第2話 出会い
第二話 出会い
サイド 剣崎蒼太
東京。前世と今生含めても正直あまり行きなれた場所ではない。こんな事ならせめて地形を把握できるぐらいには通っておくのだった。……いや、無理だそこまで金がない。
一応、人目対策で伊達メガネとマスクはつけた。前世では整った容姿に憧れやら嫉妬やらしていたが、今は冷や汗ものだ。街を歩くだけで注目を浴びすぎる。
東京。前世とはだいぶ違った歴史を歩んだ世界なのに、思っていたほど前世との違いはない気がする。といっても、あくまでイメージだが。
この世界の歴史が前世の世界と大きく分岐したのは、恐らく1946年だろう。その年に何が起こったかと言えば、『怪獣』が出現したのだ。
大きさは家数軒ほど。数カ月前より目撃情報自体はあったらしいが、この年に日本にいた米軍と戦闘をした事で認知される事となる。
この怪獣は誰であろうと構わす人を食べ、家を食べ、武器を食べた。見境なく暴食を続け、次第にその肉体を変化させていく。
最初に発見されてから五年後。食っては逃げてを繰り返してきた怪獣はとうとう海を渡れるほどに成長し、大陸へ。現在では世界中のどこであろうと海沿いなら現れる可能性があるらしい。
最後に目撃されたのは半年前にアメリカで。その時全高七十メートル、体長二百メートルを超えていたとの目撃情報がある。姿は首長竜の足を八本にして目を六つにしたような感じだとか。
歴史の変化はこれだけではない。
先の怪獣が海を越えるようになってから二十年ほど経った頃。アメリカ、ソ連、中国のトップが『公衆の面前で』暗殺されたのである。
今でもその時の映像が残っている。下手人は海藻みたいな髪をした黒髪黒目のどう見ても日本人みたいな女性。美しい顔には無表情が張り付けられ、目の下には酷いクマがあった。
服装は黒い袴姿。用いた道具は『日本刀のみ』。
最初に殺されたのは中国のトップ。国民への演説中に突如現れた女に首を刎ねられて死亡。騒然とする現場の中歩いて帰ろうとする女へと当然四方八方から銃弾が飛んだが、その全てが当たらなかった。
結果女は逃亡。その数時間後、各国のトップが緊急の記者会見をする事になった。
次に斬られたのはソ連のトップ。その二時間後にアメリカのトップである。全て同一人物が映っていたが、本当に同一人物かは今でも疑問視されている。
ただし、この異常な暗殺によって世界は荒れた。
アメリカは七つの大企業が事実上の分割統治をするという意味の分からない事になった。一応大統領はいるが、その裏には常にそれらの企業がいる。
ソ連は真っ二つに。『ロシア帝国』と『ソ連正当政府』とやらで戦争が勃発。今は冷戦状態となっているが、小競り合いは続いているとか。
中国に至っては三国志に逆戻りした。今も戦争中。というか戦線は拡大している。半島も巻き込まれたらしく、毎年地図が変わっている。
ここまででももうお腹いっぱいだろう。だが、まだ続くのだ。
今から二十年ほど前、2000年。ある日本人の女が中東へと向かった。名前は『金原武子』というらしい。
アルビノなのかボブカットに切りそろえられた白髪に白すぎる肌。そして赤く輝く瞳。その美貌から狂信的なファンもいるとか。まあ、信仰心じみた物をもつファンがいるのはそれ以外にも理由がある。
彼女は裕福な家に引き取られた孤児だったらしいが、『異様な金運』を持っていると言われる。それにより異常な額の金を度々しいれては『全て』中東にばら撒いている。
学校や病院の建設。国境なき医師団への支援。街道の整備など、幅広く活動している。まあ、学校や病院は本当に『建てただけ』でまともに機能していないらしいが。
これだけ書けば無私の慈善事業家だ。だが、彼女は『国際的テロリスト』とされている。
というのも、彼女は『武装する者を許さない。争いを許さない。民主主義以外の統治を許さない』と公言しており、現地の武装勢力や自分の呼びかけに従わない勢力を『皆殺し』にしている。
白い肌を黒いピッチリとしたスーツで包み込み、その上から白い布を巻きつけた不思議な服装。そして両手には黄金の籠手が装備されている。華奢な体もあって、正直強そうには見えない。その辺の暴漢にも負けてしまいそうだ。
だが、彼女は一晩で大都市を焼け野原にし、素手で戦車を殴り飛ばした。
