第六話 国境の街 三

 ゆすり達を少し痛めつけた後、私は宿へと向かいます。


 彼らのせいで時間をとってしまいました。

 もう夜のかねが鳴りそうですね。


 クリスタは夕食に間に合うよう『宿 アカツキ』へ早足はやあしで向かった。


 『宿 アカツキ』へ着き、帰宅を伝え鍵をもらい部屋へと向かう。


 宿泊施設としては真ん中くらいでしょうか? 商人が行きかうことを考えると妥当だとうな値段と設備せつびですね。


 そう思いながらも一旦いったん部屋から出て食事をとるために食堂へ向かった。


 食堂は様々な宿泊者達でごった返していた。

 男や女、商人から傭兵まで様々である。

 特に特徴的だったのはこの国境の街から遠く離れた国の者も見えた所であろうか。


 騎士王国は魔法王国を含め複数の国に囲まれている。国土面積がさほど広いわけでもないので魔法王国へ商人はわざわざ遠回りせずに騎士王国を横断した方が安上がりであると考える者もいる。

 ゆえに騎士王国国内のみならず魔法王国へ向かう商人は必然的ひつぜんてきにこの街を通ることとなる。


 色々な人がいますね、流石国境の街です。


 そう思いつつ空いている席へ着きウエイトレスを呼ぶ。


「私はこの『店長のおすすめメニュー』でお願いします」


 了解しました、と注文を了承しょうちし彼女は店の奥へと向かって行った。


 料理が来るまで辺りを見渡していると何やら話声はなしごえが聞こえてきました。


「知ってるか? 魔王が動き出したそうだぞ? 」

「あぁ、そんな話をしていたな……」

「確か公国だったか? 今魔王が居座いすわっているのは」

「らしいな。おかげで商売あがったりだ……。早く勇者様、魔王を討伐してくんねぇかな……」


 不穏ふおんな情報ですね。

 しかし彼では魔王の討伐は何年かかるか分かりません。それまで耐えていただくしかないでしょう。


「そう言えば聞いたか? 何やら『神速』の傭兵団が動いたらしいぜ? 」

「なんだ、そりゃ? 初耳はつみみだな」

「なんでもダンジョンを潰して回っているらしいが、久しぶりのご登場らしい」

「『勇者』様でも『神速』様でも構わねぇから早く魔王を討伐してくれ……」


 『神速』の傭兵団ですか……。

 まだアカデミーにいたころに聞いたことがありますね。

 何でも世界最強の一角だとか……。『神速』のファンの子が熱弁ねつべんしていたので誇張こちょう半分で聞いていましたが、商人や傭兵達の話を聞いていると相当な実力者のようですね。


 聞き耳を立てながら考え事をしているとウェイトレスが料理を持ってきた。


「こちら『店長のおすすめメニュー』となります」


 そう言いながら配膳はいぜんしていく。

 野菜料理に肉料理、様々な文化が混じった料理が並べられた。


 ごゆっくり、とウェイトレスが次の注文を取りに行くと早速料理を口に運ぶ。


「ん~! 美味おいしいです。これは何の肉でしょう? 」

「おう、嬢ちゃん。この肉の事が知りたいのか? 」


 そう聞いてくるのは少しぱらった、商人風のおじさんです。

 四十代くらいでしょうか? 短めの青い髪に黒い瞳、丸っこい顔をした少しお腹が出ている方です。


「ええ、とても美味おいしいので」

「肉自体は一般的なもんなんだが、どうやら店長が仕込しこんでいるらしいぜ? この料理がうめぇから国元くにもとへ帰って再現しようとした奴らがいたんだがよ。全員再現できずに諦めちまった」


 なるほど、仕込しこみに秘密があるのですね。

 

「そっちの野菜料理も食ってみな」


 焼きたてほかほかの料理がとても美味おいしそうです。

 火傷やけどをしないように慎重しんちょうに野菜料理をフォークを使って口に運ぶ。

 

「こちらも美味おいしいですね。これは一体どういった手品てじなでしょう? 」

「それは簡単だ」


 そう言いその商人は懐から一つの木製のびんを取り出す。


「これは『塩』だ」


 それを器用きように軽く回しながらこちらを見て説明をする。


「まぁ、そんな高価な物をこの料理にお使いになっているのですか? 」

「その通りだ。塩は騎士王国の更に向こう、皇国から輸入するのが一般的だが……その隣の国が塩の生成方法を見つけやがった。しかもその国は安く作れると来たもんだ。そのおかげで塩の値段が急激に下がり……ここいらの店でも使えるようになった、というわけだ」


 大袈裟おおげさに立ち回り、周りに聞こえるようにしゃべる。


 思惑おもわくが見えてきました。

 面白そうですね、乗りましょう!


「そこで綺麗きれいなお嬢ちゃん、この塩をお買いになりやせんか? 」

「フフフ、いいでしょう。おいくらでしょうか? 」


 眉間みけんしわせあたかも考えるような仕草しぐさをしながら答える。


「ん~本当なら金貨二枚に銀貨三枚だ。しかし綺麗きれいなお嬢ちゃんにめんじて今日は金貨一枚でどうだ? 」

「お口が上手じょうずなこと、買いましょう」


 そう言いお金と塩を交換する。

 それにつられ話を聞いていた周りの商人達がさわぎ出した。


「おい! ずれぇぞ! 俺にも買わせろ! 」

「そうだ、そうだ! 俺にも金貨一枚で寄越よこせ! 」


 塩はこの辺では貴重です。

 それこそ貴族が料理に使うものです。金貨も二桁します。それが金貨一枚で取引されたのですからこぞって買おうとするのもうなずけます。


「うっせぇ! 小汚こぎたねぇ野郎やろう共は金貨二枚だ! 」

「買った! 」

「俺もだ! 」

「俺もだ! 」


 一気いっきに料理の解説していた商人に多くの他の商人達がむらがる。

 クリスタはその間に食事をませさわぎが収まるまで待つことにした。


 さわぎが治まるまでかなり時間が経ったが、時を見計みはからい商人に近付き話しかける。


「上手い口上こうじょうでしたね」

「おや、ばれていましたか」


 少し疲れ気味ぎみな顔をしてこちらを向きました。

 売れ行きが良かったのでしょう、ほくほく顔です。


「では改めまして、先ほどはありがとうございました。私はジェフリー……ルーカス・ジェフリーと申します」

「これはご丁寧ていねいに。私はクリラッサと申します」


 軽く頭を下げ挨拶をする。


「しかしよろしかったのですか? よりもうけようとすればできたと思うのですが? 」

「それもそうなんですがね……。いらぬうらみを買いたくないもので」


 ハハハと言いながら顔をポリポリとかいていた。


「それにその内、価格は落ち着きます。何より価格を抑えないと皇国は市場を取られてしまいますからね」


 中々商売というものは難しいものですね。

 利益を求めすぎるといらぬ反感を買い、利益を追求しないと自分が破滅はめつする。マリンのように行商をしている者ならば運送中に盗賊に襲われることもあるでしょう。


「それに……貴方とはいい関係を結んでいた方がいいかと思いましてね? 」


 それで私に破格はかくの値段で売っていただけたのですね。

 それにしても私が貴族だとバレたのでしょうか?


何故なぜそう思うのですか? 」

「いえ、こう見えて人を見る眼はあると思うのです。是非ぜひ今後とも我が『ジェフリー商会』を御贔屓ごひいきにお願いします」


 んできませんか……。

 下手に相手の素性すじょうを問いめないのはこうポイントですね。


「ええ、是非ぜひ貴方とはいい関係でありたいものです」


 そう言いお互いに別れるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る