第5話 名前

「ねー、あの子じゃない?犯人。」

「やっぱり、怪しいよね…。」

「セグウェイ乗ってるし…。カエル頭に乗せてるし…。」


そりゃ、怪しいわ!と、ツッコみたくなる会話が教室中で行われていた。一緒に登校してきたEnglishもキョトンとしている。


「みんなー、空気重いって!ほら、犯人探しとかいいから面白い話しよーよ!」

そんな中、ウミンの声が教室に響く。

よく見ると…なんか、怪我悪化してない?腕も包帯でぐるぐる巻きで、車椅子である。腕がやられて、松葉杖が使えないのだろう。

いったい、なにがあったんだろうか…。

ひとまず、自分の机に鞄を置きに行こうと教室に入ると、後ろをちょこちょことEnglishがついてくる。


「ねね、さっきからあの子スミくんのことガン見じゃない?」

「え?」

後ろを振り向くと、扉のところで黒髪がぴょこぴょこしている。

あ、目が合った。

「…た」

「「た?」」

大驚失色たいきょうしっしょく!!」

ダッシュでこっちにやってくる黒髪ボブ…あれ、この娘前にウミンと一緒にいた娘か?


「すすっすすすすすすs…」

顔真っ赤だよ。てか、たいきょうしっしょくって、大驚失色?

あまりにも驚いて、顔が青ざめることって意味だよな、確か…。赤いけど。


「あれ、もしかして、現代文庫ちゃん?」

「…現代文?」

今の、この子の名前じゃないよな…?


「は、はい。現代文庫と申します。以後お見知り置きを。」

メガネをスッとあげると、文庫は綺麗にお辞儀をした。


「おお!やっぱりねー。なんか、変わった名前だったから覚えてたんだ!」

すごい?と言わんばかりの顔をして、Englishは俺を見てくる。


「俺も人のこと言えないけど、Englishは特に人のこと言えんだろ。」

「あ、確か トムボブマイク みき さんですよね?お聞きしてます。」

文庫は超真顔でサラッとそう答える。

それにしても、英語の問題でよく出てくる登場人物みたいな名前してんな。


「そそ!で、あだ名はEnglishってね!」

決まったーと言わんばかりの顔をするEnglish。悪戯してあげたくなる。


「で、今のが日本での名前な。コイツの両親アメリカ人だから、本名はI like playing tennis」

「なっ!」

「………。本名、ですか?」

Englishは慌ててるし、文庫はキョトンとしてしまっている。


「なんか、教科書に出てくる例文第一位見たいな感じだよな。」

「ちょ、スミくん!それは内緒って小1の頃に言ったでしょー?」

だから、よく覚えてるな。


「あ、で…。ウミンなんですが…。」

言い出しにくそうに、表情を曇らせて文庫は口を開く。


「誰かに狙われているみたいなんですよ。」

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