第七話 入国

「ん~! 気持ちのいい朝です」


 窓から降り注ぐ気持ちの良い日差ひざしを浴びながら背伸びをする。身支度みじたくをしながら窓をのぞき外の様子を見た。


 少し寝すぎたようですね。

 

 外はもうすでににぎわっていた。商人は行きかい今日来るであろう人々を迎える準備をしている。


「さて、降りましょうか」


 扉を閉め一階へ行き受付にかぎを渡す。


「すみません、少し遅くなりました」

「いえいえ、大丈夫ですよ。十分な休息を取られたならさいわいです」


 ニコリと受付の女性が言うと「あ、そう言えばお客様がお見えですよ?」と伝えた。


 「お客様? 」と頭に疑問を浮かべながら受付が示す方向を見るとそこには行商人のマリンと傭兵のアマンダとマーラ、そしてナルがいた。


「クリラッサさ~ん!」と手を振りながらこちらに合図あいずを送ってくるマリンに手を振り返し「おはようございます、皆さん」と挨拶をする。


「「「おはようございます」」」


 四人と一緒に宿を出て馬車を置いてある方へ向かった。


「起きるのが遅かったのでてっきり先へ行ったのかと思いましたよ」

「そんなことするわけないじゃないですか」


 ふくれた顔も可愛らしいですね。


「俺達はガラは悪いが約束は守るんでな、ハハハ」

「……信頼・信用は重要……」

「私のカンがクリラッサさんとは仲良くしておけっていってるしな! 」


 傭兵業も中々大変ですね。

 依頼主との契約もそうですが依頼主の周囲にも気を使わないといけないのですから。


 マリンについて行っていますがこちらはどちらでしょう? 昨日別れた場所とはまた違うようですし……。


 サクサク進む先に一軒の馬小屋が見えた。


 なるほど、こちらに馬小屋があったのですね。


「ここから商会へ馬を走らせ荷物を取りに行きます! 」


 えっへん、と胸を張るその姿も可愛らしいです。

 ええ、本当に可愛らしいです。

 傭兵達も少し苦笑にがわらいしています。


 そう言うと馬を受け取り彼女が取引をしている商会へ向かい、取引をませ私達は国境へと向かいます。


「そう言えばクリラッサお姉様は魔法王国のどちらへ向かう予定ですか? 」

「私ですか? 私は王都方面……カウフマン公爵領まで行こうかと思っております」


 マリンは目を輝かせながらこちらを見てきます。


「そうなのですか。私は王都まで行きます! それまでご一緒できますね! 」


 あらあら、かなりなつかれてしまったようですね。


 話している間に国境に着きました。

 行列ぎょうれつができていますね。

 私が起きるのが遅かったせいとはいえこれほどまでとは思いませんでした。


 まだ時間はありそうですね。

 少し気になっていることを聞いてみましょう。


「そう言えばマリンはどうして行商人に? 」

「ふぇ、私ですか? 私はお父様の販路はんろを受けぐために行商をしています」


 あ、もしかしてやってしまいましたか……。


「あ、お父様は健在けんざいですよ? むしろ「第二の人生を謳歌おうかするんじゃー」と言って新しい販路はんろを見つけるために新天地を目指しましたので」


 ……少し的を外してしまったようですね。

 それにしてもかなり元気なお父様ですね。彼女を見る限り私と同年代のように感じられます。十八歳前後でしょうか? するとお父様は大体四十~五十代でしょう。

 少しけてしまいます。


「そこで今まできづき上げた販路はんろを受けぐためにこうやって行商をしているわけです」


 そうですか、と言っている間に時間が経ち検査が私達の番になりました。


 すぐ間近で見るととてつもなく背の高い壁です。煉瓦れんがとは異なる石材を使って作られているみたいですね。

 横にはそのはしが見えないほどに伸びています。どうやら何か所かから入れるみたいですね。あちらにも行列が見えます。


 国境の壁に圧倒あっとうされていると二人の門番が話を聞いてきました。


「魔法王国へは何をしに? 」

「商売です」


 ドヤ顔でマリンは言い後ろの荷物を指す。


検分けんぶんさせてもらうぞ」


 どうぞ、とマリンがいい衛兵が荷台に不審物がないか調べていく。


「特に問題はないようだな、次! 」


 次は私達の番の様ですね。


「俺達はこっちの商人に雇われた傭兵だ」

「私は旅の途中です」


 そう言いお互いに入国目的を言う。


「旅の目的は? 」


 少し威圧しながら声を掛けてきました。

 いつもなら『貴族章の短剣』を出せばむのですが今日はそういう訳にはいきません。


「私は魔法使いです。そこで魔法で名高い魔法王国へ行き何かしら学べたらと思ったのですが……」

「ふむ……大学への入学希望かな? 」

「カウフマン公爵領にある大学へ向かおうと思っております」

「なるほど、わかった。入ってよし! 」


 全員の入国が許可され私達は魔法王国へ入りました。


 壁の中を通り魔法王国側の国境の街へ入ると騎士王国の国境の街とは全く異なる繁栄はんえい具合をしていました。

 まるで別世界です。


 たった一枚に隔たれた全く違う様子を見せる国境の街。

 この様子はまるで騎士王国と魔法王国の繁栄はんえい具合の違いを示しているようであった。


 規則正しく石で整備された街の道に綺麗きれい煉瓦れんがで作れた街の建物。

 道を少し行くと魔道具を使って店の品物をアピールする店もある。


「そう言えばお姉様は大学へ入学するのですか? 」

「いえ、しかし少し立ちろうと考えています。なので嘘は言っていません」


 そう言うと全員が苦笑にがわらいをしました。


 魔法王国側の国境の街—正確に言うとロダン辺境伯領フーリエで馬車を走らせマリンの目的地へと向かう。


「ここで一旦いったんお別れです」


 そう言いマリンは馬車をめに行った。


「俺達はこれから宿を取りに行くが……どうする? 」

「では私もご一緒してもよろしいでしょうか? 」


 大丈夫だぜ、と言い彼女達について行きました。


 勇者達と旅をしていたとはいえ魔法王国内はあまり散策さんさくしたことが無いので正直宿を案内しれくれるのは助かります。


 一人で散策をして楽しむのも一つの楽しみ方なのですが今日はご一緒させていただきましょう。

 なんやかんやであのパーティー以外の方々と一緒の場所に泊まるというのは新鮮しんせんで面白いものです。


 アマンダ達について行くと一軒の建物へと着きました。


 赤い煉瓦れんがにジョッキが描かれた看板。

 はて、宿へ向かうと思っていたのですが何故なぜ宿へ?


 中へ入ると「いらっしゃいませ」という声がしました。


「あら、アマンダさん。今日も泊ってくれるのですか? ありがとうございます」


 エプロンをかけテーブルを拭いていた二十代の女性がアマンダにお礼を言います。


「おう、それに客も連れてきたぜ! 」


 そう言われ私は軽くお辞儀をし「今日はお世話になります」と言いました。


「あら、初めての方ですね。ではこちらへどうぞ」


 そう言われるままに必要事項じこうを書き宿泊の手続きをませるのでした。

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