拝啓、課題を終わらせなかった『私』へ

QU0Nたむ

『私』からのメッセージ

 本日、外はあいにくの空模様。

 晴れていても暑いのが分かっているから出掛けることはないのだけど。

 そして、出掛けてはいけない理由がもう一つ机に載っかっている。


「課題しよ、机に向かい、そっ閉じす。」


 夏休み終了まで残り5日。


 これは登校初日には間に合わないと、テキストを開けては閉じてを繰り返してる。

 中学は解答集からコピペしていたが(よい子はマネしないでね)。高校になってからは通用しなかった。「解答集は事前に回収します」と、取り上げられてしまったのだ。


 机には国語と社会科以外の数理英の3テキストが、ボスラッシュの如く鎮座している。


 ダルさだけがつのる午後三時、そのメールは届いた。



『拝啓、課題を終わらせなかった私へ』


 迷惑メールだと思ったが、課題が終わってないのは事実だ。


 URLが載ってたら触んないように気を付けつつ中身だけ軽く見てみた。


『拝啓、このメールを読んでいる過去の私へ。


 夏休み終了、5日前のタイミングにメールを送っている。

 今メールを読んでいる過去の私はまず、このメールがイタズラかどうかを疑うだろう。』


 それはそうだ。疑わないわけが無い。


『私がその夏休みで一番良く使ったフォルダの名前は『学習帳』の中の『公民』である。


 君には、それ以上言わなくても分かるだろう』


……コイツ、ホンモノだ。

 オレのスマホの勉強系の情報まとめにしている、フォルダの名前を知っているなんて……


『それに、これからする提案は君にとっても悪くない提案のはずだ。』


 一体なにを


『課題を私が手伝おう』


……おう、ありがとう『オレ』。いんや、『私』と呼ぶか。


『テキストのページを写メってくれれば、順次回答していく。』


 詐欺だとしてもわけがわからないし、オレはこの『私』を信じることにした。


 一番苦手で面倒な数学を『私』に押し付けるメールを送りつつ、英語のテキストを開く。


 過去と未来のドリームタッグで効率2倍!終わりの見えない戦いに希望の光が差した。


_______________________


「未来の自分すごいな……」


 オレが苦手な数学がゴリゴリと回答されていく。


 同時進行で英語を片付けているが、その進行速度よりも早い。なおかつ、途中式まで書いて送り返してくれている。

 これなら堅物な数学教師も、答え丸写しなんて思うまい。


「イケる!これなら!」


 未来のオレは数学得意になったんだろうか?

 せっかくだから、聞いてみた。


 驚きの回答が返ってきた。


『今やり取りしてる『メール式タイムマシン』の開発のために数学を勉強した。』


 何をどうすればそうなるの!?


『課題を終わらせたら、詳しく話そう。その方がやる気が出るだろう?』


 気になって集中できないと言い訳しようかと思ったが、未来の自分相手じゃ見透かされそうだからやめといた。


 踊らされてる感はあるが、さっさと終わらせて聞き出してやる。


 英語の進捗も悪くない、休憩を挟みつつもテキストが3分の1は進んだ。

 今日はこれくらいか。明日残り3分の2と考えれば3日で1教科。

 その間に『私』も手伝ってくれるなら5日で十分間に合うだろう。


 感謝と今日はもう寝る旨を伝える。


『自分自身なのだから、礼など不要。


 キミは慢心する性格だから、明日もちゃんとやれよ。

 明日もちゃんとやらなければ、私の支援は打ち切るからな。』


 まったく、よくわかっていらっしゃる。



_______________________


 翌日も、翌々日も『私』とオレは奇妙な協力体制で課題を消化していった。


 そして夏休み終了まで一日を残して、課題は実質終わった。


 あとは『私』が送ってくれた解答を書き写す『作業』を明日使って終わらせれば、間に合う段取りだ。


『ひとまずは、おめでとう』


 オレたちは課題を終らせた事を喜んだ。


 そして、気になっていたことを色々聞くことにした。


 まずは、なんで自分でタイムマシンを開発してまでオレを手伝ったのか。


『キミを助けたのは、簡単だ。


 キミはこの夏休みに課題をサボり、その後の高校3年間、一度も夏休みの課題を出さなかった。


 それを大人の私が後悔したから。

 そして、この技術の試験運用のために利用させてもらった。』


 この夏休みサボるだけで、今後も出さなくなっていたのか。

 続けて他にも色々聞きたいことがあったが、メールの文はまだ続きがあった。


『このあとのキミは、『宝くじの当選番号を教えて!』とか言い出すだろう。


 しかし、それは出来ない。未来が変わりすぎてしまうから。


 一言教えられるとすると、私の人生は捨てたもんじゃないって事だ。

 タイムマシンでやることが、やってなかった課題をやるくらいしか思いつかなかったほどに。』


 また思考を読まれた。


 随分といい人生を、未来のオレは歩んでるらしい。

 そして、せっかく作った技術をオレの課題に使って封印するなんて、バカなんじゃないだろうか。


『キミとの4日間のやり取りで歴史を歪めただけで、色々なバタフライエフェクトが発生している。


 恐らく、キミと私の世界はパラレルワールドとなってしまっただろう。


 これ以上のバタフライエフェクトは何が起こるか分からない為、メールはこれで最後になる。


 この技術は封印する。

 私個人にも世界にも過ぎた代物だ。


 若返ったようで楽しかったよ。さよならだ。』


 これで『私』からのメールは終わっていた。


 オレは、無事に課題を提出することが出来た。

 それからの高校生活においてもサボり癖はつかなかった。


 オレは、毎回ちゃんと課題を提出することが出来た。成績もやってなかった『私』よりもきっと良くなったと思う。


 確かに世界は分岐して、『私』とオレは永遠にさよならしてしまった。




_______________________



 30年後、白衣の男が多くのコードと計器類で飾られたパソコンに向かい合っていた。


 パソコンは2台、一つは『メール式タイムマシン』とタグが貼られている。


 そして、もう一台。『多次元平行世界宛メール送受信装置』とあった。



 2つのパソコンにはそれぞれメールが待機していた。


 タイトルはどちらもおなじ。


『拝啓、課題を終わらせなかった私へ』



 『キミ』を助けて、『私』に言いそびれたお礼を伝えるための装置だった。


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