第9話 フード女を許すな
ひんやりとした空気に頬を撫でられて俺は眠りから覚めた。
もう一度睡魔の沼に引きずり落とされそうになっている意識をどうにか頼み込んで現世にとどめ、瞼を開けると、ところどころ焦げ茶色に変色している天井が目に飛び込んできた。
一瞬、ここがどこかわからなくて、慌てて半身を起こしたはずみにこわばった首筋がグキッと嫌な音を立てる。
「……いってぇ」
首筋をさすりながら自分の足元を見るとリエルが俺の左足を枕にしながらその豊かに揺れる金髪をまるで自分のパーソナルスペースを誇示するかのように広げて眠っていた。
(そうだ、俺、飯食ったら眠らされて……ここどこだ!? あのローブ女仲間まで巻き込みやがって!)
あたりを見渡すと壁も、床も天井もしっかりとした木材でできていてベッドの反対側の壁に窓が一つつけられている。
精一杯首を伸ばして外の様子を眺めてみたが暗闇に覆われていて場所の手掛かりとなるものは何も発見できなかった。
俺の身じろぎに反応したのか、
「……んんっ、うんん……」
名残惜しそうに頭をシーツから引きはがし、リエルが目を覚ました。
寝ぼけ眼と目が合う。
「……お、おはよ」
「ん? おはよ、ベア。ごめん寝ちゃってた……」
のんきに寝ぼけてるよこいつ。
「あの性悪と同じにしないでほしいんだけど」
リエルはカッ、と目をまん丸に開くと、
「ダンテさん大丈夫ですか!? 私のことわかりますか!? 頭は大丈夫ですか!?」
リエルがドタバタと俺の枕元に近づき、ズイッ、と顔を寄せてきた。
荒い鼻息がフンスとうなるたびに甘いフルーツのような香りが鼻腔をくすぐる。
「近い。大丈夫だから。離れてくれ」
「いや、熱だけ確認させてください。動いちゃダメですからね」
リエルの柔らかく少し冷たい手が額にピタッと触れる。
なんか母親に看病されている感じだな……。病気ではないけども。
「大丈夫そうですね。……すみませんでした」
「なんなんだあのフード女?! 初対面の“味方”に毒盛るか普通!?」
「すみません!! 私のせいなんです……」
殊勝に頭を下げるリエル。
さすがにかばうにしても無理がありすぎないか? リエルは俺を追いかけて下層まで来て共闘していたから俺が“味方”になること、生活をダンジョンから意地でも動かさないこととかあいつらが俺を引き入れるにあたっての不利な条件をあのフード女に連絡する暇はないはずだ。
どうせフード女が企てて面白がったベルがそれにのっかった形だろうな。
「私がちゃんと説明していたら、ベアを止めていたらダンテさんにご迷惑をおかけすることもなかったはずです。すべてパーティーのリーダーである私の責任です。ごめんなさい」
「いや、あんたが謝ることじゃ……」
「そうですよ、リエルが思い悩むことはないんですよ」
「あんた、どの面下げてきてんだよ。さっさとこの場所と、あんたの目的教えろ。じゃなかったら俺はもうあんたらとは関わらない。帰る」
気味の悪い笑みを張り付けながら部屋へ入ってきたフード女をキッ、とにらみつけ、そのまま立ち去ろうとしたが、スッと目の前に出された腕に阻まれた。
(さっさと帰らせろよ!? “味方”になる話は決着がついた。それでいいじゃねぇかよ! 俺は帰って酒が飲みたいの! さっきもお預けだったし!)
喉が渇ききっていて俺の身体が酒を欲していた。
「ベア! ダンテさんは“味方”になってくれたから! それだけでもう十分ありがたいことなのよ! これ以上迷惑をかけないで!」
フード女はリエルの援護射撃に対して残念そうにため息をつくと、リエルを守るような位置に立ちはだかり、
「では一つだけ忠告を、わたくしたちに手出しは無用です。リエルがあなたにどれだけ惚れていようとも手出しはさせません。あなたがわたくしたちを信用していないのと同じようにわたくしも見ず知らずのあなたを信用していません。“味方”であることは良いですがわきまえてくださいね。わたくしたちのダンテさんなのですから。……リエルは私のものになる予定ですし」
「最後のが本音だよな!?」
「もう用はないですよーお帰りくださいー」
俺の肩をグイグイ押してドアのほうへと追いやっていく。
てか、ここどこだよ!? まあ建物がある時点でダンジョンの外なのはわかってるけどさあ。
部屋の外に出ていく直前に
地上にいる間、俺は「スキルなしのダンテ」で無くてはならない。
身支度を整えて部屋から廊下に身を出した瞬間、地響きのような轟音が建物全体を震わせた。
「ダンジョンの方角です! すいません、もう少しだけ力を借りることになるかもしれないです!」
「クッソ、なんでこんな運命なんだよ……!」
片手に剣を携えたリエルと並走して建物を飛び出していくと、冒険者らしい格好の男が慌てた様子で叫びながら反対方向へと走り去っていく。
「
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【あとがき】
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