第28話 最後の練習

 『収穫祭』も終わり、いよいよ実戦形式本番まで3日を切った。

 とはいえ明日は筆記試験の対策をしたいとのことで、練習が出来るのは今日が最後になる。

 模擬戦場へと向かう道すがら、俺とウェスタは本番に向けて意識のすり合わせを行っていた。

 

 「──なので、今日は対バンガルドを想定した練習に加えて、本番に採る作戦の動きを確認しましょう」

 「どんな作戦なんだ?」

 「ふふ、名付けて『なるべく逃げ回って多くの人を巻き込もう作戦』ですっ!」

 「そのまんまだな」


 バンガルドは自身の幻獣グリフォンのおかげで、空中を自由自在に移動できる。

 5分ごとにステージ上の全生徒に位置が送信される試験のルールもあって、逃げ切るのはまず不可能。

 しかしだからといって真っ向からぶつかればただではすまない。


 「それならステージ中を駆け回ってサウムを狩りつつ、出来るだけ多くの生徒を巻き込んで順位を上げた方が良いと考えまして。私の目算ではこれで70点は取れること間違いなしです」


 70点ってことは、つまりサウムを5匹狩りつつ最低でも5位には入れるのか。

 

 「んでも、そう上手くいくもんか?」

 「大丈夫です。バンガルドは強いですし、それにコルネもいますから。あの2人が他の生徒を排除してくれるのを、私たちは指を咥えてみているだけでいいんです」

 「コルネ、ねぇ……」


 ──もう一度、深い挫折を味わってもらうことですよ。


 『収穫祭』でああ言ってた彼女はむしろ、バンガルドと同じくらいか、下手したらそれ以上にウェスタへ執着しているように感じた。

 バンガルドばかりを念頭に置いていると、足元をすくわれる気がする。


 「そういや、コルネの対策はしなくていいのか? バンガルドより強いんだろ?」


 そう思い、ウェスタに聞いてみたのだが。


 「え? コルネの対策? どうせ勝てませんから、そんなもん必要ないですよ」


 何でもないような顔で言われてしまった。

 当然だろう、といわんばかりに。


 「いやでも、バンガルドを倒せたら次はコルネなんだろ? 一応やっておいた方が良いんじゃ」

 「無駄です。仮に私たちの強さを100とすると、バンガルドは500。コルネは1500になります。そもそも彼女は私たちと、立っている場所が違うんです」

 「……そんなに差があるのか」


 学年トップと、ナンバー2。言葉の響きだけだと拮抗しているように感じられたが、ウェスタの目算で5倍以上か。

 青い顔で拒否するのも頷ける。

 

 ん、待てよ。でもコルネは昔のウェスタに黒星を付けられたって言ってたな。それにバンガルドも前にウェスタを褒めてたし。

 もしやウェスタって、召喚魔導士として相当強い部類なのか?

 

 「なのでコルネには勝てません。それよりも、拾える点数を確実に拾いにいく方針を採るべきです」

 「……そうだな」


 まあいくらエンジンが強かろうと、肝心の動力部分がカスだから意味ないか。たぶんコルネに勝った時はドラゴンなんかを従えていたんだろう。俺は素のステータスも低ければ『半減』とか『精霊王・風』みたいに超強力な【ギフト】も持ってないし。

 せいぜいウェスタの足を引っ張らないようにしよう。


 ◇


 というわけで。

 

 そのように方針を定めた俺たちは、早速模擬戦場にてそれを実践していた。今回の対戦相手はここ数日間俺たちをボコボコにしている、レガロという3年生の女子生徒。彼女もバンガルドと同じグリフォンを従えており、『雷撃』という【ギフト】を持っている強敵だ。

 発現レベルはバンガルドより2つ下のレベル2だが、攻撃力だけなら肩を並べられることだろう。実際、雷を纏った蹴りを俺は未だにレジスト出来ずにいる。

 

 「逃げてください!」

 

 だからウェスタの『なるべく逃げ回って多くの人を巻き込もう作戦』は、存外上手くいった。力で勝てない相手には、真っ向から挑む必要などないのだ。

 不規則なタイミングで飛んでくる蹴りを時折かすめながらもステップでかわし、けれど攻撃はせずに距離をとる。生い茂る木々の間を縫うようにして駆け出す。しかし【ギフト】で身体能力を底上げしているとはいえ、俺のステータスはめっちゃ低い。なので直ぐに追いつかれる。そうなればまた距離をとって──その繰り返しだ。


 「うぐぐぐっ……」


 俺の背中へセミのように張り付いているウェスタが、吐き気をこらえるように声を漏らした。

 

 この作戦にも欠点はある。それは常に移動し続ける都合上、俺と共にいるウェスタの負担が大きいのだ。一応ドリスに貰った、馬に乗るかの如く背中に飛び乗れる器具を取り付けているので、ウェスタ自身はそれほど力を使う必要はない。体育祭で組む騎馬みたいな感じをイメージしてもらえればわかりやすいか。ちなみにこの器具もドリスに『メデスの知恵』で調整してもらっているため持ち運びの必要はない。

 

 が、如何せん俺は馬じゃないので、乗り心地は劣悪。この器具を初めて使用した時のウェスタは酔って俺の首筋にゲロをぶちまけるわ、股と股間が痛すぎて生まれたての小鹿みたいな歩き方になったりで散々だった。ハルドリッジに頼んで色々と改良してもらわねば、とてもじゃないが実用化は無理だっただろう。


 「ええい、ちょこまかと! これで終わらせてやるっ、【貴公に万象の加護をゲニウス・ベネディカート】!」


 そうして一連の流れを繰り返すこと6回。とうとう痺れを切らしたレガロが、レベル2解放の呪文を唱え出した。グリフォンの両足に刻まれた幾何学きかがく模様から金色の光がほとばしり、耳をつんざくような咆哮を上げる。


 「オーエン!」


 しかし、俺のやることは変わらない。先ほどよりもずっと鋭くなった蹴りを紙一重でかわして、森のより奥深くへと逃げ込む。

 この作戦のもう1つの要は、召喚魔導士の魔力切れを狙うことにある。召喚魔導士がより上位の【ギフト】を発動させるほど、それに比例して魔力の消費量が多くなるからだ。


 「レベル2からは魔力の消費量と維持の難易度が別次元レベルで変化します。基本的には3から5分程度維持できればいいほうでしょう」

 

 とは、ウェスタの談だ。

 まあそれは常にレベル2を発動している俺にも言えるのだが、何せウェスタの魔力総量はあのパウルスよりも多い。なのでいくらステータスで負けていても持久戦に持ち込めば、こちらにも勝機が出てくる。

 そのために俺たちはペルペラ(奥の手とルビ)を封印し、レベル2での動きを最適化してきた。連日の模擬戦で培った経験と動きを駆使し、逃げに徹すればそうそう攻撃は当たらない。


 「はぁ……はぁ……ぐっ!」


 最初は余裕たっぷりといった様子だったレガロの表情にも、徐々に焦りが見えてきた。

 顔も青ざめてきているし、魔力切れが近い。


 「今ですっ!」


 そろそろ反撃に転じるべきかと、考えていた時にウェスタから指示が出た。

 俺は木を強く蹴って跳躍することで、背中のウェスタが降りる時間を作る。彼女が俺の元から離れたのを横目で確認してから、再び地を蹴って木の枝に飛び乗った。


 「おおっ!」


 間髪入れずに飛び上がる。右手に持つ『豪鎚ルース』の柄を強く握りしめながら、のこのこと俺の後を追ってきたグリフォンの頭めがけて振り下ろす。ゴッ、と鈍い音と共に俺の腕に痺れが伝わり、グリフォンはたたらを踏んだ。

 すかさず地に足を下ろす。グリフォンとの距離は数十センチにも満たないが、脳震盪を起こしているようで俺を見ることはない。

 今度は厚い筋肉に覆われた足の、小指に戦鎚を叩きつける。

 

 ──グオオアァ!


