♡第10話♡ コペニュvs変態体育教師!!その2

 天才魔法使いとセクハラ学年主任が勝負するとあって、他の生徒たちは一斉に2人から離れました。

 コペニュを見守っているサーニャとメラルのもとに、マリトがやってきます。


「やあやあサーニャさん、先程は災難でしたね」


「マリーくん」


「くんはいらないです。いやいやしかし、あの先生もよくわかりませんね。ボクならなんでもしてあげるのに、いつも女子ばっかり」


「え……」


 もうひとりのド変態は置いといて、オージサンが手を天にかざすと、地面に魔法陣が描かれました。

 直径10mほどでしょうか。まるで闘技場のように、オージサンとコペニュの足元に広がっていきます。


 何の魔法なのでしょうか。


「どうしたのせんせー、はやく攻撃してきなよ」


「すぐにその生意気な口、黙らせてやるッ!」


 オージサンが自身の両手を合わせました。すると、彼の背後からもうひとりの、いや2人のオージサンが現れたのです。

 分身魔法、完全自立型の自分のコピーを生み出す魔法です。


 3人のオージサンはそれぞれゆっくりと移動し、コペニュを囲んでいました。


「そんなんで倒せるつもり?」


「チッ、いちいち癪に障るガキだ」


 オージサンたちが一斉に殴りかかってきます。


「甘いよ、現われろ! ファースラー!!」


 コペニュはお得意の召喚魔法で巨大な怪鳥を召喚しました。

 ファースラーは翼を羽ばたかせ、コペニュを中心に竜巻を発生させました。

 あまりの強風に分身体は耐えきれず、空へと舞い上がり消えてしまいました。

 残った本体も、身を屈めて必死に堪えています。


「あれあれ? せんせー辛そうだね♡」


「ふ、ふふふ」


 明らかに劣勢なのに、なんでしょう、あの余裕な笑みは。


「俺の勝ちだな?」


「は?」


「最初の魔法陣を展開してから、1分が経った。俺もお前も、この輪から一歩も出ずにな。……それが、発動の条件。俺のしもべとなれ、コペニュ!」


 ファースラーの竜巻が消滅しました。というか、ファースラー自体も消されていきます。

 どうしたというのでしょうか。あとちょっとでキモキモオヤジを成敗できたというのに。


 コペニュは焦点の合わない瞳で、ぼーっと前方を見つめています。


「よしコペニュ、跪け」


 なんと、命令されるがまま、コペニュは地面に膝をついて頭を下げてしまいました。

 こ、これはいったい?

 マリトの頬に汗が伝います。


「マズイですね、催眠魔法です」


「え、じゃあコペニュちゃんは、オージサンの催眠にかかっちゃったの? マリーくん」


「オージサン先生がはじめに展開した魔法陣が、そういう効果だったのでしょう。魔法陣の中に1分間、自分と対象を閉じ込めることが発動条件」


「そんな! どうにかならないの?」


「あの手のタイプの魔法は強力ですから、一度発動してしまっては……」


 ま、まさかコペニュが負ける?

 さんざん痛い目を見てほしいと願ってきた私ですが、今回ばかりは肝を冷やしてしまいます。

 あんな最低な男、ちゃっちゃと倒してほしかったのに!


 オージサンは嬉しそうに笑い出しました。


「生意気なガキもこれで俺のペットだな! よしコペニュ、立て!」


 立ち上がるコペニュに、オージサンは強烈なビンタを食らわせました。


「教師に歯向かいやがって。これからは毎日調教してやるから覚悟しとけ。いいかお前ら! お前らも俺に逆らえばこうなるんだからな!!」


 生徒を洗脳して弄ぶなんて、どこまでも卑劣なやつ!

 正気に戻れコペニュ! パーニアスなんでしょうに!


