17話 青いトンネルの向こうには
※よろしければ『G線上のアリア』をお聞きになりながらゆったりとご覧ください。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「今日はいい天気。」
発船の時間になると海の向こうから初々しい日の光が広大な海を照らし始めていた。
海猫の鳴き声とともに4月の春の優しい風が少し伸びた髪をなでていく。
『明日、私のバイオリンを聴いてください。今の私のバイオリンの音を聴いてほしいんです.... 』
昨日、荻島ダイビングセンターの最終日にセンターのみなさんにお別れとお礼を述べた後、私は最後のお願いをした。
開発工事作業が始まる前の早朝、まだそのままの姿で残るあの岩で私は演奏する。
港に着くとオーナーと琴子さん、そして佑斗さんが待っていてくれた。
工事責任者の方にお礼を言うと、沿岸に作られた工事車両用の整備道を歩いていく。
もう私を背負いながら佑斗さんが歩いてくれたゴロタは無くなっていた。
だけれど、あの岩はまだそのままの姿で残っていてくれた。
「みなさま、本日は、田宮蒔絵の演奏会にお越しいただいてありがとうございます。今の私が奏でる音を聴いてください」
あの日、お父さんに手を取られながら渡った思い出の岩のステージ。
演奏するのは、あなたがこの場所で最初に弾いたあの曲です。
お父さん、聴いてくださいね。
『管弦楽組曲第3番ニ長調BWV1068第2曲アリア」
私は曲を弾きながら、いつしか、お父さんが一緒に弓を手にしているように思えた。
オーナー、私をかばってくれてありがとうございました。
お父さんの友達になってくれてありがとうございました。
琴子さん、厳しくしかってくれてありがとうございました。
琴子さんの言葉で皆がどんな想いで海に向き合っているのか知りました。
私もその想いを忘れずに音楽に向き合っていきます。
そして佑斗さん、ありがとう。
岩に立つ私のところにあなたが来てくれたおかげで今、私は前に進めました。
私、荻島の海を、この海の景色を忘れないよ。
本当に.. ありがとう、私の大切なひと。
目に入った海はやさしく穏やかに、そしてとても光り輝いて——
あぁ.. あれは....
お父さん.. 私にも見えました。
きっと、あれが....
****
荻島から離れるフェリーにいつまでも手を振り続けるみんなが見える。
私は両手を振って大きな声で叫んだ!
「さようなら!! 私の大好きな荻島! さようなら! 」
いつの日か、今度は成長した私の音を聴いてください。
私は大きな舞台に立って 待っています。
「青いトンネルの向こうには~海に奏でる音色~ 完」
青いトンネルの向こうには~奏でるは海の音~早坂蒔絵編 こんぎつね @foxdiver
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