15.先輩が飼っている動物を紹介される
翌朝、眠い目をこすりながら和人と食堂へ行ったら藤木先輩とすれ違った。挨拶を交わす。
「ああ、おはよう。あとで届けるからなー」
「……ありがとうございます」
あの人何時に起きてるんだろう。元気だなと思った。
「朝採り野菜ってある意味贅沢だよね。そういえば寮のサラダで使われてる野菜ってどこから供給されてるんだろーね?」
和人は疑問に思ったようだ。
「今藤木先輩が食べ終えたってことは、藤木先輩が世話してる畑からじゃないのかな?」
つってもこの島は国有地だからあの辺の畑から運んできているのではないかと思う。それにしてもいろどりがいい。今朝はサラダをいただくことにした。アスパラのグリーンが眩しい。
「アスパラって買うと高いんだよな」
「山倉君って主婦?」
「栽培してるところを見てただけだよ。手間がかかるみたいだから高いのはしょうがないんだけど」
「そっかー、そうだよね。うちの母親なんか一円でも安いところに行って買うみたいなことしてたよ~」
「それは生活の為だからしょうがないんじゃないか? かかるのは食費だけじゃないわけだし。でも、この学校だと学費も全部国が出してくれるんだからいいよな」
「……山倉君てばおっとなー」
「……そうか?」
なんかおかしなこと言っただろうか。首を傾げた。
朝食を終えて部屋に戻り、洗濯物を集めた。今日は特に動物たちに汚されたものはなかったから普通に洗濯機でいいはずだ。俺が洗濯をしている間に和人が部屋の掃除をしてくれるようだ。朝の洗濯と掃除は交互にやると決めた。ルール作りは必要だ。その後の掃除とか洗濯は各自で行うことに決めている。
部屋のドアがノックされ、藤木先輩の顔が覗いた。
「おーい、持ってきたぞー」
「ありがとうございます」
大きめのレタスが丸ごと二個届いた。
「もっと必要なら声かけてくれ。僕が見つからない場合は寮監にでも言っといてくれればいい。ところで」
「はい」
「南側を見に行くんだって?」
「ええ」
原口先輩から聞いたようだ。あの後会ったのかな。
「平らな、畑に適してそうな土地を見つけたら教えてくれ」
「わかりました」
とは答えたけど、勝手に畑って作っていいものなんだろうか。その時は一応お伺いを立ててから計画するんだろうなと一人納得した。
洗濯をして干してから部屋に戻って支度をする。
今日は和人も一緒なので俺は大きめのジャンパーを首から斜め掛けするようにして、その間にアルとラージを乗せた。二匹でくっついて収まっている姿がとてもかわいい。
「あんまり動くなよー?」
落ちたらたいへんだしと言いながら二匹を撫でる。二匹は目を閉じた。角はそれほど大きくないから撫でても痛くはないが、育ったら痛いんだろうなと思う。
和人は風呂敷を斜め掛けにしてミラとモルルンを間に乗せた。
「これだと持ちやすいけどモルルンがけっこう重いんだよねー。って痛っ!」
モルルンに後ろ足で腹辺りを蹴られたようだった。
「もー、そんなことすると連れていかないよ?」
そう言いながらも和人は笑顔だ。今日はフェンも一緒に行くらしい。寮の入口に向かうと、原口先輩が待っていた。
「おはよう~。今日は大集合ね。うちのちゃーちゃんも紹介するから出ましょう」
「「はーい」」
……ちゃーちゃんはとても大きかった。フェンより一回り? いや二回りぐらい大きくて、でも見た目は白と灰色の短毛のでっかい猫だった。草の上に身体を休め、首だけ持ち上げて俺たちを値踏みするように眺めた。
「……大きいですね」
「でしょう? 出会った頃はこーんなに小さかったのに、こんなに大きく育っちゃったのよ」
こーんなにと言いながら両手を合わせて包むような形を見せてくれた。子猫の時から一緒にいるらしい。なんていうか、大きさ的にはトラと見まごうばかりだ。
「すいません、お名前はちゃーちゃんでいいんですか?」
「チトセって名付けたの。長生きしてほしくて。男の子よ」
俺は少し離れたところから挨拶することにした。
「チトセさん、山倉といいます。今年この島に来ました。うちのウサギ共々よろしくお願いします」
頭を下げた俺につられたように和人も挨拶する。
「あ、えーと……チトセさん、僕は近藤って言います。山倉君と同じく今年この島に来ました。ウサギとモルモットと、オオカミと一緒です。えーと、よろしくお願いします」
チトセさんは満足そうに目を細めた。原口先輩は目を丸くしていた。
「……山倉君て、動物にもすごく丁寧なのね?」
「? 一緒に暮らしてるんでしょう? 家族じゃないですか。挨拶するのは当然です」
かつて住んでいた山の家には、今は別の人が住んでいる。その人が飼っているニワトリたちを見て、教えてもらったことだ。それ以来、どの家のペットにも同じように挨拶することにしている。バカにされることもあるけど、だったらなんで一緒にいるのだろうと思うし。
「……それって素敵ね。行きましょうか」
原口先輩が笑った。和人が頭を掻いた。何故かバツが悪そうな顔をしている。
原口先輩にチトセさんが並び、チトセさんの少し後ろをフェンが歩く。僕たちはその後ろからついて行くことにした。南側の土地がどうなっているのか、とても楽しみだった。
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本日の修正更新はここまでですー。また明日~
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