17.風呂が好きすぎる過ごし方

 まさか猫が魚を獲る為に自ら海に突っ込んでいくなんて思わなかったよ。しかもバリバリ食べてるし。あ、また海に突っ込んでった。


「もー! ちゃーちゃんってばー!」


 原口先輩が頭を抱えている。


「あーもー、ごめんね。最近海に連れてきてなかったから忘れてたわ……」


 そういうことってあるよなきっと。和人もなんともいえない顔をしていたが、二人でとりあえず首を振ってみた。動物のやることを制御しようったって無理だ。だってあんなにでかいんだし。

 フェンは砂浜でここ掘れワンワンをしている。俺は途中で刈ってきた草をウサギたちにあげながら呆然としていた。

 チトセさんは都合三回ぐらい海に突っ込んでいき、その都度波に乗って帰ってきた。必ず口に獲物を咥えて。あまりにも優秀すぎて開いた口が塞がらない。


「……山倉君、世界って広いんだね……」

「うん、俺もそう思ってるところだよ……」


 世の中知らないことって沢山あるんだなぁとしみじみ思った。


「なーご」


 チトセさんが満足そうに鳴いた。


「……ちゃーちゃん、帰る?」

「なーご」


 甘えた声で原口先輩にすりすりする。チトセさんは海に入ってずぶ濡れにゃんこなので、原口先輩もしっかり濡れてしまった。


「忘れてたわ……次からは合羽を持ってこないと……」


 原口先輩が遠い目をした。


「ちゃーちゃん、帰りましょう。露天風呂にいこっか……」

「露天風呂!?」


 和人が激しく反応した。


「露天風呂があるんですか!?」


 立ち上がって原口先輩に近づく。


「ええ……あ、知らなかった? 寮の西側に柵があるの知らない?」

「ああ、そういえば……」


 西側には女子が住んでいるって聞いたから、歩いてる人から部屋の中が見えないように柵があるのかと思っていた。どうやらそこが露天風呂らしい。


「外からも入れるようになってるから、汚れがひどい場合はそこで洗うこともあるわ」

「そうなんですかー」


 露天風呂はまんま混浴らしい。脱衣所にシャワーもついていてそこで水着に着替えるのだとか。


「えー? 水着で露天風呂~? 邪道だ~」

「そこしかないからしょうがないかも。西側の部屋からは丸見えだしね~」

「それは……」


 西側の部屋は女子の部屋らしいし。


「え~? 女子に僕の裸見られちゃうの~? セクハラだよ~」

「水着はラッシュガード着てもいいわよ」

「なんのための露天風呂!!」


 和人は露天風呂にこだわりがあるらしかった。


「そうじゃなければ川ね」

「川、ですか?」

「ええ、西側に川が流れてるんだけど地熱がそれなりにあるみたいでお湯が沸いてくるところがあるって聞いたわ。入る時は石でその辺りを囲んで入る形ね。でも誰が通りかかるかわからないから裸で入るのは勧めないわ」

「火山じゃないんですよね?」

「火山ではないらしいわ」


 地熱がどんだけ高いのだろうか。そんなことを話しながら寮に戻った。原口先輩はそのままチトセさんと露天風呂に行くらしい。部屋は露天風呂に面しているらしいので外から入って部屋から着替えなどを取ってこられるらしい。便利でいいなと思った。ちなみに俺たちが寮の中から入る場合は、寮の入口から廊下の突き当りまで歩いて行って西に曲がって行くと脱衣所に出られるのだとか。


「今日はありがとうございました」


 和人と原口先輩に頭を下げて部屋に戻った。フェンとは寮の入口で別れた。どこかへ行くようだった。


「わー、もうお昼ごはんじゃん。行こ行こー!」

「ああ、じゃあ行ってくるな」


 ウサギたちを下ろして和人と食堂へ向かった。南側の土地の散策はなかなか面白かった。

 後で洗濯をしなければいけないなと思った。



 その日は洗濯をして問題集をやって過ごした。

 また午後に藤木先輩たちが庭に集まった。日に日に庭に集まる人数は増え、動物に気に入られた生徒もいれば、そうでない生徒もいた。

 翌日露天風呂に行くと、たまたま俺たちだけしかいなかった。少し離れたところにある部屋はみなカーテンを閉めていたが、あまり落ち着かなかったので早々に出てしまった。


「うーん……南側の川に行かない?」


 和人が首を傾げて聞いてきた。


「そうだな。それもいいかもしれないが……三人以上だったっけ……」

「女子は気兼ねしちゃうから困るよね」


 だが残念ながら俺たちにはそれほど知り合いもいない。


「同じ日に来た奴らは?」

「んー……声かけづらいよね~」


 そんなわけで相田先輩と立木先輩に声をかけたら佐伯先輩を紹介された。佐伯先輩は初日お風呂場で出会ったでっかいハムスターを連れていた人である。


「ごめんなー、俺たちあんまり南側の土地には興味なくてさ~」


 やる気なさそうに相田先輩が言う。でも佐伯先輩を紹介してくれただけで十分だった。


「いえ、ありがとうございます」

「こんにちは。よろしくね~」


 でっかいハムスターのリンコは先輩に気持ちよさそうにだっこされている。幸せそうでいいなと思った。


「じゃあ川に行ってみよう。僕も何度か行ったことがあるんだよ」


 何を持って行けばいいかは佐伯先輩に聞いて準備をした。石を動かす為に軍手が必要だし、もちろんバスタオルも、水着も。河原で着替えなどをする必要があるのでレジャーシートも必須。佐伯先輩が食堂にお弁当を頼んでくれたのでちょっとしたピクニックになった。

 川で湯に浸かるピクニック。意味がわからないけどウサギたちも気持ちよさそうだったからよかったと思う。

 そんな風に、俺たちは学校が始まるまでの日々を過ごしたのだった。

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