映像付きでそんな行為を繰り返す彼女を『鬼神』『怒りの女神』『破壊神』と呼ぶ声は多い。当然懐疑的な視線も多いが、たぶんあれらの映像は真実だろう。
この三つの要素により、この世界は歪な発展の仕方をしている。
ソ連、というかロシアの影響でエネルギー問題か、まず原子力発電所が前世より多い気がする。あと電気自動車がやけに発展している。小麦の方はなんかイギリスとアメリカが頑張っているが、それでもパンとか数十円高い気がする。レアメタルもえらい事に……。
他にも色々変化はあるが、まあ今はどうでもいい。具体的に言うと世界から見た日本の扱いとか。
何故『怪獣』『人斬り』『テロリスト』と思い浮かべていたかと言えば、『こいつら転生者じゃね?』と思っているからだ。
普通人間が、戦車を素手で殴り飛ばし一晩で都市を更地にできるか。普通の人間が、公衆の面前で大国のトップを三人連続同日に切り殺せるか。普通の生物が、二百メートル越えの怪獣にわけわからん成長をするか。
どれもNOだ。というかNOであって。
とにかく、この三人……三人?がこの殺し合いに参加するかもしれない。それを踏まえた上で今後を考えなければならないわけだ。
……どうしろってんだ、これ。特に怪獣……。
そうこう考えながら東京都内を歩き回る。とりあえず、少しでも情報が転がっていないかと見回ったのだが、残念ながらこれといって得られた物はなし。
小さくため息をつく。気が重いなんてものじゃない、吐き気がしてくる。
これから人を殺すのか?けどそうしなければ殺されるんじゃないか?ただ逃げ回るだけじゃ、最終日にランダムで死ぬ。運に命を預けるには、ちょっと無理だ。
締め付けられるような胸の痛みを無視して、今日の寝床を探すとしよう。
ホテルにでも泊まろうものなら、宿泊先ごと爆破されるかもしれない。他人を巻き込むのは嫌だ。ついでに言うと、例えカプセルホテルだとしても金が足りない。
幸いと言えばいいのか、この肉体は尋常じゃない頑強さを持つ。数日東京で野宿するぐらいなら風邪一つひく事もないだろう。雨の日でも大丈夫な自信がある。
選んだのは人気のない公園。地元で見かける公園よりだいぶ広いが、中央部以外は木々が生い茂り視界は悪い。
その木々の中に入り込み、少し空いたスペースへと寝袋を出した。そして近くにお香を置く。これは魔道具作成で作った物だ。効果は人避け。
このお香は『駐車場にチンピラが屯しているコンビニ』ぐらい近寄り難くなる。うん、しょぼい。しょぼいけどないよりはマシだ。
コンビニのおにぎりを食べた後缶ジュースを飲み、公衆トイレで用を済ませた後寝袋に包まる。一応、寝る前にスマホを確認しておこう。怪獣とテロリストは東京に来れば目立つはずだ。
「げっ」
スマホで確認したニュースサイトでは、『金原武子が日本に!?』という見出しが。
やはり、転生者だったか。ニュースサイトや彼女の隠れファンサイトを眺めると、彼女は時折姿を消して警察をやり過ごしているが、目撃位置が段々と東京に近づいている。戦闘になるかもしれない。注意しなくては。
彼女が転生者であるという考えは、他のメンバーも持っているはず。出来るなら別の人に戦ってほしいものだ。
バトルロイヤルの基本は初手隠密。他が戦って数を減らして消耗している所に漁夫の利を狙うのが定石だ。あまり、やりたくはないのだが。
もしも怪獣、人斬り、テロリストが転生者だとして。残りの自分を含めた三人の有利な点は『姿も能力も知られていない』事。情報をたくさん持っている方が強いのは常識だ。できるだけ他の転生者に自分の事を知られないようにしないと。
まあ、流石に自分だけ一方的に他の転生者から情報を引っこ抜かれるなんてないだろう。
とりあえず今日はもう寝よう。肉体的には万全だが、精神的に疲れた。スマホを携帯型充電器につないだ後、横になって寝袋のチャックを引き上げる。曇り空を見上げながら、小さくため息をつく。
どうか、寝ている間に他の転生者がこちらに来ませんように。
そう祈ろうとして、バタフライ伊藤の顔がちらついたからやめた。絶対碌な事にならねえ。
* * *
サイド 新城明里
夜の街を歩いていると、どうしてこうも冒険をしている気分になるのだろうか。
