第13話 パーティー加入

「ゲホ……苦しい……」


 胸の上にのしかかっている柔らかい何かによる呼吸妨害でせき込み、俺は目を覚ました。


 浮上してくる意識の中、かすむ視界に飛び込んできたのは──


「……二度目かよ」


 そこにはだらしなく顔をフニャフニャにして眠っているリエルの姿があった。

 ベッドわきの椅子に座り、俺の胸を枕にして気持ちよさそうにしている。


 どうやら俺は『筋力錯覚』の効力が切れた瞬間に体力の限界が来ていたらしい。


 状況から察するにリエルたちが後からきて運んでくれたんだろうな。感謝しないと。


 まあどうせあのローブ女、ベアトリーチェだっけ? は何もせずにリエルだけで運んでくれたんだろう。


 にしても二人はなぜここまで俺にかかわろうとする? 神託に従っているなら俺が“味方”宣言したあたりで関係をなくしても問題はないはずだ。


 ……これが純粋な好意からだったら素直にうれしいけど。


 美少女から好意を持たれてうれしくない奴などいるだろうか。いやいない。


 目の前にいる人形のような美貌を持つ美少女。


 おまけに職業は勇者ときた。そんな世界から祝福を存分に受けた境遇の存在がいる。


 そんな奴が隣にいれば俺のくそったれな運命が変わるかもしれない。もしくは──


「……んんっ」


 無機質な顔に生気が戻る。


「おはよう。ありがとう、看病まで」


 俺の声が聞こえた途端、その大きな目をさらに大きく見開いてリエルは俺に詰め寄ってきた。


「ダンテさん! 大丈夫ですか!? 私がわかりますか!? 指何本に見えますか!?」


「寝起きに質問攻めはさすがにキツいんだけど」


 いちいち近いんだよ! 距離感どうなってんの? いや別に嫌なわけでも軽蔑してるわけでもないんだけど、驚くというか戸惑うというかさあ!


「大丈夫そうですね」


 俺の身体を上から下まで観察し、無事であることを確認したのかリエルはほっと表情を柔らかくした。


「……ありがとうございました」


 ベッドに乗り出していた身体をもどし殊勝に頭を下げる。


 リエルが生真面目で無機質な口調になった瞬間俺は顔をしかめた。


「ダンテさんが魔獣暴走の根源モンスターを討伐してくださったおかげで街、冒険者に王国軍の被害は最小限に抑えられました。この事件に関わったすべての人々を代表して感謝申し上げます。この栄誉はあなたのものです」


「いや……何もしてないからほんと」


 何なら見捨てて一人帰ろうとしたしなー。戦ったのもむかついただけだしなー。


 見捨てた極悪行為が真実なだけ、リエルの勝算がこそばゆいとともに良心が痛い。


「顔が引きつってますけどやはり何か具合が!?」


 苦笑いなんだよなー。体は元気なんだよなー。


「一応熱だけ確認します!! あっ!?」


 俺の額に手を伸ばそうと立ち上がった瞬間、リエルの脚がベッドフレームに引っかかる。


 ドンッ!!


「……あ」


 互いの吐息が交わる。

 鼻が触れるほどの距離。


 前につんのめったリエルに押し倒されるような形。

 長く柔らかそうなまつげが、きれいに切りそろえられた金色の前髪が文字通り目と鼻の先にあった。


 花畑のような甘い香りにうずく身体をどうにか理性で押しとどめながら俺は口を開く。


「大丈夫?」


「は、はい。大丈夫です……」


 消え入るような声で返事をしたリエルは耳まで真っ赤に染まっていた。


 リエルはうるんだ眼を俺からそらしたまま固まって動かない。


 あの、このままだとまた面倒なローブ女あたりが現れそうなんだけど。


「そろそろどいて」

「ダンテ大丈夫かー? ほしいもんがあったら何でもあたしに……何やってんのあんたたち」


 ほーら予感的中。


 ヨハンナが俺の部屋に入った瞬間顔をしかめて立ち止まった。


「いや、これはですね不慮の事故で決してナニかしようとしていた訳ではなくて!」


 固まったまま動かないリエルを押し戻し、両手を上げて何もなかったアピールをしておく。


 ヨハンナはしかめっ面のまま俺とリエルの顔を交互に眺めると、


「宣戦布告かしら?」

「へっ?」

「いや、別にそういうわけではありません! ただ……」


「ただ何よ?」


「い、いえ。なんでもありません……」


 リエルはギクシャクとした動きでベッドから離れた。


「? あ、そう。それでダンテ。悪魔を倒したらしいね」


「そうだけど?」


 俺の返答を聞くと、ヨハンナは呆れたようにため息をつき、リエルは顔を驚愕に染めていった。


 いや、事実を伝えただけなんだけど……。


「悪魔って、大昔神々の時代から存在するモンスターの、あの悪魔ですか!? 本当に倒したんですか!? 」


「あいつは悪魔だったよ。"異能"持っていたしあいつ自身も悪魔って言ってたし」


 ”異能”さえ判別すればなんてことないただのおしゃべりなモンスターだ。何の難しいこともない。


 それなのにリエルは慌てたような口調で、


「神々に等しい存在を討伐するなんて……」


 再びリエルが深々と頭を下げた。


「命を懸けてまで街、人々のために悪魔を討伐してくださりありがとうございました。神託指名勇者リエルの名において感謝申し上げます」


 ヨハンナが絶対くだらない理由で遭遇しただけだろと目で伝えてきている感じがするのは気のせいだとしておこう。


 雰囲気に合わせるように俺もまじめな表情を作ると、


「なぁ、リエル。悪魔倒せる?」


 今度はリエルの顔が引きつった。


「無理無理無理ムリですよ!? 地竜で苦戦した私が勝てるわけじゃないですか!? でも悪魔はダンテさんが倒してくれたんですよね? なら」


「悪魔が一体だけだとでも思ってんの? はぁ……あんたらが悪魔倒せるくらいになるまではついていくよ。どうせ悪魔が野放しにされたら俺らの飯狩り場もなくなるし」


 リエルは頭を下げたまま動かない。


 え? 迷惑だった? でも最初こいつら仲間になってくださいって言ってたよね?


 リエルの反応の意味が分からずおろおろしていると今まで静観していたヨハンナが俺の前に仁王立ちする。


「私も行くわ。酒と食事付きでね」


 こうして俺のダンジョン探索生活がはじまった。


 彼女の目にともっていた覚悟に俺はまだ気づいていなかった。


──────────────────────────────────────

【あとがき】

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