 ここが弱点なのは、人間だろうがグリフォンだろうが変わらない。嘆きにも似た悲鳴を上げて、地へと崩れ落ちた。


 「……っ」


 幻獣の肉体は全て、召喚魔導士の魔力によって形作られている。なので幻獣がケガをした場合でも、魔力さえあれば治すことが出来るのだが。

 治療するための魔力は、既に【ギフト】によって削り取られてしまっている。レガロは苦々しい顔で俺と、木々の間から顔を覗かせるウェスタに対して。


 「降参だよ。やるじゃあないか」


 そう言って両手を上げ、少し崩した好戦的な笑みを浮かべるのだった。


 ◇


 「しっかし。本番までに勝たせないつもりだったのに、まさかあんな方法で負けるとはねぇ」

 

 模擬戦場のエントランスに戻ってきたウェスタの横で、レガロが感心したように両手を頭の後ろに回す。すかさずウェスタは足を止め、軽く頭を下げた。


 「すみませんでした先輩。正々堂々と戦わないで」

 「いや、気にしないでくれよ。今日は本番さながらの立ち回りをするって約束だったしさ」

 

 レガロは慌てたように手のひらをウェスタに向ける。


 「そうですけど」

 「……2年生は試験期間、明日からだろう? 頑張ってな」


 そう言って、彼女は優しめにウェスタの肩を叩いて去っていく。あらカッコいい。俺も学生時代、女の子にあんな風なことが出来れば彼女くらいできたかもしれん。今の時代、西洋風の容姿はモテるからな。

 

 なんてよこしまなことを考えていると、ウェスタが俺の腕をつついた。


 「なんとか、上手くいきましたね」

 「ん? ああ、そうだな」


 上手くいった、とはもちろん作戦のことだろう。


 「これなら本番でも使えるし、てかなんならバンガルドも倒せるんじゃないか?」

 「いやぁどうでしょう。本番はサウムやトラップ、それに他の生徒による横やりも警戒しないといけませんから」


 まあ、本番にイレギュラーはつきものか。漁夫の可能性も考えなきゃならんのが辛いところだ。

 

 「さて、じゃあそろそろ帰りましょうか。オーエン、少しじっとしていてください」


 ウェスタが無表情で杖を向けてくる。いつもならあと2,3試合はやっていたけど、さすがに明日から筆記試験だからな。

 俺は普段通りウェスタと少し距離をとろうと後ろに下がる。


 「あっ! 貴方あなたは!」


 しかしそこに、俺を指さしながら走ってくる女子生徒の姿が見えた。


 「なんです──」

 「ちょっとなんですか? 私たちは今忙しいんですけど」

 「……」


 俺が彼女の方へ体の向きを変えようとしたところで、すかさずウェスタが割り込んでくる。おまけに杖を掲げて俺の顔を隠してしまった。


 「あっ、えっと」


 ウェスタの様子に、一瞬だけ女子生徒がよろけた。がしかし、直ぐに目を輝かせてウェスタと見つめ合う。


 「ほら、覚えてませんか? 私、パウルス様のイベントの前日に声を掛けていただいた……」

 「ん? ……あー、そういえば」


 ウェスタは得心がいったとばかりにポンと手を打った。

 

 「その節はお世話になりました。んで、どうしたんですか? 最近ウチのオーエンに畏れ多くも懸想する輩が増えてましてね……あいにくと女人禁制になったんですよウチは」

 「えっ!? そうなんですか? あっでも、貴女も女性で」

 「私はいいんです。なにせ、彼の【主】ですからねっ!」


 また適当なこと言ってるよ……。第一、懸想つっても果物を貰ったあの一件以来何もないんだが。


 「そうですか……」


 だがウェスタの捏造チクチク言葉に気圧されたのか、女子生徒はしゅんとなってしまう。

 対照的にウェスタは背骨が折れそうな勢いで胸を張った。


 「ふふん、これでわかりましたか? これが女としての『格の違い』ってやつですよ」

 「あんましょうもないことでいばるなよ」


 思わずウェスタの態度に突っ込んでしまう。すると、彼女はものすんごいイラついた形相で俺を見上げてきた。


 『いーえこいつみたいなお股頭ゆるゆる女にはよおーく言いつけておかねばなりません』

 『口悪っ。さすがに言いすぎだろ』

 『言い過ぎじゃありません。オーエン、貴方にわかりますか……』


 そこでウェスタは一旦言葉を切り、凄まじい怨嗟のこもった瞳を女子生徒に向けた。杖越しに。


 『苦節16年。人生で初めてラブレターを貰ったと思ったら、「赤髪のトール様へ♡』とかふざけた文面が飛び込んできた私の気持ちを!』

 『Oh……』

 『しかも、1通だけじゃなくて何十通もですよ!? あり得なくないですか!? もう捨てる時にチラッと見えるのでさえ嫌になったので、最近は纏めて床に投げつけているんですよ!』

 『さ、災難でしたね』

 

 前ストラを買いに行った日に転がってた謎の紙たちって、俺へのラブレターだったんだな……。だから手に持つ度に握りつぶしてたのか。恋文だと思い込んでウッキウキのウェスタを想像して、ちょっぴり同情してしまう。


 「え、えっと……」


 そして、そんなウェスタの気持ちを察したらしい女子生徒が、うつむき加減に口を開いた。


 「実は貴女の実戦形式の際に、我々で勝手に応援団を設立したことを言っておきたくて……」

 「え、応援団?」

 「は、はいっ。実は、その。私がお2人を勝手に歌にしたせいで、ウェスタさんが弊害を被っていると耳に入りまして。せっ、せめてもの罪滅ぼしにならないかなーって」

 「私? ってことは、貴女が『紙の魔術師』さん?」


 俺がそう聞くと、彼女はぱあっと顔を輝かせた。ウェスタの方は「応援団……私に……私に……!」としきりに呟いている。

 嬉しそうだし放っておこう。


 「あ、はいっ! そうなんです! パウルス様のイベントで拝見させていただいた時からずっとファンでして……」

 「なんとまあ、嬉しいです。ありがとうございます」

 「こちらこそ! 本番では、せいいっぱい応援させていただきますね!」


 喜びを爆発させたような勢いで頭を下げる、紙の魔術師さん。なんだかこっちまで嬉しくなってしまう。

 だが、1つそこで気になったことが。

 

 「えへへ……私に応援団ですかぁ……うふふ……いひひ……」

 「あの、ちょっといいですか?」

 「はい?」

 「貴女は別に、俺だけを歌にしたわけじゃないんですよね? じゃあ、なんでウェスタは全く有名じゃないんですか?」

 「えっ」


 俺の問いにウェスタがぴしりと制止した。対する紙の魔術師さんは、苦笑いを浮かべてから。


 「それが、私はお2人の歌を制作したのですけど……男性側が長身で赤髪碧眼のイケメンってことで、女の子たちが騒ぎだして……結局、片方ばかりが有名になってしまったんですよね」


 告げられた真実が衝撃的すぎたのか、ウェスタは二の句を紡ぐことが出来なかった。


 ◇


 帰り道。


 『あーもうっ! これだから女って生き物は! どいつもこいつも顔ばっかり! ちっとも内面を見ないんですから!』

 『いや、ウェスタも最初パウルス見た時喜んでただろ』


 紙の魔術師さんと別れた俺は杖にしまわれ、ウェスタの背で夕焼け雲を肴に愚痴を聞いていた。

 一応女の子の間でしか話題になってないだけじゃないのかとフォローも入れてみたが、


 「レールスの男は160センチ以下の女を相手にしないからそれはない」


 と言われてしまった。見てくれはいいのになんで彼氏がいないのかと思ってたけど、そういう理由だったのか。


 『はぁ……まあでも、本番では私に応援団がつくらしいですし、結果オーライですかね』

 『確かに平民に応援がつくってなかなか無さそうだもんな』


 前に見た『プラレート』でも、貴族であるバンガルドたちや超強いショウなどには声援が送られていたが、それ以外の生徒にはまばらだった。そういう面があるから、ウェスタはここまで喜んでいるのだろう。


