2.ボーイミーツウサギ
VTOL機だよVTOL機。俺生まれて初めて垂直離着陸機に乗ったよ。興奮したなんてもんじゃなかった。一緒に乗った子たちも大興奮だった。
「すげえ! まっすぐ上! 上!!」
「ハンパねー!!」
女子もいたが、女子たちは呆れたような目で僕らを眺めていた。なかなか理解されないものなのか、この素晴らしさは。
「落ち着いてくださいねー。土地は広いのですが安全に離着陸できる場所が少ないのです。なので物資の搬入などもほぼほぼVTOL機で行うことになります」
担当の人がにこにこしながら説明してくれた。
「整備はしないんですか?」
「まだ活動が続いてる場所もありまして、整備したと思ったら隆起して壊れたなんてことになったら困りますのでまだ様子見なんですよ。なので元の島の平らな部分を飛行場として使っています。建物があるのは元の島の部分だけですから、注意してくださいね」
「活動が続いているって……」
「マジか……」
さすがにシーンとなった。
「あのー、それって危険じゃないんですかー?」
女子の一人が手を挙げて聞いた。
「現在は活動といっても微々たる隆起ですので、一番活動している場所で1時間に1mmほどです。ですが一日経てば2cm以上変わりますからアスファルトを敷いても割れてしまうんです」
「そういうことなんですね、わかりました」
なるほどとみなで頷き、約一時間半の空の旅を満喫した。見えてきた島は南に向かって卵を細長くしたような形で、北の方が緑が深く、建物があるように見えた。ということはあの島から南に向かって土地が隆起してきたということなのだろう。火山活動とは関係ないと聞いているから太平洋プレートによる隆起なのかもしれないが、どこにプレートがあるのかは全くわからない。
「……隆起の原因ってわかってるんですか?」
「火山によるものでないことは確かです。ただ隆起した部分の土地は地熱が高いので温泉は出ます」
「温泉!?」
火山がないのに温泉があるなんて不思議だな。そう思いながら狭い滑走路に降り立った。
荷物を運んできたヘリコプターも一緒に下り、荷物を各自受け取る。
自衛官に促されて滑走路の外に出ると、腕の中に黒いもふもふのようなものを抱えた着物姿のお爺さんが立っていた。
「ようこそ、無名島(うなしま)へ」
にこにこした、好々爺然としたお爺さんに担当者が声をかけた。
「校長先生。こんなところまで来られては困ります。……それ、また拾ったんですか?」
「一人で寂しそうにしていたのだよ」
「世話をしてくれる子が見つかればいいですが。みなさん、こちらが無名島高校の校長先生です。ご挨拶を」
みな目を丸くして、
「初めまして、こんにちは」
と挨拶した。お爺さんはうんうんと頷いた。
「みんないい子たちのようだ。よき出会いがあることを願おう」
そう言ってお爺さんは踵を返した。足元は下駄である。校長の後を追っていくのかと思ったけど、担当者は別の方向に俺たちを促した。十五分ほど林の間の道を歩いて着いたところが学生寮だった。
「ここから北の方向に十五分ほど歩いたところにあなた方が通う予定の高校があります。寮の部屋はまだ決まっていません。二、三日は男女に別れて大部屋で雑魚寝となります。その間の荷物はこちらで保管も可能ですので寮監に申し出てください。食事の時間や規則などはこちらの寮の規則が書かれた冊子に載っています。わからないことはそこらへんでヒマそうにしている先輩が教えてくれますので、うまく活用してください。では」
担当者は言うだけ言うと踵を返そうとした。俺ははっとして担当者の服を掴んだ。
「まっ、待ってください! 貴方はこれからどちらへ行かれるんですか?」
「Y基地にこれからとんぼ返りです。また明日生徒たちを運んできますので」
「あ、そ、そうなんですか……気をつけてくださいね……」
「はい、ありがとうございます」
担当者はにっこり笑むと、今度こそ自衛官と共に戻って行った。俺はその場にいる同学年の子たちとなんとなく顔を見合わせた。緊張していて全然自己紹介っぽいこともしていなかったけど、同じVTOL機で来たのは十人ちょっとだった。
どうしよう、と思った。担当者が言っていたことを必死で思い出す。
そういえばそこらへんでヒマそうにしている先輩がいると言っていなかったか? 一緒に来た子たち以外で、少し離れたところで両手を頭の後ろで組んだ男子三人組がいるのを見つけた。
「すいません、こちらの高校の先輩ですか!?」
「うん、僕は三年生だよ~。人参食う?」
ヒマそうにしていた先輩? の一人が笑顔になり、どこからか人参を取り出した。
「ええと、人参よりこれからどうしたらいいか教えていただきたいのですが……。できれば荷物を置く場所とか、寝る場所を教えていただけると助かります」
先輩? は途端につまらなそうな顔をした。
「真面目だー。つまんないから君には人参を三本あげよう。ついておいで~」
「なんで三本なんですか……」
リュックをしょって先輩? について行くことにした。でも他の人たちはその場で固まっていた。
「? みんな、入らないの?」
「……あ、うん……」
そう声をかけたら、やっとゼンマイを巻かれた人形のように、みなぎこちなく動き出した。
案内された寮の大部屋で、先輩? に教えられるままに着替えを三日分ほど出し、他の荷物は寮の入口で預けた。
「部屋が決まっちゃえばすぐに移動できるんだけどね。まぁ決まる子はすぐ決まるから行こっか」
先輩? は人参を出したのが藤木さん、後のやる気がなさそうだけどなんだかんだいって手を出してくれたのが、相田さんと立木さんと名乗った。
女子用の大部屋には他の先輩もいたらしい。
「行くって、どちらへですか?」
やっと一息つけると思ったら、当たり前のように先輩方に促された。
「寮の東側だよ。庭みたいになってるんだけど……ま、見た方が早いかな~」
素直にみんなでついて行った先の広い庭で、俺たちは目を丸くした。草が短く刈られたさっぱりした庭の向こうから、小さめの動物たちが五匹ぐらい顔を覗かせていた。
「かわいい~……」
女子たちが呟いた。俺も内心同意した。
「野生、とはちょっと違うんだけど、みんな校長先生が拾ってきちゃった子たちなんだ。まだまだいるから、気に入られたら世話してあげてね~」
「え? 気に入られたらって……」
シタタタタッと何かが走るような音がして、トンッと近くで音がしたかと思うと、
「わぁっ!?」
何かが胸に勢いよく飛び込んできた。
それが、まだ両手で収まるサイズだったアルとの出会いだった。
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