♡第3話♡ コペニュの実力!

 自然とサーニャを囲むように、クラスのみんなが円になります。

 当のサーニャはガチガチに緊張しちゃって、足だってガクガク震えている始末。

 見ているこっちまでドキドキしてきますね。苦手なんですよ、注目されている人が不安でいっぱいいっぱいになっているの。


 共感性羞恥ってやつですかね。


「じゃあ、お願いしま〜す」


 メロ〜ンが告げると、サーニャは弱々しく手を前に出しました。

 すると手がピカッと光って……。


「い、以上です」


 逃げるように、サーニャはコペニュの元へ走ってしまいました。

 あまりにも呆気なさすぎる紹介に、コペニュも唖然としています。


「終わり?」


「う、うん」


 すると、静まり返った空気のなか、クスクスと乾いた声が湧き上がりだしました。

 やがてその笑い声は大きくなって、


「なによあれ、ただの発光魔法じゃないの!」


 と、サーニャを指差し嘲笑します。

 コペニュと同じくらい小さい金髪の少女が、一際大きな声で爆笑しています。


「しょぼすぎでしょ、あんなのが自慢の魔法ってこと? ありえないんですけど〜」


 わざとらしく腹を抱えて、100%の悪意を込めて大爆笑しています。


 おいおい、この学校のチビはみんなクソ生意気じゃないといけないルールでもあるんか。

 どうなってんだよ最近の若者はよ。こんな世の中じゃ安心して成仏できないっての。


 唯一事態を飲み込めていないコペニュが、金髪チビを睨みます。


「なに私の友達笑ってんのよ」


 お、友達思いな面があるんですね。


「だってそいつ、発光魔法だなんて、ククク……」


「その魔法がなんだってのよ」


「あんた天才なのに知らないの? 発光魔法はこの世で最も簡単で、しょぼい魔法だってこと」


 魔法には難易度があります。

 数多ある魔法の中で最も簡単に習得できるのが、発光魔法なのです。

 その効果は、ほんの一瞬、手が光るだけ。

 刹那の間しか光らないため、明かりとしては使えない。そのうえ光量も強くないので、目眩ましにもなりません。

 

 世界で一番役に立たない魔法。学ぶこと自体が恥だと笑われるほどに。


「そんな魔法、ここにいる連中なら、いや、不合格だったやつでも使えるわよ! それを披露したってことは……もしかして、それしか使えないのー?」


「……」


 サーニャの沈黙が、答えを示していました。

 どうやら金髪チビの言う通り、サーニャは最弱の魔法しか使えないようです。


「マジマジマジー!? ちょーウケるんですけどー!! 筆記試験だけで合格できた落ちこぼれのガリ勉ちゃんってわけぇ? カーッカッカ!!」


 サーニャは恥ずかしさのあまり蹲り、泣き出しました。

 コペニュが金髪を睨みます。


「あんた、名前は?」


 攻撃的な眼差しに、金髪の目つきもキリッと変わりました。


「アロマだけど?」


「これ以上私の友達を馬鹿にするなら、わからせちゃうよ?」


「へっ、上等よ。あんたとは決着をつけるつもりだったからね」


「はぁ? 私はあんたのことなんか知らないけど」


 グギギと、アロマが歯ぎしりをします。


「私もね、飛び級入学なのよ。なのにあんたの方が目立ってる。私が13歳であんたが12歳。あんたの方が年下だからっっ!!」


 なるほど、通りでコペニュと同様に小さくて生意気なわけですね。

 ところでこの学校の魔法科は入学のとき面接とかしないんですか? それとも面接担当は高飛車ロリが大好物なんですか?


 敵意満々のアロマに対し、コペニュはとっても愉快そうな笑みを浮かべました。


「へえ、そっかそっか。私より年上で入学ってことは〜。私より『へっぽこ』ってことなんだぁ♡♡ それなのにあんなにイキってたの〜? なっさけな〜い♡」


「なんだとぉ!」


「自分より弱いやつしか噛みつけないざ〜こ♡♡」


「くっ! 先生! こいつと戦わせてください!! 一気に2人分の魔法の披露になるんで、好都合でしょ!!」


 メロ〜ンは苦笑しながら、黙って頷きました。

 まてまて、あなたは生徒間の争いを止める立場ですよね?

