16.島の南側を散策してみる
しばらく歩いていくと土地が隆起したような場所があった。でこぼこしていて、草ぼうぼうで歩きやすくはないだろうと思われた。
「えーと、ここから東に回って行くと一応獣道っぽいところがあるわ」
原口先輩はいつのまにか地図のようなものを出して見ていた。
「はーい」
言われた通りに原口先輩について行くと、草の丈が短くなっているようなところがあった。そこを通って行く形になるらしい。南側の土地にはあまり木などは生えていないが、草の丈はけっこう高いので見通しは決してよくなかった。
「上から見た時にはもっと歩きやすそうだったけど……」
「そうね。ほぼほぼ草だけだからねー。イメージ的に私たちはサバンナって呼んでるわ」
「ああ、確かにイメージとしてはそれっぽいですね」
和人が足元を気にしながら呟いた。原口先輩が答え、俺は納得した。
「でもこの土地って隆起し始めてから十年も経ってないんでしょ~? こんなに草ぼうぼうになるもん?」
和人は不満そうだ。
「うーん……土壌の塩分がなくなってしまえばなんでも生えると思うけど……そこらへんはどうなんだろうな」
「この島の調査の際に表面の土はほとんど採取したって話は聞いているわ」
「そのせいですかね」
素人だし土壌だのなんだの言われてもわからないからさっぱりだ。
「あー、モルルン。草食べちゃだめでしょー」
和人の風呂敷の間からモルルンが顔を出してそこらへんの草をもしゃもしゃ食べ始めた。なんていうか、すごく怠惰なかんじでかわいいなと思う。
「前に藤木君たちと来たけど特に有害な草は生えてるって言ってなかったから大丈夫じゃないかしら? それにここの子たちってみんな頭いいのよね~」
原口先輩がそう言ってくれたから安心した。
「アル、ラージも草って食べるのか?」
ジャンパーの間に収まっているウサギたちに聞いたら鼻をひくひくさせたから、長い草に近寄ったら収まったままもしゃもしゃ食べ始めた。かわいい。
下の方から切ってウサギたちのおやつに持って行くことにした。きっと俺たちが知らないだけで、ウサギたちには食べられる草ってけっこうあるんだろうなと思う。
「道草を食うってこういうことなのかな~」
和人がまんまなことを言い出した。
ぶふっと原口先輩が噴き出した。なんかツボに入ったらしい。
「道草と言えば、小学生の時とか花の蜜とか途中で吸わなかった?」
思い出して聞いてみた。
「あー、わかる~。オオイヌノフグリとかの近くに生えてたよね~。あれってなんだったんだろ~?」
和人が首を傾げた。モルルンだけでなくミラもどさくさに紛れて草をもしゃもしゃ食べている。小さい毛玉たちが草を食べてる姿ってなんでこんなにかわいいのだろう。
「どういう花?」
「ええと~、なんか葉っぱ? が紫っぽくて、そこに小さいピンク色の花がいっぱいついてたような?」
その説明ではさっぱりわからない。
「それって……ヒメオドリコソウかしら? 学校の近くの畑の周りとかにこの時期生えてるわよ?」
「えええ! じゃあ登校中に蜜吸えちゃう?」
「吸うんだ? ツツジとかはないんですかね」
「ツツジは植わってなかったかも」
「残念」
ツツジもよく花を抜いて後ろから蜜を吸ったなと思い出した。
そんなことを話しながら歩いて行くと、広い池のような場所に出た。
「池?」
「ここの水は海水なの。海底の低くなったところごと隆起したみたいでここは海なのよ」
「そうなんですね。でもそれだと排水とかできないのでは?」
「ちゃんとそこは工事されてるわ。排水の為の水門もあるから大丈夫」
「海水薄まりそうですね」
「そうでもないのよねー。台風がくるとこの辺りまで波を被るからかしら」
「マジですか」
確かにここから海まではそう距離はなさそうだった。草がこんなに長くなければ海が見えるのだろう。
「この池の先って探検できるんです?」
「あんまり草刈りはされてないけどしようと思えばできるわよ。東に行けば海岸があるけどどうする?」
「疲れた~。海辺で休もうよ~」
まだ一時間ちょっとしか歩いていないのだが和人はもうへばったようだ。動物しょってるんだからしょうがないか。
「じゃあ海岸に行きましょう~」
原口先輩に先導されて海辺まで歩いた。砂浜がある。そこまでは歩いて十分ぐらいだった。確かに池からは近かったし、遮るものといえば草だけだから高波がきたら池辺りまで海水がきそうだとは思った。
砂浜の近くの草の上に和人が座り込んだ。
「あーもー疲れたよ~」
「お疲れ」
「あっ、ちゃーちゃんだめよ!」
「え?」
それまでおとなしく原口先輩の横を歩いていたチトセさんがいきなり海に向かって駆けだした。
「えええ?」
「もー! まだ海は冷たいでしょーー!」
つか、猫って水苦手じゃなかったっけ?
「にゃにゃにゃにゃにゃーーーー!!」
波に向かってズドドドドと走って行ったチトセさんはそのまま波にざっぶーん! と飲まれた。
「えええええ!?」
和人と思わず叫んだ。
「あーもう、あの子は~。この時間は何も獲れないでしょうに……」
原口先輩が額に手を当てた。
獲るってことは魚を捕まえるってことか? どうやって? と思っていたら海の中から波に運ばれてチトセさんが戻ってきた。その口になんらかの魚を咥えて。
ここにいる動物ってどうなってるんだろう?
ウサギたちは途中で取ってきた草を一心不乱にもしゃもしゃと食べていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます