閑話 金原武子という女

閑話 金原武子という女


サイド 金原武子



 私は神様に選ばれたらしい。


 小学校の帰り道、私は気づいたら神様の前にいた。


『初めまして、小さな小さなフロイライン。君にお願いがあるんだ』


 ああ、遂にこの時がきたのだと思った。


 私の方がいい子にしているのに、生まれたばかりの妹を構う両親も。


 私の方がおしゃれに気をつかっているのに、振り向いてくれないクラスの男子も。


 他の子供っぽい奴らと同じように扱ってくる先生たちも。


 それら全てが間違っていたんだ。私は特別で、いつか『選ばれる』と信じていた。それが今だったのだ。てっきりクリスマスとか誕生日とか、そういう特別なタイミングだと思っていたけれど。


『へぇ……ふぅん……そうだね。君には使命がある。神の名において命じようじゃないか。これは世界を変える大きな使命だ』


 テレビで見たどんな人より綺麗な神様は、私に使命を与えたんだ。肝心の内容を教えてくれない、おっちょこちょいな神様だったけど。


 そうして生まれ変わった私は、とってもお金持ちな家に引き取られた。


 昔の両親に会えないのは寂しかったけど、すぐにそんな事は気にならなくなった。だってここでは私がお姫様だったから。


 望めばなんでも手に入った。今生の両親は私だけを愛してくれた。学校に行けば誰もが私に憧れ、私に恋をして、私を崇めた。


 ああ、これが本来私に対して行われるべき扱いだ。だって私は選ばれたのだから。


 そうして過ごしながら、私は神様の言う使命を考えていた。はたして、あのうっかり者の神様はいったい何を私にお願いしたかったのだろうか。


 だが、そんなものは決まっている。賢い私はすぐに理解した。


『世界平和』


 前世でも今生でも最も尊いものとして扱われるのがこれだ。であれば、選ばれし者である私がこれを成すのは当然かもしれない。いいや、そうに違いない。


 私の崇高な考えを理解してくれない親も恋人も振り切って、戦争をしている地域をまわっていった。


 戦争をする悪い人達を懲らしめて、食べ物に困っている人達にそいつらのお金を配って歩く。誰もが私に感謝した。ああ、これがやっぱり私の使命だったんだ。


 懲らしめた奴らは、何度叱っても同じことを繰り返すし、それが静まったと思ったら今度は別の人が同じことをする。


 ほとほと困った私だったが、すぐにいい考えが浮かんだ。


 そうだ。この世に生きているから周りに迷惑をかけるんだ。だったら殺してしまえばいい。


 大丈夫。本当はいい人だったのなら、私みたいに転生できる。だから、私は正しい。周りの人だってそう言っていた。正しい私に付き従う、正しい人達が言っているのだ。間違っているはずがない。


 親元から離れても、望む物は手に入る。お金も宝石もスマホも、魔力をこねれば出来上がる。


『幻想具現・魔造工房』


 私が持つ『三つある』固有異能の一つ。これにより私は念じればそれだけで物を作れるのだ。


 大昔の神様に選ばれた人は手から麦を出せたらしいけど、私はもっとすごいのがたくさん出せる。


 他にも『貯蔵神殿』という魔力をいくらでも溜め込める十個の指輪や、『金色の夜叉』という魔法を放てる綺麗な籠手とそれを補助する仮面もある。


 やろうと思えばなんでもできる。今日も今日とて世界平和のために頑張ろう。そう思っていたある日、転生以来久々に聞いた神様の声が頭の中に響いた。


『転生者同士の殺し合いを東京で行え。勝利者になれば願いを叶えてあげよう』


 最初こそ意味がわからなかったが、あのドジな神様だ。言うべき事が抜けていたに違いない。


 本当は『この儀式で世界を平和にしなさい』って言いたかったのだろう。他の転生者も、喜んで死んでくれるに違いない。だって私は正しいのだから。


 だが、蓋を開けてみれば自分以外の転生者は悪い奴ばっかりだった。


 アバドンとかいう怪獣が実は転生者で街を壊すし、それを止めようとしたら黒い鎧の奴が切りかかってきた。きっと神様がくれるって言っていた固有異能目当てで妨害したに違いない。


 神様も神様だ。なんであんな奴を罰せずに、それどころか私に注意までしてくるのか。意味が分からない。


 だが、一番許せないのは鎧の奴だ。右手が切られた時物凄く痛かったし、あいつのせいで足まで失った。


 痛いし悔しい。『幻想具現・魔造工房』ならゲームに出てくるエリクサーだって作れるだろうが、流石にそれぐらいの物だと時間がかかる。手足を取り戻すのは随分先だ。たぶん一週間ぐらいかかるか?


 あの黒い鎧こそが悪者だ。悪魔の王みたいな装飾だし、そうに違いない。


 遂には神様の悪口まで言い出したけど、賢い私はあんな馬鹿な奴に騙されない。強い私を怖がって口から出まかせを言ったんだ。


 天罰を下し、私が救世主になる。私を崇める祝日が出来て、私が一番新しい女神として称えられるのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る