第18話 『錯覚』VS『富貴』

「君たちさあ。ダンジョン改造するのはずるじゃない? 狭さも含めての作戦だったんだけど」


 ゴーレムの奥の扉を開けると、岩石の玉座にわざとらしく頬を膨らませたマモンが座っていた。


「通路広げんのも攻略法だよ。対策しなかったお前が悪い」


「それもそうか。ぼくとしてもここまでは来てほしかったしね。さあ、ボクのエサになってくれよ」


 エサ? ベリトもエサって言っていたような? こいつらの行動って狩りなのか?


 にしては他のモンスターの死骸がない。人間だけを食料にしているのか? 


「君たちにはもうちょっと苦戦してほしかったなー。あれだけ兵士君たちを用意したのに」


「なぜ彼らを生きたまま苦しめているのですか! 聞きましたか彼らの苦痛の叫びを!」


 リエルも俺の傍らに立ち、叫ぶ。彼女はずっと苦痛にあえぐ兵士たちの心配をしていたんだ。自分がどんなに危ない目にあっても彼らを救うことを優先していた。

 そんな彼女からするとマモンは彼らを苦しめた根源であり到底許される存在ではないだろう。


「彼らもエサだからね。有効活用しないと。もう御託はいいでしょ? 始めようか」


 マモンは玉座から立ち上がると光沢を放つ砂塵を両手に集め始める。部屋全体を細かく振動させながら収束するそれは彼の手のひらの中で拳サイズまで固まっている。


「させるか……!」


空間錯覚ルーム・イリュージョン』で距離を詰め、マモンへ手を伸ばす。


「君も学習しなよ。ぼくには触れられないってことをさ」


 マモンは自分自身の胸に貫通した俺の腕をつかむと記憶力の悪いゴブリンを憐れむように目を細めた。


 俺の手のひらに残ったのはひとつまみ程度の灰色の砂塵だけ。


 マモンの身体自体が金属の砂塵に変化できるということが確定しただけ対策のしようがあるってもんだ。


『錯覚』は5本の指全体で触れられなければ作用しない。ゆえに粉末状の物質は俺の天敵ともいえる。


 だがそれは物質そのものに作用させる場合にのみ言える話。


 腕を引きぬくと同時に『空間錯覚ルーム・イリュージョン』発動。空間ごとマモンを構成する砂塵を球状にえぐり取る。


 しかしダンジョン内から染み出すように出現した砂塵によってすぐに修復されてしまう。


 まるでダンジョン全体が敵じゃないか! 場所が悪すぎる! 物理攻撃無効に俺のスキル効かないとか打つ手消えそうなんだけど!?


 マモンを守護するように現れた金属片の塊の渦を後ろへのステップで回避すると、それと入れ替わるようにリエルが突進していった。


「『限定解除:光あれリライト』!! はぁぁぁぁ!!」


 リエルの両手からほとばしる閃光の柱が金属片の渦に直撃、乱反射し光線として部屋中に拡散する。


 部屋全体を照らすように広がった途端、暴れまわっていた金属片の渦が崩れ落ちていった。


「うっとおしいなぁ。何回でも復元できるんだから意味ないって言ってるじゃん!」


 泥沼みたいな戦闘のせいであいつも俺たちもそろそろ精神的に限界だ。早めに打開策を見つけないと何されるかわかんないぞ。


 目つきを鋭くしてマモンは再度、金属の渦を作り出し一列にして俺らに放ってくる。


「この量はさすがに私たちではむりですよー!」

「くそっ……!」


 俺はリエルの前に躍り出ると左手を地面につけ『空間錯覚ルーム・イリュージョン』で横滑りで瞬間移動しながら右手を渦に沿わせもう一つ『空間錯覚ルーム・イリュージョン』を発動し一つづつ渦を消滅させていった。


「どんなに渦を、ぼくを消滅させようとしたって無駄だよ? 材料が無限にあるんだからね。だからこその『富貴』なのさ」


 あっはっはっ、とその童顔に似合わない高笑いをしながら空気を震わせてさらに多くの渦を生み出した。


「ダンテ! このままだとこちらの体力が切れるわ!」


 今のところマモンにダメージを与えられてすらいない。一度撤退しようとしても後ろにはゴーレムの残骸に甲冑たちと妨害してくるであろうガラクタで埋まっている。撤退するよりは策を見つけてマモンを倒したほうが楽な可能性すらあるな。


 相手は金属を操る、いや、鉱石レベルから操ることができるのか? どちらにしても材料源であるダンジョンの壁、床から引き離せれば勝機はあるかもな。


 渦を吹き飛ばすリエルの光線も死角から襲う金属片を防ぐヨハンナとベアトリーチェの結界も薄くなりつつある。


『空間錯覚』で回避し続けるにも限度がある。


 相手の能力の源がダンジョン内の鉱石、金属であるならば……、


「やりようはある!! 今からお前の澄ました顔に一泡吹かせてやるよ! このクソったれな運命と共になぁ!!!」


 ニヤニヤとほくそ笑んでいるマモンに対して挑戦的な笑みをちらつかせながら勢いよく地面に両手をついた。


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【あとがき】

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