第19話 富める者と進む者
俺が両手を地面に叩きつけた瞬間、俺の手を中心として波紋のように床の色が薄灰から茶色へと入れ替わっていく。
発動したのは『
その分体力は使うけどな。もはや出し惜しみしてられない。
「あんたが鉱石操るんだったら操れなくするだけだよなぁ!」
「へぇ、これはまずいかも」
初めてマモンの顔から余裕が消える。
俺が変換したのは木材の床と壁。マモンの攻撃手段となる金属物質が存在しない。
無限が有限になってわけだ。もう普通のモンスターと変わらない。
「そろそろ決着つけるぞ!」
「はい! 私が行きます!」
俺の横を駆け抜けてリエルがマモンに肉薄する。
リエルの両手から放たれた光の刃がマモンの右腕をふきとばした。
「反則だよ君たちっ!!」
マモンがかろうじて維持していた砂塵を細く絞りリエルにむかって放つが、彼女が右へ左へとステップを踏んでいて一つも直撃させることはできない。
体力も『
疲労で震える脚に鞭打って何とか立ち上がると『
「これで終わりだっ!!」
「君は、ダンジョンに来てはいけなかったんだっ!!」
マモンの張り裂けるような悲痛の断末魔と俺の叫びが交差する。
ダンジョンに来るなって言われたところで地上に居場所がない俺にとっては
ダンジョンはあんたら悪魔だけの場所じゃない。
マモンの頭に触れ、『
「……終わりましたね」
「……っあー終わったー! 酒が飲みたい……キンキンに冷えたエールをください……」
「さすがにヘトヘトですー」
「あたしにもエール頂戴……あとベルのご飯も」
マモンの気配が消滅したことを確認すると、みんな一斉にへたれ込んで疲労をにじませた声を漏らした。
マジで……酒が足りない。リエルたちと出会ってからマジでゆっくり飲めてないんだよな。久しぶりに晩酌として酒を楽しみたい……。
「なぁ。これからもさ、マモンみたいな悪魔と戦うことになると思う。多分こいつより強い奴と戦うことになる。それでもダンジョンを攻略できるか?」
リエルは力が抜けてフニャフニャになっていた表情を凛としたものに戻すと、
「攻略する覚悟はできています。それに私たちにはダンテさんがついていますから安心して自分の役目を果たせそうです」
ふんわりと笑いそう言った。
どれだけ頼りにされていることやら。俺はもう少し気楽にやりたいところもあるんだけどなぁ。
マモンのいたボスエリアに倒れていた甲冑の中にいた人たちを救出し、俺らは上層に戻った。
☆
──第55階層、俺らの家
「おかえりー。マモン倒したんだって?」
「なんで知ってんだよ」
一度休息をとるため家にしているエリアまで戻った俺らを迎えたのはニッコニコで料理をしているベルゼブブだった。
焼き途中の肉とソースの匂いが部屋中に充満していて、ただでさえ空腹だったのに、我慢する理性までも暴力的なまでに強奪していく。
「あれ? 可愛い二人は?」
「言い方が気持ち悪い。勝手にエール持っていくわよ」
毒舌をキッチンに放ってヨハンナはエールとグラスを手にテーブルへと向かっていった。
「救助した人がいたから地上まで送って行ってもらってる。あとで来るよ。あと言い方キモイ」
まるで俺らが生意気みたいな言い方しやがって。あのクソ悪魔。
「一切配慮がない悪口を浴びておじさん悪魔のライフはもうないよ? ほら、ホーンラビットのステーキとビネガーソースだ。疲れてるときはあっさりかつガッツリだよね」
王都の高級料理人が自慢の料理を説明するような口調と共にベルはテーブルに料理を並べていった。
「それで、マモンはどうだった? クソガキだっただろ?」
「それよりもなんでベルがマモンと戦ったことを知っているのかが気になるんだけど」
「いやあ、そのことなんだけどね。……ちょうど二人いないし話してもいいかな」
ベルゼブブの目つきが鋭くなる。
沈黙の中に俺とヨハンナの喉がなる音が響いた。
俺らの覚悟を確認するようにベルはうなずくと、
「では話そうか。俺ら悪魔と目的についてね」
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【あとがき】
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