第3話 試験発表とステータス

 あれから10分ほど経ち、殆どの席に生徒が座った頃。1限目を知らせる鐘の音が鳴り響いた。

 爆音過ぎて心臓に悪いなと思っていると、次いで猛烈な速度で廊下を駆ける靴音が聞こえてくる。

 コツ、コツと断続的な音が段々と大きくなり、教室の前でぴたりと止まった。


 「よーしみんな。全員いる? ……いるよね? んじゃ始めるよぉ!」


 戸を勢いよく開け放ち壇上に現れたのは、水色の髪をたなびかせ純白のローブを纏い、胸の辺りに金色のペンダントを下げた妙齢の女性。それまでざわついていた教室が一気に静まりかえる。彼女がクラリア先生だろう。

 

 先生は息を切らしながらも、テキパキとかばんからプリントを取り出して一番前の生徒に渡した。

 そのまま後ろに回す形で俺たちの元にも渡ってくる。

 てかこれ全部手書きかよ。すごいな。


 「今配っているプリントはぁー……なんと! 皆さんお待ちかねの試験範囲です! グループ分けはまだだけどね」


 彼女の言う通り、数枚に纏められたプリントの一枚目にはでかい文字で『試験範囲はっぴょー!』と書いてあった。

 召喚された時、床に書いてある文字が読めなかったから魔法陣製翻訳の対象に文字は含まれていないと思っていたが。

 どうやらそういうわけでもないらしい。


 「今回のグループ分け、どうなるんだろ。出来れば競合相手が少ない方に組み分けされて欲しいなぁ」

 「そうですね……」


 配られた資料に目を通す生徒たちがざわざわする中、隣のアリテラスがウェスタに声を掛けた。眉間にしわを寄せ、祈るように両手をすり合わせている。


 『この学校は生徒数が多そうだし、グループ分けして行うのはなんとなく分かるんだが、そんなに変わるものなのか?』

 『座学のテストなどは時間割が異なるだけで大した差はないですけど、実技試験の方は結構変わりますね。優秀な人と同じグループになるとどうしても点数が下がってしまうので。一応同じくらいの強さの人とあたるよう調整はされてますけど』


 実技試験なんてものがあるのか。

 

 「んっふっふうー! じっくり読んでテスト対策に生かしてよ! あ、ちなみに今回の座学のテストは教頭先生が作るからね」


 抑揚の付け方が独特な先生の宣言に対し、多くの生徒がしかめっ面をしていた。両隣の2人も落胆したような表情で額に手を当てている。教頭のテストは難しいのだろう。

 俺は苦々しく口元を歪めるウェスタに話しかける。


 『なぁ、実技試験で俺は何をすればいいんだ?』

 『……オーエンの出番はプリントに書いてあるこれですよ。あとの3つは純粋に知識を問う試験なので』


 教頭がテストを作るのが余程嫌なのか、ウェスタの声には覇気がなかった。残念ながら座学の方は俺にはどうすることもできない。

 

 プリントを確認すると、『座学』以外にも『実戦形式』『特別試験』『専門分野』の3つの欄が設けられていた。ウェスタが指さしたのは『実戦形式』だ。


 『なあ、これってもしかして……』

 『オーエンの予想通り、幻獣同士のガチンコバトルですね。ほら、ここにルールが載ってますよ』

 『あ、やっぱりそういうのあるんですね』


 俺は平坦な声で返しつつ、ウェスタに指さされた方へ目をやった。

 これも先生の手書きらしく、やたらと回りくどいものだったので要約すると。

 

 ・減点方式を採用。生徒は試験が始まると同時に持ち点100点をもって開始する。

 ・合計8名の生徒によるバトルロワイヤル方式。他の生徒が遣う幻獣と戦い、最後の1人になった奴が1位。

 ・制限時間は50分ほど。時間内に終わらなかった場合は、残っている生徒の中で最も減点されてない奴が1位。もし同率だった場合は、他の幻獣を倒した数が多い方の勝ち。それも同じなら、移動距離が多い方の勝ち。

 ・戦いの舞台となるステージは『ピロス森』という場所をモチーフにした森林地帯。

 ・5分ごとにサーチがかかり、『観戦玉』とかいうアイテムに他の生徒の位置が送信される。位置情報の表示は30秒ほど持続する。

 ・参加する生徒はこれまた固有のアイテム、『プロテクター』を必ず装備しなければならない。どうやらこのアイテムを装備していないと他の召喚魔導士に幻獣の攻撃が当たってしまうらしいんだとか。