「コペニュ、ほら言え。負けましたってな」


 淡々とした口調で、コペニュは告げました。


「負けました」


「俺の奴隷になるって宣言しろ」


「私コペニュは、一生オージサン先生の奴隷に…………」


「どうした? 言えよ」


「……なると思った?」


「なっ!?」


 おやおや!!

 どういうことでしょう、コペニュが得意げにニヤリと笑みを浮かべました。


「催眠魔法、かかったと思ったの? そんなわけないじゃん。かかったフリをしてあげただけだよ、ばーか♡♡」


「な、なぜだ! 確かに発動したはずなのに!!」


「そんなの簡単だよ。私がパーニアスだから」


 いやいや、それじゃわかりませんて。

 訝しげにメラルが呟きます。


「もしかして、コペニュのやつ……」


「メラルさんも気づきましたか? さすがコペニュさんですね」


「魔力量が上回っているのか」


「相手に術をかけるタイプの魔法には、大前提がありますからね。自分の魔力量が、相手より上回っていること。でないと弾かれてしまいます」


 つ、つまりコペニュは、オージサンより魔力量が多いから催眠魔法には掛からなかったわけなのですね!!

 やるじゃんコペニュ!!


「なになに〜? 勝ったって勘違いしちゃったの? せんせー♡♡ とことん情けないね♡ あんな演技に騙されて。ザコザコだね♡ 惨めだね〜♡」


「こいつ……」


「せんせー、いい年こいた大人なのに、こ〜んな小さい子供より魔力量少ないんだ♡♡ それで学年主任なんだー♡♡」


「くっ」


「せんせーの催眠魔法なんか。効くわけないじゃん♡♡ なにが『お前らもこうなるんだぞ』よ。恥ずかし〜〜♡♡」


「うおおおおお!!」


 激昂したオージサンが殴りかかります。


「催眠魔法で悪いことする大人には、お仕置きが必要だね。……現れよ! グリーウィル!!」


 新たに出現した魔法陣から、人間の顔ほどの大きさがある蝶々が召喚されました。怪しい紫色の羽で、オージサンの頭上を飛び回ります。


「な、なんだこいつは!」


 グリーウィルが羽ばたくたびに、白い鱗粉が巻かれていきます。

 鱗粉を吸ったオージサンは、瞬く間に気絶してしまいました。

 そして、倒れたオージサンの顔にグリーウィルは着地し、蝶特有の長い長いストローのような口を、彼の鼻に突っ込んだのです。


「グリーウィルは相手を眠らせて生気を吸う蝶。その鱗粉を吸ったら、1年は悪夢を見続けることになるよ。って言っても、もう夢の中か」


 完全決着。コペニュの勝利です。

 今日だけは認めます。コペニュ、あんたは天才だ!!

 彼女の勝利に生徒たちから拍手喝采が送られます。

 当然でしょう、憎きセクハラ教師を退治したのですから。


「これぞ完璧な天才。さすが私、パーニアス!!」


 勝利に浮かれるコペニュのもとへ、サーニャたちが駆け寄ります。


「コペニュちゃん、やったね! でも、本当に先生がエリーナさん殺しの犯人なのかな?」


「ガハハ! きっとそうに違いないよ! 天才の勘」


 だからちげーっつってんだろ。


「サーニャ、仇は討ったからこれで体育の授業が嫌じゃなくなったでしょ?」


「え……それとこれとは違うんだけど……ま、まあうん!」


 なるほど、コペニュはサーニャをいじめたオージサンと戦ってケチョンケチョンにするために、わざと挑発したんですね。


 ちなみに、オージサンさんの問題行動の数々を鑑みて、コペニュはなんのお叱りも受けませんでした。

 これぞめでたしめでたし。


「あ、ちなみにサーニャ。嫌いな先生倒してあげたんだから、これから一ヶ月は毎日学食のおかずもらうから」


「えぇ!! ひどいよコペニュちゃん!!」


「ひひひ」


 やっぱりクソガキ。ムカつきますね。

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