第3章

 気がついた時、僕は保健室にいた。ドアの外からノックが聞こえた。


 「1年14組浅沼絢音あさぬまあやねです。芦川くんいますか?」


 澄んだ声がした。僕が「はい」と答えると彼女は静かに入ってきた。


 「あ、芦川くん!大丈夫だった?」


 すごく優しい声だった。初めて女子に話しかけられた僕は、なんと反応したらいいのかがわからず、あたふたしていた。

 

それと同時に、なぜか自分がドキドキしていることに気がついた。なんとか心を落ち着かせた僕はゆっくりと起き上がって彼女に言った。


 「ありがとう。僕は大丈夫だよ。」


 どうしても気持ち悪い反応にしかならない。引かれないことを願うばかりだった。


 「あの、、もしよかったら一緒に帰らない?」


 彼女は優しく声をかけてくれた。僕は嬉しくて仕方なかったが、どうしても嫌われたくなくて、冷静にこう答えた。


 「うん。いいよ。」


 こんなにさっぱりと答えるだけでいいのだろうか、と僕は思った。


 「ありがとう!!準備してくるね!」


 すごく可愛いと思った。彼女は嬉しそうに振り返り、ドアの方へと向かっていった。彼女の艶やかな黒髪は、どこか見覚えのある感じがした。




 「お待たせ!」


 彼女はテンション高く現れた。僕は自分の心臓の音を聞かれないようにと、冷静を装っていた。本当は今すぐ抱きしめたいと思うくらい、彼女が愛おしかった。


 朝まで入学式があれほど嫌であった僕にとって、彼女は女神のようであった。これからの高校生活を夢見ながら、2人は学校の最寄駅へと歩いて行った。



これが恋かと、僕は確信していた。



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