6.ウサギは話せばわかってくれるか否か

 翌朝、ベッドのシーツの上がウサギの糞まみれになっていた。


「……近藤君、これどうしたらいいかな……」


 朝から呆然として和人の方を見やった。和人は起きていて、苦笑した。


「そーっと動いて、そう、糞を踏まないようにしてー」


 指示されるがままにそーっとベッドから下り、シーツをそっと剥した。替えのシーツは和人がもらってきてくれた。


「ありがとう」

「外でシーツバサバサしてこよう。そしたらランドリー室に案内するから」

「助かる」


 和人と窓から表に出てシーツをバサバサと払った。俺のスウェットにも少しついていたようなので和人が払ってくれた。ありがたい。


「着替えたらランドリー室に行くけど、その前にアルとラージにお話しないとね」

「ああ、そうだな」


 お話っつったって聞いてくれるものなのか? と首を傾げた。和人は俺にアルとラージを床に置くように言い、二匹の目の前に俺、和人、ミラが座るようにした。


「アル、ラージ、ベッドの上でうんちはだめだよ。ほら、山倉君もちゃんと言って」

「ああ、うん。アル、ラージ。ここの上でうんちもおしっこもだめだ。わかったか? おしっこは外でしてくれ。うんちもできれば外でしてほしいけど……」


 顔を低くして話しかけると、二匹の耳がへにょんと垂れた。かわいくてだっこしたくなったけど今は我慢である。


「アル、ラージ、わかったか? 頼むな」


 わかってはいないだろうけどなんか言われてるってことは感じるようだった。二匹はぴょんぴょんと近寄ってきて俺の手に頭を擦り付けた。


「はい、じゃあ叱るのはおしまーい。山倉君、朝ごはん食べに行こう」

「あ、ああ……」


 先にランドリー室に洗濯物を運び、動物用の洗濯機に汚れたシーツとスウェットは突っ込んだ。そっちの方が洗浄力が強くて乾燥までしてくれるらしい。昨日着た服は和人と一緒に洗う。こっちは自分たちで外の物干し竿に干すらしかった。一応ランドリー室は各階に10台ずつ置かれているというからすごいなと思った。この寮って、全部で何人ぐらい住んでるんだろう。(女子の部屋側にもランドリー室はあるそうだ)

 さて、朝食である。動物たちは一応広間兼食堂に入るのは禁止らしい。衛生上の問題だろう。もちろん例外もあるようだった。

 朝食は長いカウンターが出されて、そこから好きなものを取って行くというスタイルだった。ビュッフェスタイルというんだろうか。そこまで品数はなかったけど。昨日一緒に来た子たちは固まって食べているのが見えた。一人が気づいて手を上げてくれたのでこっちも手を上げる。

 そういえば和人の時は何人で来たんだろう。


「近藤君が来た時は何人で乗ってきたんだ?」

「……確か五人、だったかなぁ。僕のところにフェンとモルルンとミラが集まってきちゃったからすぐ疎遠になっちゃったけど……」

「あー……」


 言われてみればそうかもしれない。俺は和人がいたから心強いけど、和人は僕より二日早く来ただけだもんな。


「一気に三匹寄ってきたのか?」

「んー……モルルンとミラは早かったかなー。フェンはねー、校長先生が連れてきたんだよ」

「へえ」


 校長先生っていうと、昨日飛行場まで来たおじいさんだろうか。


「あ……フェンのことは後で話すねー」


 和人は誰かを見つけたのか、口を濁した。和人が見た方を見ると、四人ぐらいが連れ立って来ていた。ああ、あれが、と思った。


「あれー? 近藤君友だちできたの?」


 そのうちの一人が近づいてきた。


「ルームメイトだよ」

「へー、ってことは近藤君みたいに動物に好かれてるの? いーなあー。あ、僕は田宮っていうんだ、よろしくねー」

「……俺は山倉。よろしく」


 背の低い、どちらかといえばかわいいと言われるかんじの少年は田宮と名乗った。多分コイツ自分がかわいいのわかってるよな。和人は美少年だけど、コイツは自分の仕草でかわいく見せてるみたいだ。


「山倉君の動物って何?」

「ウサギだよ」

「そうなんだー。僕はおっきい犬とかに好かれたいんだけどさー、うまくいかないよねー」


 それを聞いてなんか納得した。


「そっか」


 俺は毒のある虫とかに好かれなければそれでいいけどな。朝飯を食べて席を立った。


「田宮君は動物には?」

「残念ながら! でもなんかまだ動物も一度に集まってくることはないみたいだから~」

「そうなんだ?」


 そう考えるとまだ出会ってない動物もいるんだろうな。


「近藤君!」

「……なに?」

「僕は絶対に君より大きい犬に好かれるようがんばるから!」

「……うん、がんばってね」

「くぅ~! その余裕がムカつく~!」


 そう言いながらも田宮はにこにこしていた。


「……あとで行くから触らせてね?」

「フェンに聞いてくれ」


 田宮はそのままこちらを窺っている三人に合流した。和人を妬んでいるのかと思ったらそうでもないみたいだった。


「……面白い奴だな」

「そうかな~?」


 和人は首を傾げた。みんなまだ距離感がつかめてないだけなんじゃないかなと思う。だって田宮を含めた四人がちらちらとこちらを見ている。その視線は嫌なかんじじゃなくて、どう声をかけたらいいのかわからないというように見えた。それを言ったら昨日一緒に来た連中もだ。

 触らせる触らせないはこっちで決められることではないからこちらからは声をかけづらいけど、せっかくここまで来たのだから少しは仲良くできたらいいなと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る