第22話 一触即発

 まずいまずいまずいまずい! よりにもよってルイが来るとか最悪だろ! 『視覚錯覚ディスガイズ・イリュージョン』を発動してるにしても声とかしぐさとかは変わんないんだって! バレたら余計に面倒くさくなるじゃねえか!


 そんな俺の心の中の嵐はつゆ知らずルイは仰々しい態度でボナパルトさんの隣に腰かけた。


「……さて、全員そろったことじゃ。悪魔について教えてくれんか?」


 さすがに俺が話すのはリスクがでかすぎるか。ここでルイに捕まるとせっかくダンジョン定住の許可を取りに来たのに元も子もない。


「リエル、頼んだ」


 そう隣に座っているリエルに耳打ちすると一瞬驚いた表情になったがすぐに気を取り直して地上代表みたいな2人に悪魔について解説を始めた。


「──」


 真面目に話を聞いていると思ったが、時折、ルイの視線がこちらを向いているのが気になるな。


 バレたか、俺自身だという疑いはもった可能性はあるな。だけど、俺が家から出ていったのは5年前だし、まだ声変わりもしていない頃だ。俺だと確信することはないだろうな。


 その後、リエルの流暢な解説を聞き流しながらなんとか平然を装い続けることができた。


「……なるほど。“異能”とはまた厄介な能力を持っていますな、ルイ殿」

「ふむ……。“異能”自体は脅威かもしれんがそのような能力を持っていることが分かっただけでもはやわが軍にとっては取るに足らないモンスターだろう」


「あなたの軍の兵士が大勢やられていたのですよ!? それでも取るに足らない相手というのですか!?」


 被害が出ているにも関わらず余裕そうにしているルイにたいしてたまらずといった勢いでリエルが反論する。


「あんなものはそこら辺の有象無象を無理やり調教しただけの雑兵だ! わが軍の主力をもってすればすぐにでも駆逐できるわ!!」

「あなた方は悪魔と戦ったことないでしょう!? 何も対策しないで討伐しに行ったら全員無駄死にしてしまいます! もう少し深刻に対策を考えてください!」


 雑兵と呼ばれた無念にも散っていった命への怒りをあらわにしたリエルに対してルイも感情が高ぶって唾を飛ばしながら叫ぶように反論する。


「私は『戦神』だぞ! 私が指揮して負けた戦はない! ただ少しだけ能力をふるっているだけのモンスターに敗れるわけがないだろう!」

「あなたの戦績は全て外国との戦争でしょう!? モンスターと戦ったこともない人が余裕そうにしないでください! あなたの軍を壊滅させたいのですか!?」

「たまたま勇者に就いただけの小娘が知った口をきくな!」


「そこまでじゃ二人とも!!!」


 腹の底からえぐられるような低音が部屋全体を揺るがす。


「今は情報を提供してもらうのが先じゃルイ殿。余計な口をはさむでない。リエルも我慢してくれ」

「フン」

「すみません。……話続けていいですか? “異能”なのですが基本的には悪魔が存在する時点で発動しているようです。ですので彼らの姿をとらえた際にはまず“異能”の特定を急いだほうがいいと思います。今のところ情報は申し上げたくらいしかありません」


 リエルが話し終わると、ボナパルトさんは深くうなずき執務机に向かっていった。


「情報をありがとうリエル、皆さん。今の情報だけでも突っ込んでいく冒険バカを止められる。ここからはギルドの仕事だ。条件の通りあなたたちのダンジョン滞在を認めよう。ただし、一か月に一回報告に来るのを忘れるんじゃないぞ」

「ありがとうございます。では私たちはこれで」


 おのおのに礼を述べ部屋を出ていこうとした瞬間、


「まて、ダンテとやら。お前だけは残れ。話したいことがある」


 ルイから死刑宣告にも似た言葉が降りかかる。


 くっそ、帰りたいんだけど! 俺何かしたっけ!? 絶対バレたじゃん。だから地上にはいきたくないんだよぉ!!


 吹き荒れる心の中の嵐とは裏腹に外面は崩さず振り返る。


「どのような要件でしょうか? こちらもこれからまだ仕事が残っていますので手短にお願いします。手紙で済む要件でしたら手紙のほうが嬉しいですね」


 丁重に拒絶しとけば何とか切り抜けられないかなー。


 ルイは仏頂面のまま、


「いや、直接話すことだ。残っていろ。他の奴らはさっさと帰れ。盗み聞きするなよ」

「ダンテ、あんた……」

「いや、問題ない。先行っててくれ」


 ヨハンナが心配そうに振り返るのに対して大丈夫だとうなずいた。

 ここからは俺と俺の家の話だ。俺の手で解決しなきゃいけないことだ。だが妥協はしない俺は俺の生活を守る。


──────────────────────────────────────

【あとがき】

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