第1話 神託

第一話 神託


サイド 剣崎蒼太けんざきそうた



 なんやかんやあって転生して十五年経った……。


 本当に……本当に色々あった。まずまさかの孤児スタート。幸いすぐに引き取られるも、引き取られた一年後に今の両親の間に娘が産まれる。戸籍上は妹にあたるわけだ。


 そこはまあ、これといって問題はない。夫妻は娘が産まれたからといって自分を孤児院に送り返したりせず、実の子供……とまではいかずとも普通に育ててくれた。


 勉強に関してはかなり上手くいっていると思う。前世そんな頭よくなかったけども、それでも大学を出たのだ。復習をする感覚でやっていけば神童にもなれる。まあ現在は秀才レベルだけど。


 英語とかは小さい頃に国営放送の教育番組見まくった。前世で九歳までが一番外国語覚えやすいって聞いた気がしたし、おかげで今生では日常会話ぐらいならいけるようになった。ある意味ネット小説の転生者あるある。


 前世では冴えないヘッポコ新人サラリーマンだったが、今生はエリート勝ち組人生歩んでやるぞと意気込んで色々やってきた。前世の両親との死に別れも、今はもう飲み込めている。


 その為に中学では生徒会長までやったのだ、内申点稼ぎ目的で。……後悔しているけど。


 それ以外にも頑張った事はある。


 ぶっちゃけ、だ。転生する直前にわかってしまった神様が邪神という事実。ニャル……いや、なんか名前呼ぶと祟られそうだしここは『バタフライ伊藤』とでも呼称しよう。


 バタフライ伊藤が、はたして転生させた自分に何もしてこないだろうか?


 あの邪神の行動とか予想できない。神様の思考って段階で想像もできないのに、バタフライ伊藤となってはもうどうしようもない。


 一番いいのは何も起きない事。だが、それでも最悪に備えるべきだろう。そもそもゴリゴリのチート転生を並行世界の日本にしたのだ。『色々』違うとはいえ、現代社会で生きていくには自身の能力への理解とか大事だろう。特に隠し方と加減の仕方。


 そんなわけで『剣術』と『魔術』について色々と鍛錬や実験をしてきたわけだ。


 固有異能とやらでやたら凄そうな剣を渡されたのだ。剣について技術を身に着けようと思うのは当然だろう。だが、現代日本に西洋剣の訓練をつめる場所なんてそうそうない。これがフェンシングとかならともかく、自分が持たされた剣は両手剣だ。


 というわけで色々妥協して剣道を学ぶようになった。いや実際これが為になる。剣の術理なんて前世では考えもしなかったが、色々あるんだなぁ……。


 そして魔術。なんか『異能』とやらで与えられた謎知識をノートに書き込んで整理してみたり、色々作ったりしてみたわけだ。


 なんというか……うん。人には向き不向きがあるんだなってすっごくわかった。


 どうにも自分は『火』と『剣』に関する物には補正が入るが、逆にそれ以外の魔道具?とやらには全然適正がないっぽい。いや作れはするけど性能がお察しとなる。


 例えばだ。魔術で懐中電灯的な物を作るとする。


 なんか光る結晶を作ったりそれを増幅するガワを作ったり、魔力を溜め込む電池的な物を組み込んで完成としよう。


 その辺のコンビニで売っている懐中電灯と同じ性能を出すのにかかった費用、約一万円。かかった期間、一カ月。


 バカかと。アホかと。もう普通にコンビニ行けよと。金と時間返せよ。


 ただし、これがなんか光る結晶じゃなく『火』を使ったり、そうでなくっても『ある物』を混ぜると格段に難易度が下がるのだが、それはそれとして。


 とにかく、自分は勉強、剣道、魔術、そして家の手伝い。中学時代はそこに生徒会業務も加わる。凄まじい……それは凄まじい密度の人生をおくってきた。


 大変ではあったが、輝かしいモテモテリア充生活をする為だと頑張れた。


 まあ生徒会長になったのは凄まじく後悔しているけどな!所詮中学の生徒会長と思って甘くみてたわ!いや後悔している内容は業務についてじゃなくって人間関係だけども!


 なお、今生では超絶イケメンだが未だ童貞である。いやほんと、ちょっと都会に行けばスカウトがわんさか来るし隠し撮りとかもよくされるぐらいにはイケメンである。


 だがしかし、忙しすぎて付き合うとかする時間がない。そしてよりにもよって自分が通っている中学は『男子校』。これで彼女を作れと言う方が無理である。


 まあ高校は共学にいくので、彼女ぐらいできるだろう。前世とは違うのだ前世とは。


 まあこれまでの人生色々あった事は置いておこう。それよりも、考えるべき事がある。それも超弩級の問題が。


『ぴーんぽーんぱーんぽーん』


 そんな人を馬鹿にしたようなアナウンスが、深夜零時に頭の中へと響いてきたのだ。その鈴を転がすような美声は覚えがある。たぶん、今後一生忘れないだろう声。


 自分を転生させた邪神の声だ。


『これを聞いている転生者諸君!君達に神託を、試練を授けよう!』


 うっわ。絶対碌な内容じゃねえ。昔から神様の試練って罰ゲームとしか言いようのないやつばっかじゃん。ギリシャ神話先輩が言ってた。


 だがこちらの内心なんて無視して、邪神の演説は続く。


『九人の転生者による殺し合い!それを東京でしてもらいまーす!』


 は?……は?


 待て、殺し合い?ふざけるなどういう事だ。冗談だよな?


