第12話 『猜疑』VS『錯覚』②
「大口叩いたところでさあ、現実見ないと意味ないよ? 君はまだボクに触れられてすらいないんだから。ほら思いついてみなよボクを打破する方法ってのをさぁ!」
再度迫りくる暴風の壁。
今度は至近距離にくるまでに天井に達するほどの大きさになっており跳びあがっての回避は不可能だ。
俺は両手で頬を強くたたくと、おもむろに暴風の壁の中に右手を突っ込んだ。
暴風が消える。
「おっ、スキル使えるようになったんだねぇ。でもさ、そのスキルでボクに勝てる自信はあるのかい? さっきまでのことを思い返してごらんよ。君に勝算はあるのかい?」
まるでハグするとでもいうように大仰に手を広げるベリト。
「俺は、家に帰るだけだ」
そうだ。俺はただ家に帰りたいだけだった。家に帰ってベルやヨハンナと飯を食って酒を飲んで寝る。ただそれだけを望んでいるのに。
神託に執着している勇者に追われ、下層で迷い、ローブ女に捕まり悪魔に道を阻まれる。
どれだけ俺を家に帰らせたくないのか。なあ運命さんよ。
「あんたなんて酒のつまみにもなんねぇよ。さっさと逃げ帰れよ」
「たった一度身を守っただけで調子に乗れるんだねぇ。でもさあ考えてごらんよ。君はもう満身創痍だ。あと1発殴るだけで死んでしまうかもしれない状態でまだピンピンしてるボクと闘えると思うのかい? 君は無駄死にするかもしれないんだよ? 家に帰りたいのに死ぬとか矛盾していると思わないかい?」
「それがあんたの“異能”だろ?」
「……どういうことかな?」
「とぼけんなよ。『猜疑』のベリト。“疑いをかけられた対象の概念を抹消させる”これがあんたの“異能だろ? そりゃあそうだよな。そもそもいないやつに攻撃が当たるわけがないんだよ」
──『スキルが使用できない』
そう疑ったことによりスキルが無意味になった。
──『人間の身では勝てないのではないか』
そのような疑念が浮かんだことによりベリトに攻撃が当たらなくなった。
ただそれだけの事。
──ならば、
「全部信じ込めばいいだけの話だよなぁ?」
俺のスキル発動は必然。
ベリトの存在も自然。
ただそう認識すればいいだけのこと。理屈がわかればなんてことない手品じみた“異能”だ。
地に手をつき発動させる。
──『
放射状に広がった衝撃に合わせて地面がめくれ上がっていく。
即座に『
「アハッ! いい動きじゃないか! でもさあこのままだとジリ貧だよ? 一度も攻撃を食らわないでボクを倒せると思ってるのかい? 君が殴ったのは本当にボクなのかい?」
煩わしい。うるさい、うっとおしい!!
俺がなにしたっていうんだよ! ただダンジョンにこもっていただけなのに!
「邪魔すんじゃねぇよ!」
「ボクが邪魔をするっていうことは相応の理由があるってことだよ? 君が逃げたところで魔獣暴走にはなにも影響がないのにねえ? なんで君をここまで追いつめているんだと思う?」
「うっとおしいな。口ふさげや。もう限界だ」
「ん? もう降参かい? 大口叩いた割には案外大したことないじゃないか」
「ちげぇよ。あんたの話を聞くのが限界だって意味だ!!」
俺を遠ざけるように至近距離に発生した竜巻を右腕一振り、消滅させるとその勢いのまま彼の左腕を鷲掴みする。
「『
ドゴォン!!!
偽りの衝撃音が体全体に響き渡った。
当たった! あとはもういつも通りに殺るだけだ!
「なんでっ……!」
苦悶の表情でベリトがうめく。
──『
使用した対象が全能感を得る。ただそれだけのスキル。
だがベリトにとっては天敵のようなスキルだろう。
なんでもできる、なんでも倒せる。ただそう思い込むだけの子供だまし。だが、全能だと思い込むということは攻撃が当たる、相手を倒すということに疑いが入り込む余地がないということ。
疑いを持たない相手にはベリトの“異能”は発動しないだろう。
「そんな……ボクはただ……」
大きく後ろによろめいたベリトめがけて再度距離を詰める。
今更ベリトの言葉に聞く耳はもたない。
拳が彼の脇腹に刺さった瞬間、『
口から空気を勢いよく漏らしながら吹き飛び、ドシャッ!! という音と共に崩れ落ちた。
「勝った……! っはあ、はあっ!」
俺ももう色々限界だった。
『
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【あとがき】
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