第10話 魔獣暴走の元凶
ダンジョンの入り口に向かって俺らは曲がりくねった路地をひたすらに走っていた。
光の届かないような狭い路地からも時折、甲高い金属音と雄叫びの不協和音が響いてきている。
Y字に分かれた地点に差しかかると、
「横から回り込むぞ」
俺はリエルが先頭を走っていた俺を抜かしながら突っ走っていくのを引きずって止めながら提案した。
確かに冒険者側の後ろについてもリエルたちは十分戦力として機能するが側面から別働隊として一気に前線に加わる作戦の方がより効果的だし、下手に冒険者の集団に入り込むより俺としても帰りやすい。
もちろん戦闘する気はさらさら無い。
早く帰ってエールキメてさっさと寝る! これが今の目標。
ヨハンナは……明日の俺が謝罪してるさ! 今日は寝る!
弾むような足取りでダンジョン前の通りへ到着した。
が、聞こえてきた高飛車で傲慢な声に俺の脚が拒否反応を示し泥沼にはまったかのように動かなくなった。
「魔法隊、撃てぇ! 騎士どもは後退! ぐずぐずすんな! さっさと動けぇ!」
ここで聞こえるはずのない声。俺の骨身にまで記憶されているあの憎たらしい声。
「王国軍が援軍に来ていたんですね! よかった、もう街が壊される心配はありませんね!」
あの野郎の登場にトーンが一段階上がったリエルの声すらも鬱陶しい。
なんで来てんだよ!
路地を抜け戦闘を観察できる高台まで走り、声の主のほうへ顔を向けた。
かがり火に照らされて、動くたびギラギラと品のない光をまき散らしている集団の最後尾中央でふんぞり返っている長身が見える。
「ルイが……なんでいるんだ……?」
「? なにか言いましたか?」
リエルが訝しげにこちらを見てくるのを最大限の“私は真剣です”演技で本心をごまかしながら語る。
「基本的に王国軍は対外戦争の主戦力として訓練された、対人戦闘に特化した奴らだ。いくら装備が優秀で統率が取れた攻撃ができたとしても、モンスター相手には冒険者に劣る。そんな奴らを援軍でよこすこと自体あり得ない。ほとんどが無駄死にして終わる。王国軍がいる時点でおかしいんだよ」
そもそもモンスターと人間相手では戦い方が違う。人間相手には効果的な諜報部隊やブラフ、先述の読みあいのような精神的な効果のある作戦は全て無駄になるし、理性のないモンスター相手に一対一の戦いを推奨する騎士道なんてものは命取りにすらなる。
「とまあ、援軍に来たはいいものの動きがかたっくるしいせいで冒険者にとっては邪魔なだけだし攻撃もまともな効果は薄いしで意味ないんだよ」
その中心にいるのがルイだ。人を襲い、人を殺すことに長けた人間。生きるためにモンスターを狩る冒険者とは別の世界の人間。
だからこそ俺はダンジョンに来たというのに。
「早くいきましょう! 勇者として誰一人犠牲にしたくありません!」
ルイには俺を追い出した恨みがある。けれども、
「……今じゃないんだよ」
「今この瞬間にも失われている命があるかもしれないのです! 早く加勢しましょうよ!」
「あ、ああ。いくぞ!」
切羽詰まったようにリエルに怒鳴られて彼女を追う形で走り出したはいいもののまだ胸の内では疑念が膨らみ続けていた。
なぜルイが来ている? 俺らがここに来るまでそんなに時間は立っていないはずだ。なのになんでもう王国軍がいるんだ?
☆
──
「リエルとそこのローブ女!」
「はいっ!」
「ベアトリーチェって名前があるんですけどー?」
「人間側とモンスター側を分断しろ! 戦いすぎてる、あれじゃあ体力が持たない。 そのあとは前線の人間を交代させながら戦線の維持を目標に動くこと! 深追いすんなよ!」
「指示が的確なのがむかつきますねー! リエル、頑張りましょう。やっと二人ですねっ」
「了解した。……ダンテさんは何をするのですか?」
「俺は……」
「俺は?」
神妙な面持ちを一転、満面の笑みを作ると、
「俺は、帰るっ!!」
「ちょっと!?」
「だから嫌なんですよー!」
期待を裏切られたような彼女たちの叫びをスターターにモンスターのひしめく中、俺はダンジョンへと一直線に向かっていった。
興奮して棍棒を打ち鳴らしているゴブリンの脇をすり抜け、人間側へ突進してくるホーンラビットを飛び越え、トロールの足元を潜り抜けながらダンジョン内へ入り込んでいく。
基本的に魔獣暴走は強大なモンスターが例外的に下層に出現し、それにおびえたモンスターたちが地上へ逃げ出そうとすることによって発生する。
そのため元凶となっているモンスターを倒せばあとは待っているだけで自然と収まるものだ。
まあ、リエルがいれば何とかなるレベルだろうな。
戦闘を一切せず第1階層のボスエリアへ勢いよく駆け込んだ。
ここのボスはジャイアントホーンラビット。もちろん倒せない相手ではない。
「……邪魔だっ!」
のんきに後ろ足で顔をかいているそいつめがけて俺は右足に力をこめ爆発的なスピードで距離を詰める。
俺の右手がホーンラビットに……
「おっと、そいつを殺しては欲しくないなぁ。ここまでよく来たね人間」
触れる前に横から伸びてきた腕に手首をつかまれた。
「あんたっ……邪魔するな!」
「それはこっちのセリフだよ。人間」
腕を一閃。地面をバウンドしながら俺はボスエリアの壁まで吹き飛ばされる。
「……ぐっ!」
じんじんと痛む背中を押さえながら顔を上げると人型の何かがそこにいた。
夜空のような藍色の髪に満月のような金色の瞳。血色のない青白い中性的な顔がニヤニヤと笑うたび尖った犬歯が見え隠れしている。
「だめだよ?抜け駆けしちゃあ。ちゃんとボクの子たちと闘ってもらわないとね」
細身の身体のラインがわかるタイトな黒シャツに黒いズボン。葬式にでも行くかのような姿。
ただその背中には一対の翼が生えていた。
左手を支えにしながらようやく立ち上がった俺をおもちゃがもらえた子供のように嬉しそうに口角を上げると、
「ボクは『
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【あとがき】
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