第21話 ダンジョン定住化計画
──地上、冒険者ギルドダンジョン支部
ロビーは笑いの渦に包み込まれていた。
「おいおいおいおい! 勇者様に助けられましたってか!? 情けねぇにもほどがあるなぁダンテさんよぉ!! あっはははは!!」
顔見知り程度の奴が過呼吸になるくらい爆笑してたけどうっとおしいだけだから放っておいた。ここに来たのはこいつの相手をするためじゃない。
ニヤニヤとねちっこい視線が四方八方から飛んでくる中、俺たちは急いでギルドマスター室のある二階へ急いだ。
リエルは何か言いたげに笑っていた連中をにらみつけていたが何とか面倒ごとは避けてくれたようだ。
「ここで待っているそうです。ダンテさん、あなたに任せていいんですね?」
「大丈夫だ。……開けるぞ」
ギルドへ来る道中、ギルドマスターからの話の予想と対策の話題になり、ダンジョンから出られない事情もリエルたちの事情も把握している俺が代表としてギルドマスターと話すということになった。
真鍮のドアノブに手をかけ、罠を確かめるようにゆっくりと慎重に扉を開く。
「早く入れい。そんなにかしこまらなくていい」
部屋から聞こえる腹の底に響き渡るような野太い声に後押しされてぞろぞろと部屋の中へ足を踏み入れた。
「待っていたぞい。リエル、ベアトリーチェ、お仲間もな。茶は出せんがそこのソファでくつろいどくれ」
にこやかに笑いかけながら出迎えてくれたのは大岩のような初老の男性、ギルドマスターのボナパルトさんだ。
親のつてで何度か家に来ていて顔を合わせたこともあるけど何年も前のことだし今は『視覚錯覚』で変装しているから俺の正体はバレないだろうな。
「お久しぶりですマスター」
「うむ。そっちは大変だったようじゃな。王国軍から報告を受けておる。……それでそちらは?」
ボナパルトさんの視線が宝石を見極める鑑定士のように全身に刺さる。目踏みをされている感覚なのにボナパルトさんの雰囲気と貫禄のせいか不思議と不快ではなかった。
「こちらダンテさんとヨハンナさんです。悪魔討伐を助けていただきました」
「ほう。ダンテにヨハンナか……。よろしく頼むよ」
差し出された手を握る。握手を交わした瞬間、岩石のような手の中に何か得体のしれないものが潜んでいる予感がしてすぐに放してしまった。
岩盤のような身体からの重圧に負けているだけかもしれない。今回はただの面会ではなく俺らがダンジョンに居住することを認めてもらう交渉もしなければならない。こんな初めに圧倒されている場合じゃないな。
「こちらこそ。それで今日はどういった用件で?」
「悪魔の出現について助言をいただきたい。あなた方は2度も悪魔を討伐している。些細なことでもいい。悪魔について得た情報を教えてくれないだろうか」
俺は真顔で人差し指をスッと立てると、
「一つだけ条件があります」
「何かな? ある程度のことはかなえられると思うが」
ボナパルトさんの視線が鋭くなる。
「俺たち全員がダンジョンに永久に滞在できる権利をください」
「ダンジョンに長期滞在する気か?! 気が狂うぞやめておけ」
本来、ダンジョンに一か月以上の滞在はギルドによって禁止されており、長期の滞在をしなければならない場合は二か月以内を条件に許可が下りるというほどダンジョンの長期滞在には厳しい規制がかけられている。というのもダンジョンにいればいるほど食料の重要性が高まり死亡するリスクが高くなる、閉鎖された空間にいることで気が狂うことがあるためだ。
「いいんですよ? 情報は貴重ですからむやみに広めるものでもないですしね」
視線が交差する。
そもそも今回俺らが出向いたのはダンジョン居住の公認交渉のためだ。この条件だけは曲げられない。
うーん、と数秒うなったのち眉間にしわを寄せてボナパルトさんが口を開く。
「わかった。その代わり一か月ごとに報告には来てくれ。わしの気が持たん。それとヨハンナとダンテ、主らはギルドカードはあるか?」
「一応あるけど」
「……ないわ」
ボナパルトさんはさらに険しい顔になると、
「ギルドカードを持たない者がダンジョンにいたとは……。まあいい。お主らのギルドカードをゴールドにしてやる。そうすれば他の奴らも文句も言わんじゃろう。ほれ、カード貸してみぃ」
そう言うと差し出しされたギルドカードをふんだくると金色に輝くカードに重ねる。
「ほらできたぞ。……うし、本題に入りたいんじゃが一人呼んでいいか? 信頼は保障する」
俺らがうなずくのを確認するとボナパルトさんは扉を開いた。
半開きの扉を押しのけるように大柄の男がぬっと姿を現した。
「王国軍のルイだ。早めに済ませてくれよ。金の亡者ども」
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【あとがき】
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