『まあ九人と言っても予定していたうち三人が既に死んでいるんだけどね!はー、つっかえ。あいつらおもちゃ箱行き確定な』


 待ってくれ。頼むから冗談と言ってくれ。


『まあ敗北者どもの話はどうでもいいとしよう。それよりもこれからの事が大事なのさ!期間は今年の12月18日の午前0時から同月24日23時59分59秒ジャストまで!』


 は?18日って、来週じゃないか!?ふざけるなよ、おい!


『期間中に一定時間東京都にいなかったら強制的に敗北扱い!昇天してもらうよ!それと、もしも最終日に複数人生き残っていた場合もランダムで一人になるまで昇天してもらうからね!そこんとこ注意して楽しく殺し合おう!』


 逃がさないし八百長もダメ。どれだけ俺達を殺し合わせたいんだ。どうすれば、どうすればいい。


 何か、何か抜け道はないのか?と、とりあえず他の転生者にも相談すればなにか案が出ないか?それぞれ何かしらのチートを貰っているはず。邪神由来とか不安しかないが、ワンチャンないか?


『ああ、もちろんただでとは言わないとも。最後に生き残った勝者は、どんな願いでもかなえてあげる』


 ……あ、これ、詰んだ?


『望むなら世界一の美姫をあげよう。望むなら使い尽くせない黄金をあげよう。殺したい人間がいるのなら人類史から消してあげよう。転生する前の世界に帰りたいなら、五体満足で帰してあげよう』


 こいつ、是が非でも殺し合わせるつもりだ。


 今、自分でも心が動いてしまった。今生に忙しくも満足していた自分が、『前世の両親に会えるかもしれない』と、揺れてしまった。


 もう他の転生者を信用できない。他の転生者も信用してくれない。誰だって抜け駆けを考える。自分でも、相手でも。


『じゃあ皆!清く正しく、神の名に誓って正々堂々殺し合いましょう!どんな手段を使ってもいいけど、東京への被害は抑えてね?私との約束だよ?破ったら酷いからね!』


 そんな言葉を残して、邪神の声は聞こえなくなった。


 がばりと布団から跳ね起きる。全身は汗でびっしょりと濡れており、息が荒い。何度か深呼吸をするが、心臓がバクバクと音をたてている。


 ああ、ああ……邪神から渡された『第六感覚』とかいう異能が吠えている。今のは夢幻の類ではない。正真正銘くそったれな『神託』であると。


「は、はは……」


 乾いた笑いが出てくる。これが笑わなくってどうしろというのだ。


 俺は、俺には、人を殺すか殺されるかしか選択肢を残されていないのだから。



*         *        *



 翌日、急いで東京行のチケットを手に入れた。最悪つもりだったが、運よく買えた。これで開始早々他の転生者に姿を見られるという事態は避けられるはず。


 問題はとれたチケットが殺し合い開始日という事。これはかなり迷った。いっそ他の転生者に見られるリスクも覚悟で東京に走っていくか、それとも普通に新幹線を使うか。


 これは最終的に、東京在住の転生者がいる可能性を考慮して新幹線にした。そもそも、今から東京に行ったとして何が出来るのか、という問題もある。


 他にも色々な物を買い集めた。野宿を想定して寝袋や缶詰などを。


 金についてはどうにかなった。今生の両親から与えられる小遣いは月五百円。それだけでは当然足りないわけだが、生徒会長時代会員の一人からバイトを紹介して貰っていたのが幸いした。貯金を切り崩す事になったが、命には代えられない。


 バイトと言っても田舎の農家さん達の所に日雇いで行って、畑の棚づくりや網の修復。腐ってしまった木を引っこ抜いたりゴミ捨て用の穴を掘ったり埋めたり。


 本来なら最低でも一日作業。最悪月単位の仕事だが、そこはチート転生者。イカレタ身体能力でゴリ押しして終わらせてきた。まあ少し不信に思われたかもしれないが、悪い事をしているでもなければ気のせいで済まされるものだ。


 両親への説明は『傷心旅行』で済ませた。まさか、中学生活で起きた忘れたいが役に立つ日がこようとは。


 それでも疑われる部分もあったから、自作の魔道具で思考の誘導も行ったけど。ライター型にしたおかげで多少はいい出来だと思う。まあ『火』に関する魔道具でも『催眠』というジャンル事態に適性がないせいで精々が誘導どまりだが。予算の都合もあって作れたのは二つ。使い捨てなので残りは一つとなる。


 今まで邪神の嫌がらせ対策で作った魔道具のうち、使えそうな物と急遽買ったサバイバル用品をこれまた買ったばかりのリュックに詰め込んで。


 震える足で駅のホームに踏み出した。



*            *            *



剣崎蒼太けんざきそうた 年齢:15


力:A 体:B 速:B 魔:B+(■■)


異能


第六感覚:B

 五感とは別に存在する、『この世ならざる器官』。敵の行動予測、発言の真偽判定などが可能。また、被奇襲時などで判定が有利になる。


食いしばり:C

 文字通りの効果。一回の戦闘で一度まで即死を防ぐ。出血などの継続ダメージ、首から上が消し飛ぶなどの攻撃には発動しない。


魔道具作成:D

 魔力を用いた物品を作る技術、及び知識を授ける。固有異能の影響で変質し、『火』と『剣』に関する物に対しては追加補正。それ以外にはマイナス判定が入る。


固有異能


偽典ぎてん・炎神のえんしんのつるぎ

 詳細不明。形状は両手剣。


エリクシルブラッド

 詳細不明。



※バタフライ伊藤産の転生者は共通して『神造人間』となる。これにより神話生物、及び魔法による精神への干渉を阻害。かつ時空間への耐性を獲得する。


※同転生者達は自己の肉体をある程度制御可能。具体的には力加減はそうそうミスしないし、皮膚などの強度を任意で下げる事も可能。


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