クトゥルフ式神様転生~並行世界日本の転生者~
@TAROPE01
クトゥルフ式神様転生~並行世界日本の転生者~
プロローグ
プロローグ
サイド ただの会社員
「は……え……?」
気が付いたら真っ白な空間にいた。ここまでの白さは初めて見た。まるで色そのものの概念でもぶつけられているみたいだ。
あまりの白さに前後左右どころか上下すらもわからなくなってきた。自分がどこに立っているのか、そもそもここがどこなのかがわからない。頭がくらくらしそうだ。
かなりの不快感を味わいながらも、どうにか状況を理解しようとする。
自分はさっきまでパソコン相手に入力作業をしていたはずだ。エクセルに四苦八苦しながらも在庫と金額を確認したり、本社から送られてきた資料とにらめっこしながら現在の表と比べていたはず。十一月は地獄だ……。
入社二年目。ようやく会社にも慣れてきたかという思いは幻想でしかないと思い知らされながら、在庫の総額と本来の数字が合わない事にクレッションマークと脂汗にまみれていた所だった。
だがここはどう見ても会社ではない。少しだけ冷静になった頭で周りを再度確認してみると、この純白の空間は球体になっている気がする。どうなってるんだ。SFにでも出てくる宇宙船かなにかか?それともネット小説にある転生の間とか?
「せいか~い。いやぁ、最近の子は理解が早くて助かるね~」
突然背後からそんな声が聞こえた。馬鹿な、さっき周囲を見回した時誰もいなかったし、ドアらしき物もなかったはず。どこから現れた。
動揺しながら、慌てて背後を振り返る。特に考えての行動ではない。ただの反射だった。
しかし、次の瞬間には後悔していた。
「あ、あぁ……」
喉から息がもれる。言葉にはならないが、それを気にする余裕はない。
美しすぎる。それ以外に目の前の存在を表現する術を自分は知らない。いや、そもそもこの世界に『これ』を表現できる言語が存在するのか?
わからない。思考がまとまらない。いや、思考など必要ない、目の前の存在を見る事できただけで、自分と言う存在の価値は終了した。これ以上何かを見る必要はない。
自分の両手が眼球へと向かう。もう必要ない機能は、停止させてしまえ。
「おっと、少し張り切り過ぎたか。これぐらいならどうかな?」
「っ!?」
自分は今何をしようとしていた!?
慌てて両手を顔から遠ざけ、勢い余って数歩後退る。冷や汗が止まらない。心臓がまだ激しく脈打っているのは、危険に対してなのか先ほど見た『過ぎた美貌』に対してか。
眼前の存在。それをようやく認識する事が出来た。
銀色の髪を腰ぐらいまで伸ばし、金色の瞳でこちらを眺めている。褐色の肌にそれらは良く映え、身に着けているシスター服は男を魅了するスタイルもあって逆に艶めかしい。
間違いなく、今までの人生で見たどんな人間より美しい少女がそこに立っていた。トップアイドルやハリウッド女優でさえ彼女の前では霞むだろうほどの美貌。
思わずその容姿に見とれて不躾な視線を向けてしまうが、少女は気にした様子もなく語りだす。
「改めて、初めまして人間くん。君が察した通りここは『転生の間』で、私は神様さ」
「か、神様、ですか……?」
年下に見える少女だが、咄嗟に敬語が出た。有無を言わさぬ圧力。先ほどまでの狂気的な何かこそ感じないが、それはそれとして『存在としての格』が違い過ぎるのを魂レベルで思い知らされている気がしてならないのだ。
自分が鋭いとかそういうのではない。たぶん真っ当な生物なら絶対に感じ取れるだろう。目の前の存在は埒外の何かだと。逆に神様を自称されて納得してしまうほどに。
「あれ、おかしいね。てっきりここは『お前のミスで俺は死んだんだな!お詫びにチートをよこせ!ついでにハーレムに加えてやるよ!』とかなるものじゃないのかい?」
「そ、その様な事は決して……は、はは」
無理に決まってるだろ。巨大怪獣とかもっとヤバい存在を前に、そんな風に突っかかれる奴はもはや神話の英雄だ。もしくは規格外の馬鹿。
少なくとも自分には無理だ。ひたすら低姿勢で媚びへつらうように笑みを浮べて、様子を窺う事しか出来ない。やべーよ。目の前の存在怒らせたら一瞬で魂ごと消えるってわかっちゃうよ。オカルトの知識なんてラノベぐらいなのに本能でわかっちゃうレベルの化け物だよ。
「まあいっか。おめでとう!君はいわゆる『チート転生』に選ばれたよ!わー、どんどんパフパフ~!」
どこかからファンファーレが聞こえてくる。
「へ、へへ、そ、そりゃあありがたく」
どうにかおべっかを絞り出したが、頭の中はパニックだ。は?チート転生?ネット小説とかでよく見る?
いや、確かにそういうのに憧れる事はあるし、よく転生物を読んだりしているけども。だからといって突然自分がと言われても。
脳裏によぎるのは家族の顔やまだ見終わっていないアニメ。完結していないソシャゲ。撮り溜めしたアニメ。その他諸々がよぎっていく。ここで彼女とかがいないのは少し悲しい。
いやそれはさておき。
とにかく、色々思う所はあれど話を合わせるしかない。絶対に機嫌を損ねるな。マジで命がけだぞ。
「おや、もう少し嬉しそうにはしないのかい?」
「やったー!転生だー!チート使ってハーレム生活だー!わーい!」
やけくそだよ畜生。唸ってくれ俺のおべっかパワーよ!新入社員歓迎パーティーで部長とかにやった時以上の全力をだせぇ!
ひたすら万歳三唱と眼前の神様への感謝を口にする。頼むから効いてくれ……!
「うーん、ちょっとうるさい」
「申し訳ございません!」
速攻でその場に土下座。足場とかよくわからんけどなんか出来た。本当になんだこの不思議空間。
「まあ君の喜んでくれている『フリ』は受け取ったよ」
「ひっ……め、めっそうもございません」
あー……ごめん母さん父さん。俺はここで消し飛ばされます。先立つ不孝をお許しください。いや、もうここに呼び出された段階で死んでいるかもしれんけど。
過労死するほどブラックではなかったはずなんだけどなー。突然の心臓麻痺とか、それともテロか。はたまた神様の悪戯か。何にせよもう帰れる気がしねえわ。
「まあそろそろ話を進めようか!」
「へ、へぇ!」
セーフ!圧倒的セーフ!許されたぁ!
「じゃ、とりあえず立って」
そう言われた瞬間、自分は直立不動になっていた。もう驚かねえぞ。
「そしてこれ持って」
いつの間にか手には人間の頭大の物体が。なんだこれ……。
カクカクとしている。なにやらいくつもの面を持った物体であり、面ごとにアルファベットが書かれていた。
「じゃ、その十面ダイスを振ってみようか」
「へ?」
思わず声を上げて神様の方を見ると、彼女の横にでかい木の板が置いてあった。
『力』
『体』
『速』
『魔』
四つの項目っぽいのが並んでおり、その下には『異能』と『固有異能』とも書かれてある。
え、なにこれ。あれか?こう、ステータス的な。
「そう!やっぱり話が早いね~」
今更だけどナチュラルに頭の中読まれてるな、これ。ハハ、やっべどうしよう。
「私は心の広い神だからね。気にせず自然体にしていいよ」
「あ、ありがとうございます」
それ、社長とかが『今日は無礼講で』とか言うのと同じでは?いや、神様だからもっと質悪いわ。
ダメだ、こんな事を考えていたら消される。なんでもいい、とりあえずこのダイスを振るんだ。
咄嗟に投げて出た文字は『A』。それが板の『力』の所に書き込まれる。あ、これでステータス決めるのね。
それにしても『A』か。十面というのを考えるといい方という感じだな。書かれているのはA~Eの五つに、それぞれに『+』を足された物の計十個だし。
っと、深く考えてはいけない。なんとなく神様が『早く早く』と目で言っている気がする。
そうして振っていくと、『B』『B』『B+』と文字が出た。うーん、驚くほど好調。なんかB以上しか出ないな。よかった……のか?え、待って。これ実は『E』の方が優秀とかそういう感じじゃないよね?
「なるほどなるほど……」
なんか知らんが神様がうんうんと頷いている。そして、気づいたら今度は別のダイスが握らされていた。それも二つ。
「じゃ、今度はそれを振ってみよう!異能……スキルって言いかえた方がいいかな?それを三回ふってごらん」
「は、はい」
そうして振ってみる。これ、二つ同時に振ればいいのか?
『第六感覚……B』
『食いしばり……C』
『魔道具作成……D』
色々ゲームにでも使われてそうな単語が出てくるのだが、結局このアルファベットなんなの?怖いんだけど?ただ性能を示すだけならいいんだけど、厄ネタとかないよね?
「ではでは、最後に固有異能を決めよっか!武器や防具の形態だとしても霊的に繋がっている物だから嵩張らないし、持ち運ぶ必要も盗まれたりする心配もないよ!更に言えば多少なら壊れても時間をかけて魔力を注げば直る!どう、すごいでしょう?」
「はい!素晴らしいと思います!」
ダメだ質問する度胸とか自分にはない!無理!怖い!超怖い!
そして渡されるサイコロ。もはや無心だ。無心で振るんだ。考えてもしょうがない気がしてきた。あれ、これ無心というより諦めの境地では?
出てきた数字は『2』で、固有異能の欄に空欄が二つ現れた。直後にまた新しいダイス。いや何回サイコロ振らせんだよ。
とりあえずサイコロを振った結果、以下の二つが固有異能の欄に。
『偽典・炎神の剣』
『エリクシルブラッド』
日本語か英語で統一せーや。
やっべ、思わずツッコんじゃった。大丈夫かな、神様怒ってないかな?
「………」
「ひぇ」
やべぇぇぇぇ!無言無表情だ!待って!?え、そんな気に入ってたの、あのネーミング!?貶しちゃまずい感じだった!?自信作だった!?
「な、名前からして高貴さが伝わってきますね!と、特に『偽典・炎神の剣』だなんて、いやぁ、もうものすごく強そうで!きっと地上にやってきた魔王とか倒しちゃうんじゃないかって、ええ!聖剣って感じですね!」
……いや、偽典って何?偽ってついてるけど大丈夫?実は聖剣じゃなくって魔剣とか?待って待って。ヒント、ヒントちょうだい。
いつの間にかニッコリと元の笑顔に戻った神様。これどっちの笑顔なんだろう。機嫌がもどってくれたのか、それとも『笑顔とは本来――』ってやつなのか。お願いだから前者であって。
「時間をかけすぎちゃったかな?そろそろ転生しようか!あ、最後だし質問ある?三つまでなら答えてあげるよ?」
「え、あ、じゃ、じゃあ、転生先の世界はどういう世界でしょうか……?」
突然の質問タイムだが、ありがたいのは事実。ずっと疑問に思っていた事を口に出す。
兎にも角にも転生先がどういう世界か知らないと。それによって残り二つの内容が変わるぞ。
「そうだね~、ぱっと見は君が生きていた世界と変わらないかな?怪獣や超人が暴れていたり、裏社会で魔法使いが実在したりするぐらい?」
「ワー、ソウナンデスカー」
まさかのローファンタジー路線である。ハイファンタジーじゃないのね。いや中世な生活とか嫌だけれども。ネットもアニメも捨てられんのじゃ。
だが待って欲しい。怪獣?超人?何それ?
怪獣の事、超人の事、魔法使いの事。気になる事は山ほどあるが、感情のままに喋るわけにはいかない。
あまりの恐怖体験の連続に、一周まわって冷静になってきた……気がする。たぶん気がするだけで、後で思い返したら全然冷静じゃないかもしれない。だがとりあえず自分は冷静だと言い聞かせよう。神様相手に感情的になったら死ぬってギリシャ神話で言ってた。
深呼吸、深呼吸だ……。
「では……私の他に転生者とか転移者と言った存在はその世界におりますか?」
現代っぽい世界なら、少なくとも怪獣とかの情報は手に入るだろう。だったらネットやテレビでは手に入らない情報を得るべきか。
「わりといるよ?私が君みたいに送り出したのもいれば、別の神格が送った例もある。あとは偶発的だったり一部のぶっとんだ天才とかがやったりしたかな?」
「そ、そうですか」
わ、ワンチャン転生者連合とかあるか?『このわけわからん世界で手を取り合って協力して生きていきましょう』的な互助会。
……創作だったら洗脳されるか暴走するか噛ませにされそうだなぁ。
「じゃ、最後の質問だね」
「は、はい」
どうする。残り一個、何を質問すればいい?ああ、必死に冷静になろうとしていた頭が、また沸騰するようにこんがらがってきた。
だが考えすぎるのはまずい。神様の時間感覚はわからないが、さっき『時間をかけすぎちゃったかな?』と言っていた。少なくとも人間と感覚が違い過ぎると言うのはないはず。
「……あ、あの、神様は何を目的で私を転生させるのでしょうか?」
結局、一番気になっていた事が口を出てきた。
魔王でも倒せと言うのか。それとも別の神格とやらとの張り合いに使われるのか。何にせよ嫌な予感はする。
頼むから突然『君はやり過ぎた』とか言って天罰とか来ない感じだといいのだが。神様の価値観とか知らんし。
「そうだね~。君を転生させる理由か~」
にんまりと、神様が笑みを浮べる。先ほどまでの楽し気な少女のそれではない。人として開くはずのない所まで口角が広がり、口裂け女のようになりながら嗤う。
全身の筋肉が硬直し動けなくなる。立っているのがやっと、というよりはへたり込むことすら出来ない。金縛りとでも言えばいいのか。目も離せないから正直泣きそうである。怖い。
「理由は……色々かなぁ。私も思惑がないわけではないし……けど、強いて言うなら『娯楽』かな?」
返事をする事も出来ない。だがそれを気にした様子もなく神様は続ける。
「そもそもたかが人間ごときに何を期待するでもないしね~。ただもしも出来るのなら、『きつめのサプライズ』とか嬉しいかな?顔がはじけ飛ぶぐらいのサプライズがね」
心底見下した目でこちらを見てくるというのに、何故かその声には期待の様な物も混ざっている気がした。
「君みたいな凡骨が出来るとは思わないけど……案外、『普通の人』ってやつがとんでもない事をしでかす事もあるのかな?君たちの歴史を見ていると」
神様が手を挙げる。自分の足元に黒い渦が現れ、そこから触手が何本も伸びてきて体に絡みつく。
「今から君に権能を、いや『異能』を授けよう。大丈夫、痛くしないよ。ここで壊しちゃうのは面白くないからね」
頭の中に流れ込んでくる見知らぬ知識。内臓をひっくり返された様な違和感。五感とは別の感覚が現れ、知る事の出来ない事まで情報を集めてくる。
それらの事が痛みもなく起きているのだ。吐き気を催す程の不快感が全身を襲う。
その時だった。五感とは別の感覚。それが眼前の神様を前に機能した。
『貌無き故の千の貌』
『輝けるは三つの灼眼』
『大いなる使者にして這いよる混沌』
それらの単語には覚えがある。学生時代、興味本位で『彼の神話』について軽くだが調べたものだ。これらの単語からは、現代日本でゲームやアニメを嗜んでいれば一回は耳にする『ある邪神』が連想される。
「にゃる、らと……!?」
最後まで口にする前に、触手によって渦へと飲み込まれた。そんなこちらに神様は、いいや邪神は綺麗な顔で楽し気に笑みを浮べながら手を振っていた。
「じゃあ、頑張ってね。サービスで君達転生者の美貌は今の私と同じぐらいにはしてあげるから」
待って、その顔と同じって事はどう考えても普通の人生とか無理――。
そこで自分の意識は途絶えた。こちらの心が読めるだろうに、疑問への返答はされず、ただ笑い声だけが聞こえていた。
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