19.かわいいには勝てない

 ……初日から疲れた。主に学校以外の理由で。

 ウサギたちはとっとと部屋から逃げ出し、夕方帰ってきた時は草まみれになっていた。そのまま部屋に上がるのは嫌だったのか、庭から一段上がったサンダルなどを置いてある石の上にちょこんと座り、ブーブーブーと鳴いて俺たちを呼び出した。


「ベッドの上でうんちしちゃだめだろ? わかったか?」


 アル、ラージ、ミラ、モルルンがうるうるした目で俺たちを見つめている。……わかっててやってるよな、コイツら。


「山倉君~、許してあげようよ~」


 先に陥落したのか和人だった。チョロいなオイ。


「まぁ、いいけどな……。アル、ラージ」


 なになに? と言いたげな顔で二匹が俺を見つめた。……あざといけど、すっげえかわいい。俺も大概チョロい。


「俺たちは学校があるから、これから昼間はほとんど部屋にいない。何をされても学校は優先するから、勉強の邪魔とかするなよ。目に余るようなら校長室に連れて行くからな」


 ブー、と二匹が鳴いた。


「校長室、行くか?」


 ブー。


「やだったらもうやるなよ?」


 草などを軽く払い、和人から動物専用のブラシを受け取った。みんなの身体のごみなどをざっと取ってから風呂に行くことにした。

 動物も入れる風呂に行ったら、今日は大盛況だった。マッチョな先輩三人組も脱衣所にいたので俺たちが服を脱ぐ間ウサギたちを預けた。今日は汚れたのでモルルンも連れて来られている。モルルンは風呂が嫌い、というより面倒くさいようだ。フェンの頭の上に気持ちよさそうにぐでっとしていた。


「ああ……なんというかわいらしさ……もっと丁寧に風呂を洗わねばならんな!」

「うむ! もっと気持ちよく使ってもらう為にがんばらねば!」

「早く我らだけの動物が来てくれないものだろうか……」

「……先輩、ありがとうございます」


 マッチョメンズがなんか感動している。和人が思い出したように言った。


「あ。先輩方~、フェンのこと洗ったら乾かすの手伝ってもらってもいいですか~? 忙しくなければ、ですけど」

「大丈夫だとも! 我らに任せてくれたまえ!」


 そこで何故ポージングをとるのか。乾かすのに筋肉がいるのだろうか。いささか疑問だがあえて聞かないことにした。

 和人を睨む。和人はてへっと舌を出した。それは女子がやるからかわいいのであって男子のてへぺろ☆なんて誰得なんだよ。

 洗い場でわしゃわしゃとアルとラージを洗い、フェンを洗うのを手伝った。みんな連れている動物はさまざまで、先輩なのかでかいニワトリと浴槽に浸かっている人もいる。総じて先輩方と一緒に住んでいる動物はでかいようだ。ラージを浅い風呂に下ろし、半身浴ができそうな風呂にアルを抱いて入った。和人は普通の深さの風呂にフェンと一緒に入り、ミラは和人の頭の上、モルルンはやっぱりフェンの上でぐでーっとしていた。


「こんばんは、三匹も動物を飼ってるってのは君か~。初めまして、僕は元木。二年生だよ。こっちは猫のイエロー」


 和人に声をかけた先輩が連れている動物は猫って大きさではなかった。黄色に黒い斑点があり、見た目はヒョウである。


「は、初めまして……近藤です」

「動物は紹介してくれない?」


 和人が僕の方を縋るような目で見た。メガネがないと少し不安になるようなことは言っていた。


「アル、深い風呂に入っても大丈夫か?」


 ぷぅ、とアルが鳴いた。いいみたいだ。俺は浅い風呂で満足そうにしているラージを確認してから和人のところへ行った。


「近藤君」

「山倉君……二年生の先輩なんだって」

「初めまして」

「初めまして、君は……そのウサギだけかい?」

「もう一匹いますけど、何か?」

「いやいや、ちょっと興味が湧いただけだよ。ええと、君の名前は?」

「山倉と言います。近藤君のルームメイトです」

「そうなのか。動物が五匹もいたらたいへんだね。何か困ったことがあったら声をかけてくれ。いつでも相談に乗るからね!」

「ありがとうございます」

「イエロー、そろそろ出ようか」


 と先輩がヒョウみたいな猫に声をかけた。すると湯に浸かって満足そうに目を閉じていた猫が先輩にのしかかった。


「……まだだめ?」

「なーご」


 どうやら風呂に浸かりたいのは猫の方らしかった。面白いと思った。見た目ヒョウなのに鳴き声は確かに猫みたいだった。

 そのまま少し浸かってからラージも回収し、タオルで水気を拭いてから脱衣所へ。マッチョメンズが待っていてフェンの毛を嬉しそうに乾かしていた。


「手伝っていただき、ありがとうございました~」


 和人はご機嫌だった。


「けっこうみんな早い時間に入るんだな」

「そうみたいだね~。いや~、助かった~。今度なんかお礼しなきゃなんだけど、何がいいかな?」

「中村先輩たちって、なんだと喜ぶんだろうな?」


 和人がちゃんとお礼を考えていたことにほっとした。一方的な関係というのはやはり望ましくはない。

 もう風呂に入ってしまったのでウサギたちの夕飯はどうしようかと思ったら、食堂に声をかければ動物たちの分も用意してくれるらしいと聞いてほっとした。

 そうしてウサギたちを部屋に戻してから、俺たちは食堂へ向かった。


ーーーーー

本日の修正更新はここまでです~。また明日~


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