 『それにしても』


 と、ここでウェスタが立ち止まって空を見上げる。恒星はまもなく地平線の彼方に隠れようとしていた。


 『バンガルドにハメられた時はどうなることかと思いましたけど……ふたを開けてみれば、ここまで来ることが出来ました』

 『だな』

 『あの時、オーエンに励ましてもらったおかげですね』


 そこでウェスタは、華のような笑みを浮かべた。照れくさくなったので、大げさに咳払いをする。


 『……だけど、おかげで俺も自分を見つめ直すことが出来たし。お互い様だよ』

 『私はオーエンに何もしてませんよっ。貴方が自分で立ち直ったんじゃないですか』


 ウェスタがぷくりと頬を膨らませた。


 『いや、そんなことはないさ』

 『そうですか?』

 『ああ。ウェスタが俺を召喚してくれなかったら、今ごろ奈落の底だな』


 そもそもウェスタに呼ばれる前から、大家さんを筆頭に色んな人から様々なことを言われてきたのだ。

 

 しっかりしろ、もっと辛い思いをしてる奴もいる、このままじゃダメだぞ──エトセトラ。

 

 でも、そんなことは言われる前からわかっていた。俺だってこのままだらけていてはいけないことくらい、理解していた。

 なにせ、あの母親を見て育ったのだから。

 だけどその頃の俺には、生きる気力というものが無くなっていた。どうせこのまま生きていても良いことなんかないんだから、なぜ変わる必要があるのか。苦しむ時間が増えるだけじゃないのか、と。

 

 だがしかし。


 ──私の下僕になってくれませんか!?


 突然俺を呼び出したウェスタが必死に協力を懇願してくれてから、全てが変わった。

 最初こそ怖気がするような理由で協力していたけれど。後に自分の過ちに気づいて、ウェスタに俺の母親みたいになって欲しくないと思って、そして。

 俺の拙く、エゴの塊のような願いを聞き届けてくれた少女の姿を見た時。


 俺ももう少しだけ、頑張ってみようと思えたのだ。


 『ありがとう、ウェスタ』

 『…………どういたしまして』


 ウェスタは照れくさいような、慈しむような、そんな表情をしていた。

 そういや【顕現終了ノン・アクティブ】の時は心の声が筒抜けだったな。まあでも、感謝の気持ちが伝えられたのなら問題ない。

 

 『オーエン、私も』


 おずおずと、ウェスタが話しかけてくる。もう寮は目の前だ。


 『貴方と出会えて、よかったと思っています。貴方がいなければ、私はきっと下を向いてばかりだったと思いますから』


 ウェスタはそこで立ち止まり、杖を地平線に向かって掲げた。くれないの双峰が俺を見据える。


 『だからもし、望まない結果になったとしても、私は構いません。だって──』


 ゆっくりと、目を細めて。


 『自分を信じて、本気で練習しましたから!』

 『……そうか』


 

 後悔なんてしない。全部出し切ったから。

 その様子はまるで。金メダルをと、日本中に期待されていたスポーツ選手が4位で終わってしまった時。邪な想いを抱いたマスメディアの前に立ち、インタビューに応じているような。目標には届かなかった。でもこれが自分の全てです、と。

 俺はそんなニュースを見る度に首を傾げていた。血反吐を吐くような思いをしてきたはずなのに、どうしてそんな晴れやかな顔が出来るのかと、思っていた。


 だがしかし。ウェスタの顔を見て、やっと理解できた。全身全霊を賭けて何かに取り組んでいる人間は、結果よりもまず、自分が納得できるかを一番に据えているのだと。もちろん例外はあるだろうけど、少なくともウェスタはそうだと思う。

 

 だって。

 ウェスタはこの20年で出会ったどんな女性よりも魅力的な、愛くるしい笑顔で俺を見ていたから。

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