7.オリエンテーションに付いて行ったら

 ここに来た生徒は基本動物が好きで、虫もそれほど嫌がらないみたいだった。さすがにGを見た時は女子が飛び上がっていたが、先輩がとっとと退治していた。南の方の島なせいかけっこうでかかった。


「Gってハエとか蚊ほど害があるわけじゃないんだけど増えるからねー。外で繁殖する分には文句言わないけど建物の中は困るかなー」


 ということらしい。あとはもうイメージ的なものだろう。ちなみに飛び上がった女子もびっくりしただけだったらしく、普通に退治するようだ。逞しくていいことだと思う。でも他の人が駆除してくれるならそっちの方がいいらしい。そりゃそうだよな。

 洗濯が終っていたので外の物干し竿に服を干し、シーツとスウェットは回収して部屋に戻った。とにかく足元には気を使う。ウサギの糞は乾燥してコロコロしているので片付けが楽なようだ。ちりとりで簡単に掃いて窓の外のごみ箱に捨てた。モルモットの糞も同様に。フェンは庭の更に向こうでトイレはしてくるらしい。動物を飼うって何気にたいへんなんだなと思った。

 コンコン、とノックされて顔を出すと、昨日会った藤木先輩だった。


「おはよう~ウサギの飼主共。これからオリエンテーションを兼ねて島の中を案内するけどどうする? あ、ウサギも連れて来てもかまわないけど世話は自分たちでやってくれよ~」

「あ、はい。参加します」


 和人はすでに昨日の午前中に参加済だそうだ。というわけで俺だけ行ってくることにした。学校が始まるまであと十日程あるが、その間どうするのかと和人に聞いたら一応希望者には中学の復習みたいな問題集が配られるのでそれをやったり、島の中を散策してもいいらしい。


「前日とかに慌ただしく着くのもいるみたいだけど、そういうのは大体早めに退学してっちゃうって聞いたかな」

「そっか」


 それも寂しい話だ。


「アル、ラージ、俺これから島巡りに出かけるけどお前たちはどうする?」


 床でちょうど糞をした二匹に声をかけたら二匹とも俺の両の足の上に乗った。かわいいけどそんなことされたら動けないだろーが。


「アルもラージも山倉君のこと大好きだね~」

「じゃあ一緒に行くか」


 とはいえ両手が塞がるのはいただけない。かといってリュックの中に入れるわけにもいかないしな。うんうん唸っていたらでっかい風呂敷を和人が出してきた。


「これをさ、斜め掛けのバッグみたいにしてこの間にウサギを載せてみたら?」


 風呂敷を斜めに使うと確かに俺の上半身を斜めに一周した。その間にウサギを二匹載せたらしっくりきた。


「おお! 近藤君頭いいな、借りてくな~」

「汚したら洗濯はよろしくね~」

「OK~」


 広間にみんな集まっているというので向かった。昨日一緒に来た面々と、前のオリエンテーションに参加していなかった生徒がいた。昨日俺たちを案内してくれた藤木先輩、相田先輩と、そして女子の原口先輩が一緒だった。立木先輩は午後新たな生徒を迎えるようだ。


「じゃあまずは学校に向かってしゅっぱーつ!」


 藤木先輩の号令に従って寮のロビーを出て、庭をぐるっと回った。


「あ、このへんは動物たちの排泄ゾーンだからあんまり近寄るなよ~。後で簡単な地図を渡すから印をつけておくといいぞ」


 庭の外側というのだろうか、庭から10mほど離れた、木々が少しまばらなところが動物たちのトイレになるようだ。その範囲はけっこう広く、葉っぱがいっぱい落ちている。ウサギはぴょんと下りてそこで糞をしたようだった。他の動物連れの人の動物もそこで立ち止まったからそういう場所らしい。なんつーか躾けられてるよなと思った。


「一応定期的に葉っぱやら枯草やら撒いてかき回してるから糞まみれになることはないだろうけど、気をつけてなー」

「はーい」


 みんなで返事をする。

 ということは好気性発酵をさせているみたいだ。まだ涼しい季節ってことはあるけどほとんど臭わないし。


「藤木先輩。ここにある糞は堆肥として使ってるんですか?」

「ああ、よくわかったな。これから案内する畑でも使ってるよ」

「そうなんですか。ありがとうございます」


 庭からまばらに石が敷いてある道を歩いて行くと林が途切れ、やがて両脇に畑が現れた。けっこうな広さの畑である。


「うわあ……」

「ここが島で作っている畑だ。一か所端の方に不思議な畑があるが、それ以外は普通のだ。僕はここで畑の世話をしている。土いじりがしたい奴は是非参加してくれ。一年中気候が温暖だからけっこうなんでも採れるぞ!」


 藤木先輩が胸を張ってそう言った。


「誰でも参加できるんですか?」


 女子が二人ほど食いついた。


「ああ、力仕事が主になってしまうが誰でも大歓迎だよ」

「じゃあ参加させてください!」


 というわけで畑を世話する要員が増えたようである。よかったよかった。それにつられてか男子も何人か手を上げた。


「ああでも、米作りには向いてないから稲作はやってないからな~」

「はーい」


 土壌とかの問題もあるようだ。

 どこまでも広がっているかと思った畑の道を北に向かうと、また林の中に入り、その向こうに校舎があった。林のおかげで畑からは校舎が見えなかったらしい。平屋建ての校舎がコの字になっており、その間が校庭らしかった。


「ここが我らの学び舎だよ、諸君! 創立の年に入ってきた生徒は現在三年生になっていて15名、二年生は47名、そしてなんと今年入ってくる予定の生徒は132名だ。全国からこれだけの生徒が集まってくるのはとても喜ばしいことだ。ちなみに女子は各学年共に三分の一弱らしい。恋愛にうつつを抜かしたい生徒は早めに目当ての女子を確保するように!」


 ビシッ! と天に向かって指さす藤木先輩が面白いなと思った。


「藤木君、それはどうかと思うけど?」

「ええい! でっかいにゃんことラブラブしている原口は黙っていろ!」

「八つ当たりしないでよね」


 原口先輩は動物と一緒に暮らしているようだった。


「僕たちが一般的に暮らすのはこの狭い範囲だが、島には更に南側のエリアがある。南側のエリアはここ五年程前に活動を終えたと言われているエリアで、草木は生えていてもまばらだしとても歩きづらい。ところどころに水たまりがあり、海に近い方ほど危険だ。もし南のエリアに足を踏み入れる際は必ず三人以上で行動するように。以上、解散」

「えー……」


 たったこれだけかよーとブーイングである。藤木先輩、「まずは」って言ってなかったかな。


「僕はこのまま畑に向かうが畑仕事をしたいならついてきてくれ。道具がある場所や注意事項を説明するから」


 畑仕事を手伝うと言った生徒たちはそのまま藤木先輩に付いて行った。

 俺はどうしようかな、と布の中にいるウサギたちを撫でた。二匹とも満足そうに目を細めてぷぅぷぅぷぅと鳴いている。この子たちと一緒なら大丈夫そうだった。


ーーーーー

本日の修正更新はここまでですー。また明日~

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