第14話 不仲説?
──ダンジョン第73階層
「ダンテさん、次右に行きましょう!」
「ダンテ、ここ罠ある?」
「一気にしゃべるなぁ!! 訳わからなくなるわ!! 順番に話してくれよ!」
両耳に侵入してくる、混ざり合って意味が消失した情報の渦に俺は思わず頭を抱えた。
リエルたちのパーティーにダンジョン限定で加入して数日、もともとリエルに対して警戒心を持っていたヨハンナとリエルの間の溝は深くなっていくばかりになっていた。
攻略が順調なのは善いことだけどもう少し仲良くしてもらいたいものだけどな。
「んで、リエルは何? ……右? んでヨハンナ、そこ天井落ちてくるから気をつけろ! ローブ女ぁ! 突っ立ってないで手伝え! 目的地はここじゃねぇんだよお!!」
処理しなきゃいけない情報が多すぎる!
今回の探索では手始めに第80階層まで行くことを目的にしている。リエルたちの実力を底上げしながらパーティーとしての連携を練習することが目標になってくる。
のだが……
「リエルさん。あなたが前衛ね。よろしく」
「えっ? ヨハンナさんハンマー持っているから前衛なのでは?」
首をかしげるリエルにヨハンナは不敵な笑みを浮かべ、
「あたしの職業は聖職者(プリースト)。本来は後衛(後ろ)なのよ」
そういうとスっと俺の横でたたずんだ。
にらみ合うこと数秒、根負けしたようにため息をつくと、
「わかりました。鍛錬、ですもんね」
リエルは俺らの3歩先を歩くローブ女の元へ合流した。
その背中が悲し気な雰囲気を漂わせていたのは俺の感受性の問題としておく。
──戦闘の時において
荒れ狂うジャイアントセンチピードの前で、
「ここはあたしが行くわ。リエルさん、下がっていて。ダンテ、見てなさい」
「でもヨハンナさんは後衛なのでは?」
またにらみ合うこと数秒。
もちろんジャイアントセンチピードに待つ甲斐性など存在するはずもなく。
「あっぶね!?」
リエルたちに向かって放たれた土の塊を『
「モンスターの前でやんなよ! 今回の目的はリエルたちのレベルアップだ。ヨハンナは下がっててくれ。 リエルもいちいち反応すんな」
「わかったわ。ごめん。ダンテ」
「すいません……」
俺に怒られたからかその後は二人ともおとなしくなったが彼女たちの間に流れるギスギスした雰囲気はこびりついたままだった。
何でここまで仲悪いの? 親の敵と言わんばかりに対立してるんだよな。
パーティーの連携に一抹の不安を覚えながらも探索は順調に進み、俺たちは一旦、第75階層のセーフゾーンで休憩することにした。
「リエル、はい、お水です」
「ありがとうヨハンナ」
「わたくし、食事の準備をしてきますね。ヨハンナさん、手伝ってくださいますか?」
ヨハンナはうなずくとこちらをチラリと一瞥してヨハンナと共に食事の準備に取り掛かり始めた。
リエルと二人っきりの暇な時間。
聞くなら今だな。
「……なあ、このパーティーどう思う?」
「これからだと思いますよ。私たちのスキル構成も悪くないですし」
パーティーとして行動することならリエルたちのほうが経験がある。俺とヨハンナは基本的に個人行動していたからパーティー行動の相談をできることはありがたい。
頼るものは頼っていくスタイルなのである。
「となるとやっぱ問題は連携か」
「そうですね。私とベア、私とダンテさんの組み合わせだったら連携も取れているんですけど……」
リエルはヨハンナを一瞥すると表情を曇らせた。
「ヨハンナか……。なんであんなに警戒心が高くなってんのかわかんねぇよ」
よそ者を嫌っているんだったらローブ女に対してもギスギスしているはずなのにむしろ協力して食事の準備しているくらいだ。
何もわからなくなって頭を抱える。
「えっ? 本当に何も気づいていないんですか?」
「ホントにわかんないんだって! え? 逆にわかるの?」
リエルは呆れたようにため息をつくと、
「なんとなくですが。しかし私から話すことではないので……」
いや逆に気になる!! 大事なことだしさぁ!
いくらパーティーのために必要だと力説してもリエルの口から語られることはなかった。
準備ができたようでヨハンナ達の足元には布切れの上に食料が並んでおりちょっとしたピクニック空間が出来上がっていた。
仲良く5角形状に座る。
「用意終わったわよ。……楽しそうに話していたわね」
「いや、楽しくはなかったぞ?」
お前のことについて真剣に話をしていたからな。
ヨハンナは興味をなくしたかのようにふーん、とつぶやくとそっぽを向いてパンをかじっていた。
ますますわからなくなってきた。
しかたなく俺もパンにかじりついた。
ダンジョンにあたたかい食べ物を持ってくるには火を起こせるスキル持ちがいなければならない。あいにくこのパーティーにそんな便利スキルはいないので今俺らの目の前にあるのはパンと干し肉のみ。
「……ベルの飯が恋しいな」
ぽつりと俺の口から漏れ出たのは料理の上手いベルゼブブのことだった。
「そうですねー。あたたかいごはんいいですねぇ」
「そうなんだー」
「酒も恋しいわ」
「今は我慢するしかないでしょう」
ん?
同じことを思ったのだろう。全員の手が一瞬止まった。
知らない声がしたんだけど?
おそるおそる声がした俺の右隣に視線を向けると見知らぬ少年がパンにかじりついていた。
「誰っ!?」
その背中には闇夜のような翼が一対生えていた。
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【あとがき】
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