9.風呂に行ったら筋肉だった(意味がわからない)

 動物とも一緒に入れる風呂は24時間開いているという話だけど、清掃とかはどうなっているんだろうと思ったら、なんか脱衣所にマッチョが三人いた。思わず回れ右をしたくなったけど捕まってしまった。


「新入生だね? 私は中村という。コイツは村中、そしてコイツは中谷だ」


 しりとりかよと思った。誰が誰だか間違えそうな苗字だ。


「ふむふむ。君と一緒にいるのはウサギかい? ウサギさん方、触らせていただくことは可能だろうか!」


 マッチョが頭を下げてウサギさんとか言ってるのってなんか。いや、別に悪いわけじゃないけど。ウサギたちはうっすらと目を開けるとまた閉じた。別にそっぽも向かないからいいのかもしれない。


「撫でてもいいみたいですよ?」

「そうか。では失礼して……」


 マッチョ三人に囲まれて腕の中のウサギを撫でられる図ってなんかシュールだよな。


「あのー……すみません、うちの子たち砂まみれなんで洗いたいんですけどいいですか?」

「おお! すまん。風呂はキレイに掃除してあるから使ってくれ」

「ありがとうございます。先輩たちは風呂掃除の当番? なんですか?」


 服を脱衣所で脱ぐ間ウサギたちをマッチョに預けた。マッチョメンズはウサギたちを抱いて蕩けたような顔をしていた。


「ああ、混浴風呂の掃除は希望者制でな。希望者がいない時は我らが率先して掃除を行っている」

「混浴風呂? 希望者制?」


 聞きなれない単語に首を傾げた。


「動物と一緒に入れる風呂を我々は混浴風呂と呼んでいるのだよ。まぁ、通称とでも思ってくれ」

「はぁ……」


 やな通称だな。


「動物と一緒の者でないとこの風呂には基本入れないのだが、清掃をした者はその日こちらの風呂に入ることができるのだ。だから希望者が多くてね……」

「えええ。そんなにこちらの風呂って入りたいものですか?」

「風呂に入る動物たちを思う存分眺めることができるし、清掃したと言えば触らせてくれたりもするんだぞ! 最高じゃないか!」

「ってことは、先輩方は動物と一緒に暮らしてはいないんですね?」


 三人は一気に沈んだような顔をし、肩を落とした。


「残念ながら……我らには寄ってきてくれなかった……。校長が新たに拾ってきてくれればまたチャンスが生まれるのだが……」


 この島に来た人たちって本当に動物が好きなんだなぁと思った。

 マッチョメンズからウサギを受け取ってわしゃわしゃ洗う。砂のじゃりじゃりがなくなり、それはそれで気持ちよさそうだ。ラージを一番浅い風呂に下ろして、俺は腰ぐらいまでの風呂にアルと浸かった。そんなに歩いたつもりはなかったのだけど風呂に浸かったら足がじーんとした。運動不足っぽいな。アルは気持ちよさそうにぷぅぷぅぷぅと鳴いている。かわいい。


「ウサギさん、触れてもいいだろうか?」


 マッチョメンズがラージに迫っている。怖い。ラージは薄目を開けて、また気持ちよさそうに閉じた。


「いいみたいですよ」


 そう声をかけたらマッチョメンズはそーっとそーっと何度もラージを撫でた。三人のマッチョに囲まれて撫でられるウサギって……。とにかく本当に動物が好きみたいだった。

 風呂から出ると、


「何か困ったことがあったらいつでも言ってくれ。我らにできることがあればなんでも手助けしよう!」


 と、何故かポージング付きで言われた。ちょっと可哀想になった。


「ありがとうございます。お気持ちだけいただいておきます」


 風呂に入って身体の疲れは取れたけど、精神的に疲れた気がした。

 部屋に戻ると、和人は机に向かっていた。


「ただいま~」

「おかえり~」

「何やってんの?」


 声をかけたら冊子を見せてくれた。


「問題集?」

「うん、僕あんまり頭よくないから勉強しとかないとなんだよ~」

「……そのやる気があるだけえらいと思うけどな。ところで」


 なんか和人の口元が緩んでいる気がする。


「風呂場にマッチョが三人いたんだけど、知ってる?」

「え? あの先輩たち今日もいたんだ? ホント動物好きなんだね~」


 やっぱり知っていたらしい。できれば教えてほしかった。


「すっげえ疲れたんだけど」

「わかる~。でもあの先輩たちがいるとフェンを乾かすのとか手伝ってくれるから便利だよ~」

「便利屋扱いスンナ」


 まぁ確かに手伝ってはくれそうだ。使われてるけど、先輩たちは好きでやってるからいいんだろうな。


「おなかすいたからお昼食べに行こう~。待ってたんだよ」

「ああ、すまん。じゃあ行くか」


 ウサギたちに昼飯を食べてくると言って和人と食堂へ向かった。お昼ごはんは肉メイン、魚メイン、野菜メインの三種類が用意されていた。その他にも副菜なども選べるらしい。なんとも至れり尽くせりである。

 肉はイノシシ肉の味噌漬け炒めだった。


「イノシシ、最近食べてないな」

「え? 山倉君はイノシシ食べたことあるの?」

「うん、山育ちだっつったろ? 何度か食べたよ」

「へー。やっぱ食べるんだねー」


 そういう和人は魚介にしたようだった。魚というか、黒っぽい殻の貝のブイヤベースである。


「あー、マッスルだー」

「はい?」

「うーんと、紫貝? ムール貝って言えばわかる? この島で獲れるんだよねー」


 マッスルっていうから筋肉かと思った。少し料理を交換して食べた。ムール貝、肉厚でぷりぷりしてておいしかった。英語でマッスルっていうらしい。なんとも紛らわしいなと思った。(スペルは違います)

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