入学しました
18.やっと入学式を迎えた
……そういえばまだ入学してなかったんだよな俺ら。
入学式当日である。Yシャツに臙脂のネクタイ、紺のブレザーという制服姿で校舎へ向かった。コの字型になっている平屋建ての校舎の真ん中は校庭だというのは前述した。西側には体育館がある。校舎の前に掲示板のようなものが設置されており、そこにクラスなどの情報が書かれていた。
「クラス別れちゃったよ~。つまんないの~」
和人が不満そうに言う。俺は笑ってしまった。
「部屋が一緒なんだからいいじゃん」
「そうだけどさ~」
コの字の間が校庭なので、平屋建てとはいえ校舎はけっこう長くて広い。一年生は東側の校舎らしく、一クラス20人ほどで構成されるようだった。
「一クラス20人未満って、考えられないよな……」
そう呟いてクラスに移動した。
入学式には来られる親は参列するらしく、その為朝からVTOL機が行ったり来たりしていた。なので入学式は午後からだった。うちは父が来てくれた。
担任はキツネ顔の男の先生で、稲荷田(いなりだ)というらしい。まんまキツネが頭に浮かんだ。
「みんな昼飯は食べてきたか? 学校が始まれば昼は給食が出るが、今日は寮で食ってきてないとないぞ~」
皆緊張しているらしくうんうんと頷くだけである。もしかしたら同室の子とは離されているのかもしれないなと思った。(寮は基本二人部屋である)
一人ずつ簡単な自己紹介をさせられた。名前と出身地と出身校ぐらい。あとは特技とか、一言。
「山倉将悟です。出身はS県で、N町第二中学校から来ました。特技はありません。ここにきてウサギ二匹と暮らすことになりました。よろしくお願いします」
五十音順で自己紹介だったので皆のを聞いて参考にすることができた。動物と暮らしている生徒はなになにと住んでいると言っていたので俺もそう答えた。
そういえばワニと暮らしている河野さんも同じクラスだった。だからなんだってのはないけど。
うちのクラスは19人で、そのうち女子が6人。動物と暮らしているのは俺を含めて4人しかいなかった。もっといるものかと思っていたがそうではないようだった。動物と暮らしているのは男子2人に女子2人だった。そういうの関係なく仲良くしていければいいと思う。
「注意事項だが、動物はよほどのことがない限り連れてこないこと。連れてきた場合は校長室に行くように。わかったな」
河野さんがおずおずと手を上げた。
「先生、すみません」
「なんだ?」
「その、うちの子が病気になった時とかも校長室に連れて行くんですか?」
「河野はワニだったか。動物が病気になった時は寮監に言えば世話をしてくれるはずだ。まぁ……ここの生き物たちが病気になったのは聞いたことがないけどな」
先生が何故か遠い目をした。今までいろんなことがあったのを思い出していたのかもしれなかった。
「動物は連れて来ない! ってことだけ覚えておけ。どうしようもなかったら校長室に行く! わかったな」
「はーい」
皆で返事をした。
教科書の配布やその他もろもろ配布されたが、今日中に全て持って戻らなくてもいいらしい。寮の部屋には少しずつ持って帰るように言われた。そして入学式開始の時間が近づいてきて、俺たちは体育館に移動した。
体育館の後方には親たちが参列し、俺たちは前の席に腰掛けた。そうしておごそかに入学式が始められた。
式自体は正味1時間ぐらいだった。来賓もせいぜい隣の神津島の村長が来たぐらいで、あとは内閣総理大臣から祝辞があるとして文章を読み上げられただけだった。校長先生は今日も着物姿だった。
「この島の高校に入学してきた皆さんが、楽しく幸せに暮らせることを願っています」
校長の挨拶はそんなかんじだった。好々爺然とした校長の腕には黒猫はいなかった。校長室にいるのか、それとも一緒に暮らす生徒が決まったのだろうか。式が終ってからは教室に戻り連絡事項の確認をするそうだ。その後は体育館に戻って親と話すなり、寮に戻るなり自由だという。
親たちはこのまま体育館に残って校長と話をしたりして帰りの輸送機を待つらしい。なので学校が終ってから俺は急いで体育館へ向かった。
「父さん!」
「将悟か。制服に着られてるかんじだな」
約十日ぶりにあった父親はかっちりした格好をしているだけで特に何も変わってはいなかった。当たり前だけど。
「それ中学の時も聞いたよ」
俺は苦笑した。
「母さんは、実花の入学式に行ったんだ。実花がぶんむくれていたぞ。どうだ、寮生活は?」
「楽しいよ。ウサギが二匹いるんだ」
「ほお……そのウサギって異常にでかかったりしないよな?」
「? 手のひらサイズだよ。少しは育ったけど」
「そうか。いっぱいかわいがってやるんだぞ」
「うん」
一応ここに来るまでに寮は外側から見たらしい。
「畑も立派だったな」
と感心している様子だった。
「子育てにはこういう環境の方がいいんだろうなあ」
「多分ね」
とりとめもないことを話しているうちに父が帰る番になったようだ。
「じゃあしっかりやれよ。返事がこないって実花に言われたぞ」
「あ、うん。わかった。じゃあ父さんも元気で」
「ああ、元気でな」
自衛隊の人について、父親は帰って行った。少しだけ寂しかったけど、寮に戻ったら寂しいなんて言ってられなかった。
「ア~ル~、ラ~ジ~!」
何故かベッドの上がまたウサギの糞まみれになっていた。
「僕もやられたよ~。いなくなって寂しかったのかな~」
和人が苦笑しながらシーツを剥ぐ。制服を脱いで、俺たちはまず洗濯に追われたのだった。
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