普段なら自室で漫画を読むかスマホでも眺めている時間帯。しかし、今日だけは違う。背負ったリュックの重みを感じながら、人気のない公園へと入っていく。
周囲に人がいない事を再度確認して、少しだけ深呼吸。今日、私は物語の主人公になるんだ。
公園にある照明に、私の『銀の髪』が照らされて光を反射する。そう、全てはここから始まった。
私が小さい頃に亡くなってしまったお母さん。その部屋を久しぶりに掃除していた時、偶然隠し金庫みたいな物を発見した。
まるでコミックの世界みたいなシチュエーションにテンションが跳ね上がってしまい、お父さんには黙ってこっそり開錠を試した。まさか、私の誕生日だったとは思わなかったけど。
ちょっと涙ぐみながら中をのぞいて見ると、そこには一冊の本と『金色の液体』が入った瓶が。
瓶の方をゆすったり明かりに照らしてみたりしたが、なんとなく蜂蜜っぽい事しかわからなかったので本の方へと興味が移った。
洋風の装飾がされているが、だいぶ古ぼけた本。それを手に取って中を見た瞬間、頭にガツンと強い衝撃を受けた気がする。
目の奥に熱い感覚を覚えながら気絶して目が覚めた頃には、自分の髪は銀髪になっていた。
軽くパニックになったが、どう考えても原因はあの本であると確信した。とりあえず読み進めた所、それが本物の『魔導書』である事がわかったのだ。
はっきり言おう。滅茶苦茶興奮した。
私は少し、そう少しだけ周りと会話が上手くいかない方で、インドアな趣味にはしっている傾向がある。その結果、世間一般でいう『中二病』である自覚はある。だが、リアル中学二年生なんだから逆にセーフでは?とも思うのだ。
狂ったように魔導書を読み漁り、この世界に魔法が実在する事を知った私が思った事は一つ。
「私も魔法使いになる!」
お父さんは基本的に仕事で家に帰らない事が多い。この髪の件は今でもバレていない。学校もやたら歴史があるのに、生徒の奇抜な格好にはルーズという少しおかしな環境も功をそうした。これが校則の厳しい所ならすぐにお父さんに先生から電話がいっていただろう。
きっとお母さんは何らかの理由で引退した元魔法使い。自分はそのあとを継ぐのだ。
だって自分は『特別』に違いない。母譲りの美貌に抜群のスタイル。そしてここ最近『異様に色んなものが視える目』まである。そこに魔導書まで見つかったのだ。これはもう主人公的な何かに違いない。
魔法陣をあらかじめ書き込んだビニールシートを敷き、輸血用パック(通販で買った)を振りかけていく。
そして魔法陣の中央に魔導書と一緒に見つけた『蜂蜜酒』を乗せて準備完了。
スマホから音声ソフトを使って魔導書に記されていた『笛の音』を流しながら、呪文を唱えていく。
一節つむぐごとに、周囲の空気が変わっていくのがわかる。元々低かった気温が更に下がり、こちらを照らしていた照明が明滅を始める。
「いあ!あい!はすたあ!」
最後の呪文を叫ぶ。すると、魔法陣が眩い光を発し、蜂蜜酒の入った瓶が甲高い音と共に砕けた。
ビニールシートの上を広がっていく蜂蜜酒。明らかに瓶に入っていた量を超えるほど広がったそこから、一本の『腕』が出てくる。
黒いその腕は体毛がなく、昆虫の様な外骨格を有している。だが、本来外骨格の生物はそこまで大きくなれないはずだ。なのに、目の前の腕は私の腕よりも長く太い。
蜂蜜酒から這い出てきたのは、真っ黒な異形の怪物。
カラスを彷彿とさせる頭。首から下には体毛もなく外骨格で覆われており、基本的な骨格は人間に近い。しかしやけに長い胴体からは二対の腕が生えており、どこか昆虫を彷彿させる。
手足の先には猛禽類の様なかぎ爪が生えそろい、背中で折りたたまれていた黒翼がバサリと広げられる。同時に、生肉が腐ったような悪臭が漂ってきた。
「ビヤーキー……!」
三メートルほどの巨体でこちらを見下ろす怪物の姿は、魔導書に書いてあった通りだった。
やはり……やはりこの魔導書は本物だった!私は魔法使いになれたんだ!
これから私の輝かしきダークヒーロー伝説がはじまる。そして、同時に『お母さんに会える』。だってビヤーキーはどこにでも飛んでいけると本に書いてあったから。輝かしい自分の姿を思い描きながら、鼻息荒く召喚した『従僕』に声をかける。
言いようのない悪寒を感じるが、知った事か。今の私は過去一番のテンションなのだから!
