第9章
「待たせちゃってごめんね。」
浅沼がやってきた。僕らはいつもの川辺へ向かった。僕は話を切り出せずにいた。なぜか真実を知るのが怖くなった。
無言の時間が続く。浅沼がその空気を打破しようと声を上げたのは川辺に着いた頃だった。
「何かあったの?」
いつもの優しい声だ。心が落ち着く。僕はようやく彼女に想いを伝えられた。
「なんて表現したらいいのかがわからないんだけど…浅沼って…な、何者なの?僕は君が大好きだし君から離れたくないって思う。でも…どうしても出席番号が合わなかったり、浅沼から不思議なオーラを感じてしまったり。僕は何が現実なのかわからなくなっちゃった。こんなこと言うと…引かれる…よね、うん、ごめんね。」
僕は頑張って思っていることを伝えた。
沈黙の時間が続く。
彼女はすごく迷っているようだったが、ようやく口を開いた。
「そうだよね…いつか気づいちゃうんだろうなとは思ってた。これを見たら、真実を知る糸口になると思うよ。」
そう言って彼女が差し出してきたのは、文庫本だった。そのタイトルは「あの夏の日に」。作者は…浅沼絢音。僕は状況が理解できなかった。
「この本の作者って…」
「私なの。」
彼女は最後の方のページを開いた。奥付だ。
「ここ見て」
「ひ、100年後…?」
彼女が見せてきたのは出版された年だった。2122年。100年後。ますます状況は分からなくなるばかりだった。
「もう隠せないよね。私が生まれたのは2107年。みんなが生まれた100年後なの。つまり私は未来から来たってこと。」
僕はものすごく混乱していたが、彼女から独特なオーラが出ていたのはこれか、と腑に落ちている部分もあった。
「本当はすぐに帰るつもりだったの。最初に教室にいたときは外が暑かったから涼んでた。だけど芦川が入ってきた時に惹かれてしまって…」
彼女が教室にいたこと、彼女が読んでいた本、とてつもない情報量の中にも腑に落とせるものはいくつかはあった。
「でもこうなってしまったら私は帰らなきゃいけないんだ。だからもうこれから先、会うことはないと思う。だけど一つだけ伝えておきたいことがあるんだ。私がここに来た理由。」
「芦川は私のひいおじいちゃんなの。」
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