5.ウサギの名前が決まった

 ウサギたちを洗ってみたら、気のせいじゃなくて本当に額に突起のようなものがあることがわかった。


「……角?」

「角っぽいよね~」


 風呂場には動物用シャンプーまであっていたれりつくせりだなと思った。これって完全に動物と暮らせってお膳立てされてる気がする。

 お風呂はとても浅め(5cmぐらいしか湯が張ってない)のと、腰ぐらいまでの深さの、そして人が入るのにちょうどいい風呂と三か所あった。風呂好きの動物が入れるようになんだろう。


「ここってさ、本当に動物の為に作られてるんだな」

「うん、そうみたいだよね~」


 和人は人が浸かるのにちょうどいい風呂に大きい黒い犬のフェンと浸かっていた。和人の頭にウサギがぐで~と乗っかっている。ちょっとでも頭を振ったら落ちてしまいそうだが、絶妙なバランスでうまく乗っかっているようだった。

 ウサギたちを抱えてどうしようかと思った。浅めのところに牛柄のウサギを下ろすと、そのまま気持ちよさそうに浸かったけど、橙の毛並みのウサギは俺の腕の中に戻ってきた。


「甘えん坊だなぁ。俺と一緒がいいのか?」


 ついつい顔がにやけてしまう。自分でもデレデレしているのがわかった。

 腰ぐらいの深さの湯に浸かり、少しだけウサギも浸からせてみた。ウサギは満足そうにぷぅぷぅぷぅと鳴いた。だめだ、すっげえかわいい。これぐらいの湯じゃほとんど温まらないけど俺がんばる。


「山倉君メロメロだね~」

「死語だろ」

「ええ~」


 そうして浸かっていると誰かが入ってきた。


「あれ? 新入生?」


 先輩なのだろう。その人の腕の中にいた動物のサイズに俺は絶句した。


「あ、この子? すっごく育っちゃってさ~。実はハムスターなんだけどね」

「は?」


 俺と和人の声がハモッた。

 ハムスターって普通手のひらサイズだよな? こんな、両腕で抱えるようなサイズじゃないよな?


「ここの島にいる動物はみんなこれぐらい大きくなるんだよ。そこのオオカミだってもっと大きくなると思うよ」

「オオカミ!?」


 また和人と俺の声がハモッた。


「近藤君、フェンって犬じゃないのか!?」

「僕もでっかいワンちゃんだと思ってたんだけどね~」


 そう和人が言うとフェンがグルル……と唸るような声を出した。


「ごめんごめん。オオカミさんだったんだね。そんなに怒らないでよ」


 和人が宥めるようにフェンの耳の後ろをゆっくりと優しく撫でた。するとフェンはすぐにおとなしくなった。和人ってすごいなと思った。

 その先輩は佐伯と名乗った。動物によっては風呂が嫌いな子もいるのであまりここは使われていないという。


「汚れた時に洗うぐらいじゃないかなぁ。うちのリンコはお風呂好きだから一緒に入るけどね」

「そうなんですか」


 風呂ではあまり先輩方との付き合いはできそうもない。でも風呂好きなのはいいことだと思う。俺も風呂好きだし。

 ここに来てから驚くことばかりだ。

 脱衣所にはあまり音がしないドライヤーなどもあって、至れりつくせりだなと思った。ウサギたちをわしゃわしゃ拭いて遠くからドライヤーをかける。熱かったらかわいそうだし。

 フェンは風呂場から出る前に盛大に身体を振って水滴を飛ばしていた。気持ちはわかるけどちょっと迷惑だなと思った。


「ごめん~、山倉君手伝って~」


 フェンの身体を拭くのがたいへんなようなので手伝った。ここまで大きいと乾かすのも一苦労だ。でももっと大きくなるのか。かなりの手間だなと思った。

 ようやく部屋に戻ってベッドに倒れると、ウサギたちがいそいそと胸に乗っかってきた。かわいい。


「近藤君、ウサギの名前ってなんていうの?」

「んー? ミラだよ~」

「へえ。由来とかあんの?」

「角みたいなのがあるからさ、アルミラージみたいじゃん」


 アルミラージ、っていうと……。


「インド洋に浮かぶ島に住むウサギだっけ?」

「よく知ってるね~」


 確かでっかいウサギで、額の角は2フィートもあるんだっけ。1フィートは確か0.3048メートルだったかな。すごい長さの角だ。こわっ。


「でもアルミラージだと猛獣だよな」

「そうだね~。でもカッコイイじゃん」

「まぁ、確かに」


 しっかしアルミラージとか厨二っぽいな。

 じゃあどう名付けようかなと思い、胸のウサギたちをまじまじと見た。橙色っぽいのは、


「アル、とラージかな」


 牛柄の子はちょっと大きめだからラージと名付けた。


「アルとミラとラージかぁ。短絡的かもしれないけどいいかもね~」

「それけなしてるだろ」


 お互い笑いながらようやくスマホを出した。全然親に連絡していなかった。


「あ、電波は寮のロビーでしか入らないみたいだよ~」

「マジか」


 確かに部屋の中では圏外だった。スウェット姿だから部屋から出てもいいだろうとウサギたちに声をかけて起き上がると、アルがぴっとりとくっついてきた。


「あーもう、かわいいなアルは~」


 かなわないなと思いながら手の中に収めてロビーへ向かった。(寮監にロビーに生き物は入れないでね~と注意をされた。今回限りで許してもらった)

 無事親に連絡も取れたが、連絡が遅いと怒られた。寮のロビーでしか電波が入らないことを伝え平謝りに謝った。


「あんなに怒らなくてもいいじゃんなー」


 アルをなでなでしながらぼやく。アルは目を細めて俺の胸にくっついている。これだけでも十分癒される。そしてその癒され気分のまま俺はぐっすり眠ったのだった。

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