猫の婿取り(2)

「ヒメ、ヒメや」


 庄屋の猫なで声にも、ヒメは尻尾をパシパシと、(うるさいわね)とばかり。


「ほんに、おまえはいつもすましているのう」


 つれない態度もかわいくてしようがないか、猫好きの顔をデレデレとだらしない庄屋である。


「そろそろおまえにもいい婿を見付けてやらんとなあ」


 実はヒメには、幼い約束を交わした相手があった。


 トラと名付けられた、茶虎の男の子である。


 村には小さいながらも典雅な隠居所を構える元侍がいた。あまり詳しく素性を語らない人だが、家督を譲ったあと、のどかな村に引きこもり、好きな学問三昧の日々を送っているという。村の子供らにも気軽に読み書きを教え人望も篤いご隠居は、庄屋の碁敵ごがたきとして昔からよく屋敷にも通っていた。その際にはトラもついてくることが多く、ヒメとトラは子供のころからよくじゃれあっていたものである。


 トラは長じて図体は大きくなったものだが、その勇ましい名前と姿に似合わずのんびりした性格となった。


 そこがヒメには不満。


『トラ君より、もっと私にふさわしい相手がいるかも知れない』


 気難しいお年頃になると、ひそかに思わないでもなかったのである。


 だから旦那の呟きにも、


 ニャア!『ほっといてよ!!』


 しゃなりしゃなりと立ち去る姿はまるで本物のお姫さま。


「ほんに、つれないのう」


 そういいつつ、庄屋の顔は生まれたばかりの孫を見るほどにとろけ切っていた。


 庄屋の顔が、ふと引き締まる。


「あの子の始末は、さてどうするか」

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