 

 ここからは点数の内訳。


 ・順位点 脱落した際の順位によって減点される点数が変化する。

 【8位-60点 7位-50点 6位……3位-10点 2位-5点 1位0点】

 ・駆除点 脱落または試合が終了した際、ステージ上に存在するサウムという魔獣を狩った数に応じて点数が減点される。0匹なら−10点。5匹以上で減点なし。

 ・幻獣討伐 基本的に減点方式の実戦形式で、部分的に採用された加点方式。他のプレイヤーの幻獣を討伐すると+5点貰える。

 ただし、試験終了時に実戦形式での合計点数が120点以上になるなら切り捨てられる。

 ・その他、明らかに道徳的価値観を逸脱する行為を働いた場合は−120点の後、脱落扱いとなる。

 

 と、こんな感じだ。最後の道徳的云々は、元の説明自体がふわっとしてるせいでよくわかんなかったけど。


 『最後のは試験開始前に賄賂を配って手を組むとか、他の生徒に直接的な暴力を奮ったりとか、まあそんな感じのことをしないでよって感じの文言です』

 『補足助かる』

 

 にしても、道徳的うんぬんにさえ抵触しなきゃ最低でも30点は貰えるのか。

 意外と何とかなるやもしれん。

 

 「いつもと同じく合計で150点未満だった生徒は追試験だから、しっかりと勉強しておくんだぞお!」


 腰に手を当てて笑う先生。それと対照的に、多くの生徒は表情を強張らせた。


 『いいですかオーエン。今回私たちが目指すのは合計150点以上。それ以下をとってしまうと……私は退学です』

 『えっ、それだけで退学!? いやでも、さっき追試験って』

 『あれはあくまで体調不良で試験を受けられなかった生徒の救済措置ですから。難易度もかなりのものですし、合計で150点もとれないような生徒が合格できるようなものではありません』

 

 前言撤回。30点じゃダメそうだ。

 なるほど。要するに6割以下をとった瞬間、ほぼ退学が決まってしまうのか。

 俺は配点を確認するためにもう一度プリントへ目を通す。


 【『座学50点』『特別課題50点』『実践形式100+20点』『専門分野50点』合計250+20点】


 ぱっと見た感じだと座学などのペーパー試験より、実技試験の方に点数が偏っていた。ウェスタがあそこまで必死になって俺を繋ぎとめた理由が良く分かる。


 『オーエンには、実戦形式で最低70点は取ってもらおうと思っています。丁度明日「プラレート」が開催されるので見学に行きましょう』

 『……すみません、そのプラレートとは何なんでしょうか? ここまで固有名詞だらけで頭がこんがらがっておりまして』


 俺は学生時代、世界史で必ず暗記しておかねばならない事柄でも、いちいちその背景を調べてからじゃないと記憶できなかった。

 ただでさえ【ギフト】やらなんやらと固有名詞が出てきているのに、そんな電車みたいな名前までは覚えられない。

 ウェスタもそれを察してくれたようで、しばし口元をもごもごと動かした後に。

 

 『超わかりやすく言うと、「頂上決定戦」です』

 『あらやだわかりやすい』

 『そうでしょうとも』

 

 言葉を借りると、超わかりやすいたとえを出してくれた。

 要は大人気週刊誌漫画みたいな行事ってことだ。

 

 「あ、そういえば。今回の『特別課題』の内容が変更になったからさ。一応説明しとくね!」


 試験について話していると、壇上の先生がポンと手を打った。何を急いでいるのか、早足で黒板の方へと駆け寄りミミズが潰れたような文字を書き始める。周りの生徒からはため息が漏れた。