 とはいえ、この対決は是非観戦したいです。


 同じ生意気飛び級魔法少女同士、どちらが上なのか。


 コペニュがサーニャの肩を叩きました。


「元気だして、私があいつをわからせるから」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 円の中心で二人が対峙します。


「行くわよコペニュ!」


「さっさとすれば?」


「ムキーーッ!!」


 途端、アロマが空へと昇りました。

 縦横無尽に空を飛び回り、


「吹っ飛べ!」


 赤く光る弾を発射しました。

 飛行魔法と攻撃魔法の組み合わせ。どちらも習得難易度は決して低くありません。


「まだまだいくわよ!」


 連射される弾を、コペニュは器用に回避していきます。


「逃げてばっかり? 天才さん!」


「じゃあ当ててみれば?」


「こ〜い〜つ〜。だったら!」


 その直後、アロマの姿が消えました。

 全員が周囲を見渡してアロマを捜していると、


「ここよ!」


 コペニュの背後から声がして、誰もいないはずの空間から光弾が放たれました。

 さすがに回避が間に合わず、コペニュは吹っ飛びます。


 正直、驚きました。

 あれは透明化の魔法。3年生でも習得が難しいとされる高等魔法です。

 3つの魔法を組み合わせて戦えるとは、アロマという子、さすが飛び級入学しただけのことはあります。


「どう? 私にひれ伏す気になった?」


「なるほどね、ほんのちょっぴり才能あるじゃん」


 立ち上がるコペニュの表情には、笑みが浮かんでいました。


「じゃあ私も、『魅せ』ちゃおっかな。私のパーニアスな魔法を♡」


 パーニアスとは?

 考える間もなく、コペニュの前方に、大きな魔法陣が浮かび上がりました。

 

「出てきなさい! ファースラー!」


 叫んだ瞬間、魔法陣から巨大な怪鳥が現れました。

 美しく陽の光を反射するオレンジ色の体毛。稚児をあやす母のように慈愛に満ちた瞳。太く、それでいて鋭利な黄色いクチバシ。

 私を含め、コペニュ以外の全員が、その神々しい存在感に圧倒されます。


「なっ!? 召喚獣!?」


 召喚魔法が、コペニュの才能の秘密。

 しかも彼女の言葉通りなら、あれは名高い魔法使いですら見た者は少ない、秘境の奥地に眠るとされる伝説の幻獣『ファースラー』。

 召喚獣を呼ぶには、直接契約を交わさなければなりません。

 じゃあコペニュは、12歳で幻獣を見つけだしたってことですか??


「やっちゃえ!」


 ファースラーが甲高い鳴き声を上げました。

 アロマはハッと我に返り、空へ逃げながら透明になります。

 いくら幻の召喚獣とはいえ、敵を捕捉できなければ無力。

 のはずだったんでしょうが、


「無駄よ!」


 ファースラーが翼を羽ばたかせると、周囲に竜巻が発生し始めました。距離をとっているサーニャたちでさえ立っているのがやっとなほどの強風。

 敵がどこにいるのかわからないのなら、広範囲に向けて攻撃すればいい。

 酷く単純かつ理に適った策。


 やがて風が収まると、透明化が解けたアロマが地面へ落下しました。

 踏ん張りが効かない空中でモロに竜巻に巻き込まれたとなっては、めちゃくちゃになっていることでしょう。


 立ち上がってもおぼつかない足取りで、完全に目が回っているようです。


「う、うぅ〜」


「トドメ、さしちゃおっかな〜」


 怪鳥が口を開き、炎の球が発射されました。

 それはギリギリアロマの頭上をかすめたに終わりましたが、勝負の決着を示したのは確かでした。


 アロマの顔が真っ青になっていきます。


「ちなみに、まだまだいるから、呼べる子が」


「え」


「ぜ〜んぶ幻獣♡」


「うそ……」


 召喚獣にはそれぞれ特性があります。

 呼び出せる獣の数は、戦略の豊富さを意味するのです。


「だから私は天才だって言ってるじゃん。ざ〜こ♡♡」


 どうやらこのコペニュという子供、本当に天才なようです。

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