14.下準備は大事らしい

 寮に戻ってまずは和人と昼飯を食べに行った。


「桜は見られたの~?」

「山の上からそれっぽいのは見つけたんだけどな」

「ふーん。よかったじゃん」

「でも確証が持てないから森に下りてみたんだけど、遭難しそうだったから帰ってきた」

「そっかー、帰ってきて正解だと思うよ。山倉君って意外と慎重だよね」

「山だの自然の怖さだのってのは叩き込まれてるからな」


 俺は苦笑した。


「また行くの?」

「寮監に聞いてから考えるよ」


 食べ終えてから原口先輩と合流して寮監に聞いてみることにしたのだ。島の南側は散策してもいいらしいが三人セットじゃないとだめだっていうし、だったら北の森だって三人以上でないといけないはずだと思ったのだ。


「山倉君は行動派だなぁ」

「せっかくここまで来たんだしってのはあるかな。学校始まったら勉強がメインじゃん。散策するなら今のうちかなーって」

「……正しい」


 和人は目から鱗が落ちたような顔をした。

 せっかくここにいるんだから引きこもりはもったいないと俺は思っている。そこらへんは人の自由だから、引きこもっている人を連れ出す気はないけど。


「桜、見に行くなら僕も行っていいかな? 足手まといになっちゃうかもだけど……」

「急いでるわけじゃないから大丈夫だよ」


 そんなわけで昼食の後寮監に伺いを立てたら却下された。


「あっちは全然手入れできてないからダメ」

「「ええ~~」」


 和人とブーイングだ。


「五月ぐらいになったらキャンプするからそれまで待て」

「五月じゃ桜散っちゃうじゃないですか!」


 寮監は面倒くさそうな顔をした。


「行くなら遭難しても大丈夫なように三日分の水と食料、上着とタオルその他、チョークとめちゃくちゃ長いロープ用意してから十人ぐらいで行きな。草木が繁茂しすぎてあそこの森は昼間でもあんまり日が差さないはずだ」

「……遭難前提なんですねー」


 原口先輩が苦笑した。さすがにそれでは断念するしかなかった。

 確かに、まだ4月に入ったばかりなのに森は暗かったと思う。常緑樹が多いのかもしれないと思った。


「桜はともかく椿の花は見なかったのか? ってもう椿は終りか」


 やる気なさそうに寮監が言う。そういえば椿も常緑樹だったなと思い出した。


「この島って椿多いんですか?」

「海岸沿いの木はほぼ椿のはず……学校始まってから教師にでも聞け」

「はーい」


 森の木のほとんどが椿の木ということはないだろうが、椿の木もあるんだろうな。そういば伊豆大島って椿が有名だったはず。他の島は知らないけど。


「なんだー、せっかく散歩に行く気になったのに~」


 和人が残念そうに言った。


「そうねぇ……じゃあ明日にでも南側の散策にでも行く?」


 和人が俺を見た。俺次第らしい。


「ええ、南側も興味あります。三人以上でしたよね」

「近藤君も行けば三人になるよ」

「山倉君が行くなら行きます」

「じゃあまた明日ね~」


 ということで明日は島の南側を回ることに決まった。けっこうな広さがあると聞いているから何日か楽しめるかもしれないと思った。


「歩きづらそうだから底が厚い靴がいいかなー」

「重くない方がいいよな」


 部屋に戻ってから問題集の続きをやった。それにしても俺たちって真面目だよな。他の連中はどう過ごしているんだろう。

 今日も今日とて窓の向こうに藤木先輩の姿が見えた。和人も気付いて窓を開ける。どうやら生徒たちが来るだろう入学式の前日まで毎日同じことをするらしい。

 藤木先輩は相変わらず場を仕切っていたが、今日は動物が側に寄っていった生徒はいなかったようで、みな肩を落として寮の入口の方へ戻っていった。そんなこともあるんだなと思った。


「動物たちに選ぶ権利があるからね~。該当者なしもやむをえないんじゃない?」


 モルルンを頭に乗せたまま和人が言う。


「……それ、重くないか?」

「まだそんなに重くないよ。かわいいよね~」


 ならいい。

 動物たちにとっての基準はなんなんだろう。藤木先輩は自分の為の動物を求めているけどまだ見初められてはいないようだ。稲村先輩も羨ましそうにしている。きっと二人とも自分の動物が来たら大事にするだろう。


「ああでも、こっちの方にじゃこない動物もいるんだっけ?」

「みたいだね~。人見知りなんじゃないかな」

「そしたら出会わない可能性もあるのか」

「それもあるだろうね。まぁ、その動物がよければそれでいいんじゃないかな」

「だな」


 求めるのは人ばかりか。


「ん?」


 足元でアルとラージが俺のズボンの裾をもぐもぐしていた。かわいいけど、かわいいけど。


「アル、ラージ……近藤君、おやつもらいに行こう」

「ああ、確かにそんな時間だねー。モルルン、頼むから髪食べないで~」


 ガジガジされてズボンの裾がほつれていた。これは服の替えを親に頼まないといけないかもしれない。ほつれた部分をハサミで切った。和人はモルルンに髪をぐしゃぐしゃにされていた。それをどうにか直し、俺たちは気分転換に畑へ行くことにした。

 また藤木先輩がいて、今日は小松菜をくれた。少し部屋に野菜をストックしておきたいと言ったらなんだったら毎朝届けてくれるという。さすがに毎朝は遠慮した。


「朝採りの野菜は最高だぞ!」

「助かります」


 ……でも、学校始まってもこんなにのんびりおやつなんかもらいに行けるのかな。勉強はしっかりしなければと思った。

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