 「んじゃ。ここに書いたから確認しといてね! そんじゃあ授業を始め──」

 「クラリア先生。少しよろしいですか?」


 手を挙げたのは、よく手入れされた黒髪を腰の辺りまで伸ばしたスタイルの良い女子生徒。腰には他の生徒よりもひとまわり大きい杖をぶら下げている。


 『彼女の名前はコルネ。同学年で最も優秀な人です』


 ウェスタの補足も納得の、自信に満ち溢れた風貌。整った顔立ちは貼り付けたようなアルカイックスマイルを形作っている。


 「クラウディアさん。どうしたのかい?」

 「……申し訳ないのですが、黒板の説明だけでは私の理解が追いつかず。よろしければ、口頭で説明していただけませんか?」


 どうやら先生の字が汚すぎて読めないのを指摘してくれたようだ。生徒達から安堵のため息がこぼれる。


 「……さすがコルネですね」


 ウェスタが隣にも聞こえないような声量で呟いた。

 

 「おおお。任せたまえよ。そんじゃあ簡単に説明するぞ!」


 『簡単に』と銘打ったくせに、先生の話は脱線しまくったせいで次の鐘が鳴るまで終わらなかった。


 ◇


 太陽のような恒星が空に高く昇る頃、2限目終了を知らせる鐘が鳴り響いた。


 ──これより昼休憩です。生徒の皆さんは昼食をしっかりと済ませて、午後の勉学に励みましょう。


 「だから、皆は練習中に必ず『プロテクター』を……ってあれ? もう終わり!?」


 無機質な女の声を聞いた先生は慌てて教材を鞄にぶち込んでいく。


 「それじゃあみんな休憩だぁ! 復習を忘れずにー! それと、明日から5連休だからってハメを外し過ぎないようにねー」


 ミミズ文字だらけの黒板をぱっぱと消して先生は早足で教室を後にしていった。プリントの文字はすごく綺麗なのになんで黒板の文字は汚いんだ……?

 

 「んー! やっと昼休憩かー。お前らはこれで終わりだろ? いいなあ」


 ウェスタの隣に座っていたハルドリッジが大きく伸びをしながらぼやく。


 「私たちは昨日5限まででしたから。その分休めるわけですよ」

 「かーっ。今は正論なんぞ聞きたくないんだい。エールをくれエールを。エロいやつな」

 「ふえっ!? ふ、太ももまでなら……」

 「いや真に受けんなよ。申し訳なくなるわ」


 ウェスタの顔が朱に染まる。


 「こらリジー。ウェスタにそんな冗談言っちゃダメだよ? 思春期なんだからさ」

 「ち、違います!」

 「へーい。んじゃ、俺はこれで」


 既に何度もしているやり取りなのか、ウェスタの顔に「しまった」という文字が見て取れる。当のハルドリッジはひらひらと手を振って教室を出て行った。


 「じゃあアタシも行こうかな。ウェスタは『マーズ』で測定してから来るんでしょ? 先に広場で待ってるねー」

 「は、はい。わかりました」


 それに追随するようにアリテラスも歩いていく。


 『オーエン。聞きたいことがあります』

 『なんだ?』

 『どうやったら不意打ちのエロネタを捌けますか?』

 『そう思う時点でムリだ』


 個人的には捌けなくてもいいと思う。



 『私は将来男性が多い配属先を希望しているので、その手のことを理解しておきたいんです』

 『真面目だなぁ』


 研究室へと向かう間。俺はウェスタから男のノリについての解説を求められていた。正直、常識を持った男ならハルドリッジぐらいの距離感でもない限りエロネタは使わないと思うが。

 しかしクソ真面目なウェスタは男とコミュニケーションをとるなら知っておかねばと考えているようだ。


 『最悪理解できなくてもいいですから、せめて動揺しない心構えを身に着ける方法を教えてください』

 『んなこと言われても……男友達をいっぱい作るぐらいしか思いつかん』

 『う……やっぱりそうですよね……』


 ウェスタは両手をもじもじと動かし始めた。意外と異性に対する免疫がないらしい。


 『そんなんで一体どうやってハルドリッジと仲良くなったんだ?』

 『地方から出てきて右も左も分からない私に、声を掛けてくれたのがあの2人なんです』


 つまり、ハルドリッジとは成り行きで友達になれたと。


 『他の女子はどうやって男友達を作っているんでしょう……アリテラスも男友達多いですし』


 俺も学生時代友達は多いどころかいない時期の方が長いので、閉口するほかなかった。


 『それより、なんだ。研究室ってどこにあるんだ?』


 なんとか話題を逸らすように試みる。


 『あっ! 危うく通り過ぎるところでした』


 俺の卑しい企みは実を結んだ。ウェスタは慌ててきた道を引き返し、『研究室』と札が掲げられた扉の前に辿り着く。コンコンと2回ノックしてから、丁寧に戸を開いた。


 「おおおおおおー! クライエスさんじゃあないかぁ! 研究室に来たってことは新しい幻獣くんと契約できたんだねぇ?」


 研究室の主は、まさかのクラリア先生だった。ウェスタの姿を見た途端に破顔し、椅子から立ち上がる。ついさっきまで食事中だったようで、口元に食べかすが付いている。まだ2限が終わってから5分も経ってないんだが。


