第11話 『猜疑』VS『錯覚』①

 今回は苦戦回です。次回大勝利します。

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「……ぐっ! クソッ!」


 俺のまわりで、激しい突風が吹きすさぶ。


 魔法によって発生した6つの竜巻。


 その一つ一つが瞬時に天井まで達すると俺に迫る。


 激しい突風に体ごと吹き飛ばされ壁にしたたかに背中を打ち付けた。


「これで23回目だよ? いい加減あきらめて殺されなよ」


 痛みにかすんだ視界からでも『猜疑』のベリトが楽しそうに笑っているのが確認できた。


 震える脚で立ち上がり反撃とばかりに床面に『空間錯覚ルーム・イリュージョン:振動』を発動させる。


 が、ベリトの足元に振動が発生しているそぶりはない。


「なんでだよ! 出ろ! 発動しろ『空間錯覚ルーム・イリュージョン』!!」


 先程から何度も手を地面に打ち付けるが変化はない。


 逆に相手の竜巻を喰らい返り討ちにされる始末。


 下層に逃げようとしても竜巻によって防がれてしまう。


 俺のスキルがベリト相手には効果がなかった。


 俺の修行が、決意の家出が、5年間が無駄になる。


 心の底から湧き上がってくる焦燥に全身が小刻みに震えた。


 なんで? 俺が触れれば『錯覚』は発動するはずだろ!? あいつがスキルを封じている? 俺が『錯覚』にかかっているのか? 地面に触れていない? そもそもこのエリアがあいつのスキルなのか? なぜ悪魔がこんな低層に、しかも隠しエリアではなく通常エリアに? なぜ? なぜ?


 少し思考に意識を向かせるたび疑念の渦に飲み込まれて気が狂いそうになる。


「いいよーもっと悩んで良いんだよー? 人間君たちの悩む顔が見たいんだ。君にはとことん悩んでもらいたい。早くボクを倒す方法でも見つけてみなよ?」

「安っい挑発だなぁ! なんだ?あんた自分語りしかできないのか? これだから低級悪魔なんだよあんたは」


「ふふっ、その無理して強がった顔。いいねぇ。じゃあその顔に免じてヒントをあげよう。『君は君のスキルを信じていないのかい?』」

「そんな、はずは、ねぇだろうが!」


 ふらつく脚を気合いでなんとか押さえつけ、爆発的なスピードで至近距離まで近づく。


 振りかぶった拳がベリトの掌で受け止められ、その威力を流すように身体ごとひねるようにしてかわされる。


 ベリトの飄々とした冷たい笑みは何事もなかったかのようにその顔に張り付いたままだ。


「ほら、ボクに近づいたのにスキルを使うそぶりすら見せないじゃないか。どうしたんだい? 自慢のスキルを使ってみなよ!」

「うるせぇ! あんたはまずその口をふさげ!」


 さっきから『筋力錯覚マッスル・イリュージョン』に『重力錯覚グラビティ・イリュージョン』は発動させているのに! 何をやっても、どんなに策を考えても傷一つつけられない! なんでだ? 俺に細工したのか? でもこいつに触れられる前からスキルは発動しなかったよな?


 意識を貪欲に飲み込もうとする疑念の渦に抗いながらも必死に策をひねりだしていく。


 相手は悪魔。いくら人型でも人外のモンスターである以上生身の人間よりはるかに高い身体能力を持ち合わせている。いくら『錯覚』で強化したといってもその力は人間の範囲に収まっているから単純な物理攻撃では敵うはずがなかった。


(悪魔とはいえモンスターだ。必ず策はある)


 そうでなければ俺はダンジョンなんかに住むことができていない。


(ベルゼブブに勝てた。なら……ベリトにだって弱点はあるはずだ)


 力任せに振りぬいた拳をかわされた勢いのまま転がって距離をとる。


「もっと、もっとだよ!! もっと悩んで! もっと失敗して! もっと考えてまた失敗して! ボクに最高のディナーを堪能させてくれ!」


 恍惚とした焦点の合わない目で楽しそうに見下ろすベリト。


 翼をはためかせ生成した竜巻が壁のように一列に並び、俺に押し寄せる。


「君ではボクに勝てないよ? 種族の位が違うからねぇ」


重力錯覚グラビティ・イリュージョン』で軽くした身体で壁を反発材にして跳びあがる。


 それに反応して人間の認識を超えた速度でベリトの拳が俺の脇腹に刺さった。


「ぐっ……!!」


 ドシャッ!


『重力錯覚』で軽くなった身体はいともたやすく背面の壁まで吹き飛んだ。


 頭への衝撃で視界が黒く染まる。


 うっすらとつまらなさそうな顔をしているベリトの姿をとらえて俺の意識は途切れ

 た。




 ☆


 ──隠しダンジョン攻略直後


「ここで暮らしていくなら一つ教えておくことがある」


 戦闘であちこち地面が割れ、えぐられ、軍隊の訓練に最適な地形になってしまったエリアの修復をしながら唐突にベルゼブブが口を開いた。


「ダンジョンはダンジョンだろ。大体は把握してる。今更教えられることなんてねぇよ」


「じゃあ悪魔俺らのことはわかってんの?」

「……」

「わかってねぇじゃん。いいか、悪魔俺らってのは言葉も理解できるし知能だってそこら辺のドラゴントカゲよりも高い。要は人間がモンスター化したようなモンだ」


「だから何だってんだ。そんなことは知ってるわ。それで終わりならさっさと消えてくれ」

「いいから最後まで聞け。悪魔俺らにはそれぞれに“異能”がある」

「“異能“?」

「スキルと同じようなものだと思ってくれればいい。ただ異能はスキルとは違い発動という行為を必要としない。ただ悪魔が存在しているだけで効力がある。ちなみに俺の“異能”もちゃんと機能しているぞ」


 ニカッと白い歯を見せてベルゼブブが自慢気に笑う。


「“異能”だろうが何だろうが俺には関係ない」

「もしも。もしもの話だ。万が一苦戦するようだったら俺の話を思い出してくれ。このダンジョンに住むうえで悪魔との戦いは避けられないだろうからな」





 ☆


 うっすらと目を開く。


 気を失っていたのは何分か、何時間か。


 完全に覚醒した俺にどこからか持ち出した椅子に座り優雅にくつろいでいるベリトの姿が映る。


「やあ、起きたかい。どうするもう少しボクのエサになるかい? それとも泣きながら地上に変えるかい?」


 最初、あいつなんて言っていた? 


「『猜疑』のベリト……」

「? フルネームで呼んでくれるなんて嬉しいねぇ。もう降伏するのカナ?」


 猜疑……。疑問。疑念。……ありがとうベル。これで、いける。


 一歩ずつしっかりと踏みしめ立ち上がる。


「黙れよ悪魔。あんたと俺の運命のくそったれが!!」


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【あとがき】

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