクウが危険な目に遭うのは……」

『ご安心を。私たちも主さまにお仕えしている身として、強くありたいと思っています。それに、私たちは守護者の責務せきむとしてではなく、私たち自身の意思で主さまをお守りしたいと思っておりますから』

「……わかった。じゃあ、頼んだよ。俺の初めての友達を助けるために二人の力を貸してくれ!」

『はい!』

『承知しました』


 ハクアとハクウは嬉しそうに返事をする。

 こうして、レストは新たな決意と共に行動を開始するのであった。

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突然ですが、異世界で宝箱に転生しました! ぐまのすけ @goofmax

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