 「はい、一応ですけど」

 「いやあ良かった良かった。魔法陣は高いからねえ。学校が配布してくれりゃあいいのに」


 フランクな話し方で会話しつつ、クラリア先生はテキパキと分厚い書類を鞄に詰めている。


 「んで、今日はどうしたの?」

 「新しい幻獣の【ギフト】を観ようと思いまして。『マーズ』の使用許可を頂きたいのです」

 「もちろんさ!」


 先生は机の引き出しをまさぐり、大きめで綺麗な紙を1枚取り出した。

 それにじゃじゃっとサインのような印を描いてウェスタに手渡す。


 「ほんとは私も見たいんだけど、この後お偉方と話さなくちゃなんないからさー。ま、クライエスさんなら大丈夫でしょ! よろしくねー!」

 「はい。ありがとうございました」


 早口で使用許可を出し、パンパンの鞄を片手に先生は研究室を飛び出していった。嵐のような人だ。


 『さて、オーエン。今から貴方の身体を元に戻します。そのままでは正確な測定が出来ませんからね』

 『お、戻してくれるのか』


 やはり人間たるもの、自分の足で立って歩きたいものだ。

 ウェスタは背中から杖を取り出した。淡いエメラルドグリーンの光が美しい。


 「【顕現せよアクティブ】」


 瞬間、先端から強い緑の光がほとばしる。光はぐにゃぐにゃと動いて俺の身体を形作り、同時に失われていた五感が視覚から順に戻っていく。最後に皮膚感覚が戻り、光は霧散していった。


 「あー、あー……俺の身体、あるよな?」


 未だぼんやりとする頭を撫でながら聞くと、ウェスタは優しい笑みを浮かべた。

 

 「ええ、ありますよオーエン。お疲れさまでした」


 俺は身体の調子を確かめつつ、ストレッチ代わりにぐるりと周囲を見回す。

 まず目に入ったのは、バネのような模様が書き殴られている紙が散乱している机。

 上には紙の山に埋もれる形で鉄っぽい金属製の装置が鎮座している。

 

 部屋の端の方にはいかにも研究職だといった感じの、木製の本棚が。なんかどっかで見たことのある偉人が本の表紙に描かれているけど、さすがにこれは偶然だろう。

 

 そしてその横には血圧測定器みたいな器具が置かれていた。器具の上部にはエメラルドのような鉱石が填められている。

 俺はなんとなく、机の上に置かれていた装置を手に取った。持ってみれば意外と軽い。


 「これが『マーズ』っつう測定器具か?」

 「いえ。それは『プロテクター』と言って、『実戦形式』の試験で使われるものです。これを身体に取り付けると、幻獣を用いて他の人間に直接危害を加えることが出来なくなります」

 「これが件のアイテムか」


 実践形式のルール説明欄に書いてあったやつだ。

 俺は『プロテクター』を元の場所に戻し、血圧測定器に似た器具を指さした。


 「じゃあこれが『マーズ』か。ここに腕を通せばいいんだな?」

 「はい。この緑の鉱石に先ほど貰った紙を置いて、5分ほど待てば完了です」


 俺はウェスタに言われるがまま測定器具に腕を通す。すると、器具は俺の腕に凄まじい力で食い込み締め上げてきた。予想外の痛みに仰け反ってしまいそうになる。


 「なあウェスタ。俺の【ギフト】ってさ、ワンチャン魔法が使えるとかになったりしない?」


 待っている間暇なので、俺はいつの間にかパイをかじっているウェスタに声を掛けた。丁度口の中に放り込んだばかりだったのか、凄まじい勢いで咀嚼している。


 「んぐっ、まあ可能性は0ではないですけど……というか、どうしてそんなに魔法が使いたいんですか?」

 「え? そりゃあ、ファンタジー世界といえば魔法だからな。俺、こういうのに昔から憧れてたんだ」

 

