11.動物たちのおやつは畑へもらいに行く
ウサギの糞を表のごみ箱に捨てて問題集を始める。少ししたら和人に声をかけられた。
「ウサギのおやつをもらいに行こう」
「ああ、うん」
そういえばウサギたち、昨日は人参もらって食べてたなと思い出した。
「どこへ行くんだ?」
「すぐそこの畑だよ~」
「わかった」
和人はもう真っ白いミラとモルルンをだっこしている。フェンは今出かけているから一緒には行かないようだった。風呂敷は洗濯してランドリー室の前に干してあるから支えがない。
「風呂敷持ってくればよかったな」
「たぶん必要物資で希望を出せば届くと思うよ」
「でもそんな金ないぞ」
「国が出してくれるみたいだよ~」
眉唾だな、とは思った。でも複数の動物がいるなら支えて持ち運べるものが必要だと思ったので寮の入口で希望を出すことにした。まだちっちゃいだけあって両手に二匹は収まってしまう。でも大きくなったらそうもいかないだろう。それにこの角の問題もあるしな。
「風呂敷ってなんに使うの?」
「斜め掛けにしてコイツらを納めるんです。移動する時に必要かなって思いまして」
寮監はかりかりと頭を掻いた。
「たぶん、どーせすぐおっきくなっちゃってそれどころじゃないと思うけどねぇ。だっこ紐みたいなもんか。風呂敷はなんにでも使えそうだから希望出しておくよ。二枚?」
和人と顔を見合わせた。
「洗い替えがほしいのでできれば四枚で」
「OK」
希望は出してもらえたからそのまま寮を出て畑に向かった。林の道を進んでいくと、さっき会った女の子―河野さんがいた。
「どうしたの?」
「……あ……ええと……道に迷っちゃって……」
和人が首を傾げた。
「一本道だけど?」
「その、ワニを見失っちゃって……」
「え?」
和人の首が更に曲がった。そのまま更に曲がったら倒れてしまいそうだった。
「うーん。みんなずっと部屋にいるわけじゃないから……部屋は決まったの?」
「うん、決まって……連れて行ったの。片づけをしている間にいなくなっちゃって……せっかく寄ってきてくれたのに、どうしよう……」
河野さんの目が潤み始めて、俺は狼狽した。
「じゃあ部屋の窓だけ開けておいたら戻ってくると思うよ? ワニって多分肉食でしょ? ごはん獲りに行ったんじゃないかな。ここの動物って基本自力でごはん探しにいくみたいだよ」
「そ、そうかな……ありがとう~。戻るね……あ、でもどっち?」
「僕たちが来た方向が寮だよ~」
「ありがとう~」
河野さんは走って戻っていった。
「方向音痴?」
「かもしれないね~」
どうやらおっちょこちょい担当のようだ。そのまま歩いて行くと林が切れて畑が広がった。何人か畑にいるのが見える。
「動物用の畑はこっちだよ~」
和人に案内されて西の方に向かうと麦わら帽子を被った藤木先輩がいた。
「ああ、マザコンとウサギの飼主か。人参でいいのかな?」
「マザコンで定着させないでくださいよ~」
藤木先輩は和人の抗議を無視して畑から人参を引っこ抜いた。するとそれを待っていたかのようにウサギたちとモルモットが下りた。
「おっと、この人参は一撫でさせてくれないとあげられないなぁ~、ごっ!?」
「えええええ」
藤木先輩が畑に置いた人参を持って挑発するようなことを言った途端、アルがぴょん! と跳ねて藤木先輩の顎を蹴り上げた。その拍子の藤木先輩が人参を離す。俺は慌てて後ろに倒れそうになる藤木先輩を支えた。
「だ、大丈夫ですか!? こら、アルッ!」
「だ、大丈夫だとも……今日も暴力ウサギは健在だな、ふふふ……」
藤木先輩はたたらを踏んだがすぐに体勢を戻し、自分の顎を撫でた。アルはそっぽを向いて人参をぼりぼり食べている。他のウサギとモルモットたちも人参をもりもり食べていた。俺はアルを抱き上げた。
「こらっ! ちゃんと謝りなさい!」
「いいのだウサギの飼主君。これは動物たちからの愛! なのだよ」
「藤木先輩ってへんだよね~ははは~」
「そんなわけにいきませんからっ! こらっ、アル、逃げるな~~~!」
アルは人参を咥えたままぴょんと下りると、そのまま逃げて行ってしまった。まだ小さいとはいえその逃げ足は早い。しかも畑の中を走り回るからとても追いきれなかった。
「くそ~~~」
「山倉君、大丈夫だよ。ほっとけば戻ってくるよ~」
「……そうなのか」
「そうだぞ。動物たちは飼主になる者を選んでいるのだ。それにせっかく選ばれたのだからもっと君は寛大でいい。僕は餌を準備できるだけで幸せなのだから!」
「……わかりました。でもうちのアルがすみませんでした」
藤木先輩が動物に対してはマゾだってことはわかったけどけじめなので頭は下げた。俺たちは改めてウサギをだっこして寮に戻った。ラージは我関せずで二本目の人参をぼりぼりと食べている。アルの分も二本目をもらってしまったのでそれはポケットに入れた。後ろからこそこそとアルが付いてきているのがわかったが気にしないことにした。でも部屋に戻ったら話はしないとなと思った。
「蹴ったらだめだ」
ということを部屋にこそーっと戻ってきたアルをだっこして伝えた。撫でながら「ダメだぞー」と言うとぷぅぷぅぷぅと満足そうに鳴いた。話聞いてないなコイツー。でもかわいいなぁ。早くもダメ飼主になりそうだ。
そんなこんなで、濃い二日目は過ぎて行った。
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