第6章
ついに修学旅行の日になった。今日は初めて私服を見られる日だ。僕は浅沼の私服を見られることが、楽しみでしょうがない。そのためだけに来たと言っても過言ではない。
浅沼が来た。おしゃれ。その言葉がこれほど似合う人はいるだろうか。他の人とは次元が違うレベルで大人っぽく、垢抜けている。僕はさらに彼女に惹かれていった。
その夜。疲れ果てた同じ部屋の奴らは、すでに寝ていた。もちろん青木もそうだ。僕はこっそりと部屋を抜け出し、ホテルのロビーへと向かう。当然、先生にバレたら怒られるであろう。コソコソと階段を降り、大きな窓のある吹き抜けのロビーへと向かった。
窓の近くに誰かが立っているような気がした。よく知っている艶やかな黒髪だ。僕は静かに近づいていった。僕が近づくと浅沼は振り返って笑みを浮かべると共に不思議そうな顔をしていた。
「私、こういう風に部屋抜け出すの初めてなんだよね。」
浅沼の優しい声が僕の耳元で囁かれる。窓から見える夜空も相まって、僕の鼓動が早まっていく。僕は彼女の耳元で囁き返した。
「僕も。この初めてを浅沼と経験できたのは嬉しいな。」
浅沼の頬が赤らんだ。彼女は恥ずかしそうに口元を覆う。僕は続けた。
「もしよかったら…僕と付き合って欲しいな。」
浅沼は静かに頷いた。寝巻きとは思えないほど綺麗なワンピースは、入り口から吹き抜ける風に靡かれていた。
僕らは向かい合う。手を繋ぎ、彼女は目を瞑った。唇を寄せ合う。僕らにとって二回目のキスだ。静かな時が流れる。真夜中の星空は、僕らを包み込んでいく。
唇が離れた時、2人は目を合わせ恥ずかしがっていた。その時、遠くの方から声が聞こえてきた。
「誰かいるのかー?さっさと寝ろよー?」
恐らく先生だろう。僕らは柱の影に隠れた。2人の距離はぐっと近づく。彼女は僕の胸に頭を擦り寄せてきた。僕は静かに彼女の頭を撫でた。サラサラの髪は引っかかることなく手が通る。
こんな幸せなことがあっていいのだろうか。僕は彼女を部屋まで送り、自分の布団に潜り込んだ。
ただ一つ気掛かりなのは、彼女が纏うオーラだ。やはり普通の人とはどこか違う、そして何か大きな秘密を隠しているような感じがした。それでも僕は彼女が大好きだ。
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