 傘やリコーダーを杖代わりに、アニメの詠唱を真似た経験は数知れず。

 俺は鎧を着て剣で戦うよりも、野暮ったいローブを着こんで杖を構えたいタイプの人間だ。


 「なるほど。例えば、こんなのですか?」


 ウェスタの指先に、紅い灯が現れる。

 

 「おおっ! そうそう、そういうのが使いたいんだよ!」

 「こ、こんなゴミを燃やす程度にしか使えない魔法でいいんですか?」

 「もちろんだ! んで、他には何が使えるんだ?」

 「……これしか使えませんけど?」

 「えっ」

 「人間の使う魔法は、魔力を編みこんで形作られています。なので、そもそも肉体が魔力で出来ている幻獣にはまったく効かないんですよ。日常生活で使う魔法は魔道具が肩代わりしてくれるのも相まって、長い戦争の間に廃れてしまったのです」

 

 そうこうしているうちに水色の光も収まり、ようやく拘束が緩んだ。腕を抜き取るとエメラルドみたいな鉱石が微かな光を帯びる。


 「マジかよ……魔法、使いたかったな……」

 「あ、終わりましたね。どれどれ」


 パイで汚れた手を拭きながら近づいてきたウェスタに俺は鉱石の上に乗っていた紙を手渡す。が、しかしウェスタは俺の手に紙を戻した。


 「どうぞオーエン。貴方の能力なんですから、一番に確認してください」

 「そういうことならお先に」


 魔法は望み薄とのことだが、どうせならファンタジーな能力がいいな。俺ははやる気持ちを抑え込み紙を受け取った。


 【筋力D 知力EX 魔力E 精神力C】

 【ギフト】身体強化 発現レベル0

 

 下にも長々と書いてあるものの、魔法陣製の翻訳が上手く機能しないせいで読めなかった。

 

 「どうでしたか?」

 

 ウェスタが覗き込んでくる。


 「なあ、ウェスタ。これって」

 

 アホな俺でも『知力EX』規格外という判定なのは、『マーズ』が幻獣基準で測定しているからだろう。

 だから知力は例外として、後の能力が……。


 「ひょっとして、結構低い? 【ギフト】の能力もなんか地味だし……」

 「だ、大丈夫です。【ギフト】で身体能力を強化出来るなら素の筋力はさほど問題じゃありませんよええ」

 「ちょっとー、フォローになってませんよー」

 

 ぎこちない笑みを浮かべながら言われても。


 「それにほら、まだ【ギフト】の発現レベルは0ですから。これからどんどんレベルアップしていけばいいんですよ」

 「……そういやさっきレベルも測れるって言ってたな。この数値が上がるとギフトの性能も上がるって感じか」

 「ふふ。理解が早いですね。ちなみに私たちが試験に合格するためには、レベル2は欲しいところです」

 「それって、どれくらいかかるもんなんだ?」

 「下の方に発現レベルを上げる方法が書いてあるはずですよ」


 上ばっかに意識がいってたが、そういやそんな項目もあった。

 

 「ここの部分は翻訳されてなかったから読めなかったんだが、なんて書いてあるんだ?」

 「ああ、ここは召喚魔導士が見る欄なので翻訳が無効化されてるんですよ。オーエンの【ギフト】をどのようにして発現させるかのアドバイスが記入されてます」


 そういえば今朝『【ギフト】を発現するには特定のプロセスを踏む必要がある』って言ってたな。


 「どれどれ──」


 少々の静寂の後、ウェスタは難しい顔で顔を上げた。


 「要約すると、オーエンの【ギフト】を発現させるには何か好物を与えないといけないと書いてあります」

 「好物? 何か物を食べた後でないと発動すらできないのか?」

 「いえ、それがそうとも言い切れず……原文を読みますと『この幻獣くんはめんどくさいね! なんだかよくわからないし、うーん……まあ! この子の【ギフト】を発現するには、うーん……とりあえず好物を上げたらいいんじゃないカナ!?』と書いてありまして」


 俺ってめんどくさいのか……。てか原文クラリア先生の話し言葉なんかい。クセの強い人だ。


 「ま、とりあえず診断結果も出ましたし。アリテラスのところに行きましょうか」


 せめて発動すれば強いとかになってくれればなぁ……。

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