20.寮のごはんは最高だ

 夕飯は魚介と肉、もしくは野菜料理からメインを選ぶということは前述した。


「肉も魚も食いたい時ってあるよな~」

「シェアしよっか~」


 ごはん、汁物だけじゃなくてメイン料理の大盛も頼めるらしい。ここは天国か。ちなみに小鉢とかサラダのおかわりもできる。やっぱり天国だ。

 今日の肉料理は豚肉の生姜焼きで(大好物である)、魚料理はサバの味噌煮だった。なかなか渋い。サバの味噌煮を大盛って言ったらどうなるのだろうと思ったらもう一切れ増量だった。ちなみに大盛にした分やおかわりをした場合は残すとペナルティがあるそうだ。ペナルティはその時々で違うようだが、主に寮の清掃をすることになるらしい。チェックがかなり厳しいらしいので自分の胃に聞きながら頼むことにした。


「サバの味噌煮……おいしいね~」


 和人が幸せそうに顔をほころばせる。


「うん、うまいな」


 確かにおいしい。サバの味噌煮は小学生の頃は苦手だったけど今はとてもおいしく感じる。歳と共に味覚が変わるってこういうことなんだろうか。豚肉の生姜焼きもとてもおいしかった。ほうれん草のおひたしもおいしい。なんでもおいしいのだ。

 一応カロリー計算はされているらしいが、島暮らしは意外と身体を使うので少し多めにしてあるとか。料理を受け取る時に少なめに頼むことはできるので小食な生徒はそれで対応できるらしい。食べ物を無駄にしないってホント大事だと思う。動物は食べる物違うしな。


「あ、山倉君、近藤君」


 女子二人が食堂に入ってきた。そのうちの一人に声をかけられた。河野さんだった。


「さっきぶり」


 同じクラスだったし。


「あの、こんばんは……近藤君」


 河野さんの半歩後ろからもう一人の女子の顔が覗いた。こちらは髪が短く見えたけど、後ろで一つにくくってただけで髪は河野さんよりも長そうだった。和人が一瞬首を傾げて、軽く頷いた。


「さっきぶり。ええとー、ごめんね。僕名前覚えるの苦手で……」


 和人がそう言って頭を掻いた。


「沢井、です」

「山倉君、近藤君、もしよかったら一緒に食べない?」


 河野さんが頬を真っ赤にして言った。女子に恥をかかせてはいけない。


「いいよ。ただ、食べ終わったら戻るけど」

「うん、じゃあ取ってくるね」


 河野さんは沢井さんを促して夕飯を取りに行った。青春かな。


「顔、赤かったね~」


 和人がぼそっと呟いた。僕はぺしっと和人の頭を叩いた。


「いたっ! ぼーりょく反対っ!」


 和人は大げさに頭を抱える。俺は嘆息した。


「バカなこと言ってんな」


 緊張で顔が赤くなってただけだろうに。


「えー」


 じゃれ合っていると河野さんたちが夕飯を持ってきた。


「どうしたの?」

「なんでもないよ」


 そう言ってまた食べ始める。河野さんと沢井さんは丁寧に両手を合わせ、「いただきます」と言ってから緊張したように食べ始めた。別に意識することなんてないのになと思った。


「沢井さんが一緒に暮らしてる動物って何?」


 四人いるのに無言はないだろうと思って声をかけたら、


「……蛇なの……」


 と小さい声で答えた。


「優ちゃんの蛇さん、まだ小っちゃくてかわいいの。うちのハイちゃんの上によく乗ってるのよ」


 河野さんが早口でそう説明した。ハイちゃんて、あのワニだろうか。で、優ちゃんというのは沢井さんのことなのだろう。一応確認してみた。


「河野さん、ハイちゃんて……」

「あ、うん。うちのワニ君。ごめんね、名前とか教えてなくて……」


 河野さんがしまったーというような顔をした。いや、うちもウサギたちの名前は伝えてないけど。


「まだ小さい蛇なんだね。子どもなのかな」


 沢井さんに話を振ってみた。


「そうみたい……あの、山倉君は蛇って嫌い?」


 おずおずといった様子で聞かれ、ちょっと考える。いきなり出てきたらびっくりするだろうが嫌いではない。他の人になにか言われたのだろうか。まぁ、あんまり蛇を大好き! っていう人もいないかもしれないけど。


「毒持ってなければ好き嫌いとかはないかな。うちはウサギなんだ」

「そうなんだ……なんで私の子は蛇だったんだろ……」


 沢井さんはそう言って肩を落とした。ちょっと戸惑った。やっぱり誰かに何か言われたのかもしれない。どうフォローしたものかと思ったら、それまで黙っていた和人が口を開いた。


「えー? そんなこと言ったら可哀想じゃん。蛇よりウサギの方がいいって思ったかもしれないけどさー、それぞれ苦労ってあるよ? ウサギとか草まみれになって帰ってくるし。洗うのたいへんなんだよ~。かわいいけど。蛇も慣れるとかわいいって聞くよ? 少なくとも草まみれにはならないよね? 洗うの楽そうだし~」


 和人がいきなり饒舌になった。びっくりである。沢井さんは目を丸くした。さすがに部屋の中がすぐ糞まみれになるとは言わなかった。食事中だしな。


「そっか、そうだよね。……ありがとう」


 沢井さんはそう言ってはにかんだ。


「今度その蛇さん見せてよ。もしかしたらその蛇さん、僕の方を気に入っちゃうかもしれないけど?」

「ええー、それはやだー」


 和人がおどけた。沢井さんがけらけら笑う。

 和人っていい奴だなーと思った。じーっと河野さんに見られていたのが少しだけ居心地悪かった。

 そんなにじっと見られたら穴が空きそうだなとか、あほなことを考えてしまった。


ーーーーー

レビューいただきました! ありがとうございます。

登場人物表は簡易で今日中に用意します。今後はそちらに本人たち情報を追加していく形にしますのでよろしくー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る