ダンジョンへの誘い。選ばれたのは私!?

 最近は平和だなあ。

 人間関係は相変わらずだが、ここの所これといったイベントは起こっていない。

 ストーリー的にも、キャラの育成期間だから当然か。


 今日も何気ない一日が始まる。大好きな世界で、愛おしい日々。

 さて、今日もイケメンキャラの生態をたっぷりと眺めさせてもらいますか。


「すまない。少し時間をもらえるだろうか」


 教室の中に、凛とした女性の声が響いた。


 あれは……、生徒会長のミラ。どうしたんだろう?

 後ろには数名のモブを引き連れている。


「あれ生徒会長じゃない?」

「綺麗」

「なになに? なんでこのクラスに?」


 クラスメイトたちがヒソヒソと話している。

 みんながソワソワするのも無理もない。ミラといえば絶世の美女だ。それに、この学園の生徒会長とはいえ、普通の生徒は彼女を見る機会はほとんどない。


「君たちに聞きたいことがある」


 ミラの言葉に、みんなは一斉に口を閉じた。


「先日行われた実地訓練で、とても良い成績を残したパーティーがいると聞いた。そのメンバーは誰だろうか? 私たちは、今度とあるダンジョンに行くことになったのだが、もし良ければそのメンバーの中から一人連れていきたいと考えている」


 ミラが教室の中を見回すと、ヒューバーが眼鏡を触りながら立ち上がった。


「私たちです。私と、ヴァン王子、それに聖女アリス」

「メンバーは四人と聞いていたが、他には?」

「一応……、もう一人いましたが、彼はただの荷物持ちをしていただけで」


 ヒューバーは、そう言って私のほうを見た。


「そいつのことはいい。ダンジョンへは俺を連れていけ。ダンジョンの魔物など俺が蹴散らしてやる」


 ヴァンが立ち上がり、金の髪をかき上げる。

 ふむ。今日もヴァン様のカッコよさに問題なし!


「なるほどな」


 ミラがふっと笑って、私の方を見る。

 ひええ。なんかやばい。彼女の目線を遮るように私は咄嗟に頭を下げた。


「では、ラグナ君。君にお願いできるかな?」


 ミラのその言葉に、教室中が騒めいた。

 当たり前だ。今の紹介で、なんで私が選ばれるのか皆分からないだろう。私も分からない。


「おいおい。おかしくないか? なぜ何の成果も上げていない、訓練の時もずっと後ろにいた奴を選ぶんだ? それとも生徒会長は、荷物持ちを探していたのか? だったら納得できる」


 不服そうな表情でヴァンが言った。

 なんだか少し怒っているようにも見える。


「いや、私はダンジョン攻略の戦力となる人物を求めてきた。そして彼を選んだ」

「なぜだ!? 戦いなら俺が一番の戦果を上げていたはずだ!」


 ヴァンは恐れもせずに、生徒会長に食って掛かる。

 余程の自信だ。まあ、彼も今の時点では十分に強い。攻略対象はその他のモブキャラよりもポテンシャルが高いし、その上彼は日頃から努力もしているのだ。

 彼は決してイキがっている噛ませキャラではなく、れっきとしたメインキャラ。戦力としても期待できるので、納得がいかないのは分かる。


「今の君には、言っても分からないだろう」


 そんなヴァンの言い分を、ミラはさらりと一蹴してしまった。


「それじゃあ詳細は追って知らせる。よろしく頼むよ、ラグナ君」


 ミラはそう言い残して、教室を出て行った。連れていたモブたちは、結局一言も喋らなかった。


 どうするのこの空気。

 教室の雰囲気は最悪だった。


「なぜだ! なぜなんの成果も上げていないお前が選ばれる!?」

「な、なんででしょうねえ? 自分にもさっぱり」


 激昂したヴァン様もかっこいいが、それが私に向けられたものというのが悲しい事実。

 ミラはある程度私の強さを知っているのだが、彼らはそれをまだ知らないので納得できないのだろう。

 それにしても、なぜこんなことに。ミラさん、突然きて無茶ぶりすぎるよおお。


「君は生徒会に対して、何か裏で手を回していたのでは?」


 ヒューバーが眼鏡を持ち上げながら、鋭い目でこちらを睨む。


「そんなこと、するわけないですよ! 別に今さらダンジョンに行きたいとかないですし」

「今さら?」

「あ、いえ。今さらというか、まだというか……」


 皆の視線が私に集まる。嫌だなあ、この空気。

 せっかく平和な日が続いていたのになあ。はあ、胃が痛い。


「私は、ラグナさんが相応しいと思います」


 そう言いながら、アリスが勢いよく立ち上がった。


「みんなラグナさんのことを誤解しています! ラグナさんは、ここの誰よりもすごいんですう!」


 アリスの絶叫が響き渡った。

 皆の目が点になっている。きっと私の目も点になっているのだろう。

 どうしちゃたのアリスさん?

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