第24話 ”戦神”墜とし

「ハハハハハ!! ダンテ!! 貴様自分が追われているのを忘れていたようだな!! 馬鹿め!!」


 ステージに上がった瞬間、目に入ったのはルイの後ろに整然と並んだ甲冑の兵士。


 忘れてはないんだけどさ、決闘って本来1対1でするもんだよね? そんなに人呼んでさぁ、一人じゃ俺を倒せないって思ってるのがバレてるってわかんないのかな?


「そんなに部下呼んでさ、堂々と戦う気はないの? “戦神”が聞いてあきれるよ」

「煽りのキレがなくなっているぞルイ! 貴様臆したか! 俺は軍司令だ! 司令が先陣を切るわけないだろう! ハハハハハ! 行け! 奴を捕らえろ! 手段は問わん。殺しても構わん!」


 ルイの指示によって左右から挟みつぶすように兵士が取り囲んでくる。幸い、飛び道具はいない。


 兵士たちは一言も発さず俺に切っ先を向けているが、一切近づいてくる気配はない。兵士たちの奥でニヤついているルイの声も、ただの殺し合いをショーだと勘違いしている観客の下品な歓声も耳の奥で響くだけ。


「追い出してから5年間も俺の姿すら見せてないからな。そりゃあ俺のことを弱く見ているよな。悪魔倒したって言ってんのにさ」


 諦めのため息とともにそうつぶやくと兵士たちを見渡し、俺は口を開く。


「敵はルイだけだ。すっこんでろ」


 じりじりと距離を詰めていた兵士たちの足が止まる。お互いを見つめあって襲い掛かるかどうか決断しかねているようだ。


 マモンの時に見た顔もあったから脅しが効くかと思ってはいたけどこんな裏路地のチンピラみたいな安い脅し文句で通用するとはね。あいつ嫌われてんじゃね? 


 もはや俺が近づいていっても襲ってくるようなやつはいない。いるのは俺から視線を外さないまま天敵に出会った獣のようにじりじりと後退する甲冑のみ。


 俺が歩を進めると、さあっと目の前に道が現れるような感覚。下手するとうぬぼれて逆転負けしそうな状況の中、しっかりとルイだけを見つめて慎重に近づいていく。。


「何をやっている!? 戦え!! 戦えぇぇぇ!!! お前らは戦うことしかできないんだよ! 戦わないなら死体になるしかねぇんだよ!!」


 最後列から最低な檄が飛んできたが甲冑たちに動く気配はない。ただ兜の奥できょろきょろと視線を動かすだけ。


 いやマジですっこんでいてほしい。無理やり連れてこられたっぽい甲冑たちを相手にしたくないし、棒立ちで立たれるのも大技使えないしで本当に邪魔なんだよな。


 勢いよく地面に手を突き、唱える。


「──『空間錯覚ルーム・イリュージョン』」


 スッ……!


 視界の半分を埋め尽くしていた銀色が断末魔のような金属光沢を残して消えていった。


 フィールドに残っているのは俺とルイだけ。


「おいっ!? 何をしたぁ!? 俺の兵士たちがっ!!」


 自分の尻尾を捕まえようとしている犬みたいにまわりをぐるぐると見渡しているルイの姿に笑みがこぼれそうになる。


 ったくどんだけ部下に頼ってんだよ。一人になった瞬間慌てだすとか……ははっ。


「わかんねえのかよ? 俺のスキルだよ。あんたが無能って言ったスキルで消えちまったんだよぉ!!」

「馬鹿な! 『錯覚』か! だったら見えないだけでまだいるんだろ!? こいつをやれ!! 殺せぇぇぇ!!!」

「なんで観客席見ねぇんだよ。いるだろうが。フィールドに立ってんのは正真正銘俺とあんただけだぞ」


 ルイがばっと観客席を見渡した。闘技場のへりに沿うように並んでいる銀色の甲冑を発見すると見る見るうちにルイの顔が青ざめていった。


「なっ!? あ、あれもお前が錯覚で見せているだけだろう!?」

「だったらどうしたぁ!! あんたが戦えばいいだろうが!!」


 ドガッ!! ドサッ……


空間錯覚ルーム・イリュージョン』で肉迫、ルイのあごに何もまとっていない俺の拳が炸裂する。

 観客席からの歓声は軍司令がやられたことへの悲鳴か。はたまた下剋上を歓喜する声か。


 無様に寝そべっているルイの上に馬乗りになって彼の砂と脂汗でぐちゃぐちゃになった顔を眺めていると暗い笑いが込み上げてきた。


「あはははは!! なあ“戦神”さんよぉ! あんたが無能って言っていたやつに手も足も出ない気分はどうだよ? 戦えない“戦神”よぉ!!」

「うるさあああい!! 黙れぇ!! よくも、よくもぉぉ!!」


 反撃とばかりに力任せに俺を押し上げ、ルイが立ち上がる。


 あーあ、語彙力までなくなっちゃった。


「なぜ貴様が! 無能の貴様が! 絶対、絶対強いのは俺だぁ!!!」


 子供じみた叫びを発しながら剣を振りかざし突進してくる。


「あんたは“戦神”なんかじゃないんだよ。一般人」


 そう呟いてルイを正面から見据える。


 血管が浮き出るほど力が籠められている腕に、怒りと興奮で赤黒く上気した顔。その姿すべてがまた俺をどん底にしようと駆動している。


 もう誰にも俺の生活を変えさせない。


 俺から二歩ほど離れた距離から剣が振り下ろされる。勝ち誇ったようなルイの笑みも刀身から伸びる光の軌跡もすべてがゆっくりとしていた。


「『痛覚錯覚ペイン・イリュージョン衝撃インパクト』」


空間錯覚ルーム・イリュージョン』で彼の背後に移動しそう呟く。


 ……ドサッ


 一拍おいてルイの身体が地面に崩れ落ちた。


──────────────────────────────────────

【あとがき】

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