「よく来たな我が忠実なる僕よ!これより――」
一晩かけて考えていたセリフを言っていたら、いつの間にか宙を舞っていた。遅れて、自分は吹き飛ばされたのだと理解する。
地面を何度も転がっていき、止まった先で自分から血が出ている事に気づいた。
お腹が熱い。焼ける様だ。痛みで頭がおかしくなってしまう。だというのに、声はかすれて出ないし、傷口を押さえる事すら出来ない。
指一本動かせないこちらに、ビヤーキーが近付いてくる。血に濡れた爪を見せびらかす様に、右手の爪をカチャカチャと鳴らしながら。
鳥の嘴みたいな口元は、まるで人間みたいな嘲笑に歪んでいた。
あ、私ここで死ぬんだ。
すとんと、心の中でそんな言葉が落ちた気がした。きっと、どこかで召喚の手順を間違えていたのだろう。それとも魔導書の方に間違いがあったのか。
何にせよ、これは私の従僕などではない。純然たる殺意を持って私に迫る『死』そのものだ。
「ふざ……けんな……!」
血の混じった空気を喉から捻り出したが、きっと言葉として成立していなかっただろう。
だが構うものか。何故、自分がこんな所で死ななければならない。何故、私が獲物を前に舌なめずりする三流に殺されなければならない。
いいや、そんな事はどうでもいい。ただ一つ。はっきりしている事がある。
「死にたく……ない……!」
言う事を聞かない両手で、上体を起こす。僅かでも動く度にお腹から流れる血の量が増えるが、このまま寝そべっていれば死ぬだけだ。
残念な事に下半身は動きそうにない。這いずってでも逃げるしかないか。
かなり無茶な事を考えているのはわかっている。だが、このまま座して死を待つつもりはない。一分一秒でも生き延びてやる。不完全な召喚だというのなら、案外時間さえあれば勝手に消えるかもしれない。そうなれば、救急車を呼んで……!
その時だった。ガサリと、少し遠くから音がしたのは。
無意識にそちらへと目を向ける。公園の端にある木々が生い茂った所、そこに一人の少年が立っているのが見えた。
公園に複数ある照明の一つが、その姿を照らし出す。
それは、あまりにも美しい少年だった。濡れ羽色の髪を短く切りそろえ、切れ長の瞳はまるで黒曜石みたいだ。白い肌にはシミ一つなく、全てのパーツが黄金比のごとく並べられている。
現実離れして美しい少年は口を真一文字に引き結び、何かを決意した様子でこちらへと歩いてくる。
「だ……め……」
来てはダメだ。この怪物に無手で挑むのは自殺行為に他ならない。警察と救急車を呼んだらすぐに逃げてくれ。そう叫びたいのだが、体はいう事を聞いてくれない。
耳障りな音が聞こえる。遅れて、それが怪物の嗤い声だと理解した。見なくともわかる。新しい『獲物』を前に、怪物は喜んでいるのだ。
もうダメだ。あの少年は死ぬ。私のせいで、人が死ぬ。どうやら天国のお母さんには会えないらしい。
最初の目標、『ビヤーキーの背に乗ってお母さんに会いに行く』というのは、どうあっても叶えられそうにない。私はたぶん地獄行きだ。
その時だった。少年の体を青い炎が包み込んだのは。
一瞬だけ燃え上がった青い炎はすぐに消え去り、その中から一人の『騎士』が歩み出る。
黒地に青で彩られた全身鎧。装飾はされども、関節に少し広めの隙間がある事からそれが観賞用ではなく実戦を想定したものだとなんとなく理解した。
腰には武骨な短刀が提げられ、青い腰布が歩く度に少し揺れる。悪魔を彷彿とさせる兜には青い六本角が王冠の様に生えていた。
異様なまでの存在感。ただそこにいるだけで感じられる圧力はビヤーキーのそれとはケタが違う。
だが、何よりも目を引くのは右手に握られた一振りの剣。
シンプルなシルエットながらも柄頭から切っ先まで蒼黒で染め上げられた剣は、各所に邪魔にならない程度の装飾がほどこされている。刃渡り一メートル程の両手剣だというのに、自分には『小さな太陽』と感じられた。
ビヤーキーが、騎士の姿に一歩後退る。先ほどまで『狩る側』として見せていた余裕は砕け散り、『狩られる側』と成り果てた怪物は新たなる獲物となる。
気が付けば、騎士は自分のすぐそばまで移動していた。立ち姿から剣を振りぬいたのだと理解できたが、その動きは一切見えなかった。
認識できたのは、ビヤーキーが両断されて崩れ落ちる様だけ。
騎士がこちらに振り返り、立ち上がる事も出来ない自分を見下ろしてくる。
雲の隙間から覗いた月明かりが、私と騎士をスポットライトみたいに照らし出した。まるで、物語のワンシーン。
普段なら喜びながら感情を吐き散らす口もまともに動かず、こちらを見下ろしてくる騎士を最後の光景として、意識が闇へと落ちていった。
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