生徒会長は、ダンジョンで素材集め。

 ここは……、銀狐の箱庭。

 序盤に解放される、いくつかのダンジョンの内の一つだ。


「よく来てくれたラグナ君。歓迎するよ」


 入口の前に、銀色の髪の美女が立っている。


「よく来てくれたじゃないですよお。教室の雰囲気、最悪だったじゃないですか。それに私のこと、内緒にしてくれるって言ったのに」

「別に君の秘密を喋ったわけではないが」


 ミラは得意げにそう言った。

 この人、こんな人だっけ? なんだか少し悪戯っ子のようにも見える。


「で、私はなんで呼ばれたんですか?」

「説明しただろう。このダンジョンの攻略を手伝ってほしいのだ」


「別に私がいなくても、ここぐらいなら普通に攻略できると思いますけど」

「ほう。このダンジョンのことを知っているのか。流石だな」


 ああ。この人はまたすぐそうやって人の事を分析する。


 でも実際、普通に攻略できるというのは本当だ。ゲームスタート時に行くところではないが、上級生の戦力なら問題ないダンジョンのはず。

 ここの魔物は良いアイテムを落とすので、素材集めに通う所だ。


「先日実地訓練の結果を耳に挟んでな。なにやら良質なアイテムを、数多く持ち帰ったとか。それでそのパーティーには君がいた。何かあるのだろう? 何もなかったとしても、君の実力が見られるならそれも良しだ」


 なるほど。今日はダンジョンでの素材集めが目的か。彼女は落とし玉の効果に期待しているのだろう。

 まあ、それぐらいなら協力するか。私の強さも適当なところで抑えておこう。


 いつの間にかミラの周りに、パーティーメンバーと思われるモブキャラが並んでいた。

 隠密スキルすごいな。そして相変わらず誰も喋らない。


「では行こうか」


 ミラの声に続いて、私たちはダンジョンの中に入った。




 ミラたちは、現れる魔物をを次々と撃破していく。

 すごく順調だ。これならサポート魔法をかけなくてもよかったな。私が戦いに参加する必要もないぐらいだ。


「すごいな。今日は本当にドロップが良い。これは君のおかげか?」

「いえいえ。ミラさんの運が良い日なんですよきっと。あれじゃないですかね。今日の夜は満月ですから」

「面白いことを言う。意外とロマンチストなんだな、君は」


 それは、乙女ですから!


 向かってきた魔物を、ミラの剣が両断した。

 相変わらずいい剣筋だ。体の動きに合わせて流れる銀の髪に、思わず見入ってしまう。


「これも、君のおかげなのだろう?」


 剣に付いた魔物の血を払いながら、ミラは妖艶な表情でふふんと笑った。


「会長! ドロンの群れです!」


 おお!? 会長付属のモブキャラの一人が喋った!

 両手で槍を構えながら、慌てた様子で叫んでいる。


 彼らの後ろには、ドロンと呼ばれる浮遊型の小さな魔物がわらわらと沸いている。巣穴でも近くにあったのだろうか。

 一匹一匹の強さは大したことないが、こいつらに遭遇すると数が多くてやっかいだ。

 何よりこの魔物、倒すのに時間をかけると、突然自爆し始めるのだ。一匹が爆発すると、それに続いてボンボンと。それはもう景気よく破裂していく。


 はああ。仕方ない。一気に倒してしまおう。


 風魔法<エアリアルレイン>


 私は魔力を集めて、無数の鋭い風を放った。

 風の矢はそのまま魔物に向かって飛び、ふよふよ浮いている体を貫いていく。


「流石だな。しっかり攻撃魔法も使えるじゃないか」


 愉快そうにミラが言った。


「まあこれぐらいは」


 彼女は私の強さをある程度しっているので、これぐらいの魔法なら大丈夫だろう。

 会長付属のモブキャラたちは、ポカンとした顔でこちらを見ていた。




 さて。この先の敵を倒せば、ダンジョンクリアだ。私たちは、閉ざされた大きな門の前まで来ていた。

 ここまで普通にサクサク来ることができたな。流石ミラ。すでにストーリー中盤でも問題ないぐらいの強さがある。


 目の前の重そうな門を開けると大きな広間があって、そこではこのダンジョンのボスが待ち構えている。

 確かここのボスは、ダンジョンの名前の通り狐型だったな。


「さて、準備はいいか?」


 剣を握りしめたミラが、普段通りの笑みを浮かべながら言う。

 ボス前だというのに、まったく怯えた様子がない。すごい自信だ。

 まあ、ここのボスぐらいなら、彼女に任せておけば問題ないだろう。


 モブの男たちによって扉は開かれた。

 その先には、大きな獣の影が見える。近づくまで襲ってこないなんて、親切設計だなあ。


 私たちはボスの目の前まで進み、それぞれの武器を構えた。


 ボスの瞳が不気味に光る。

 こわっ! これ夜に一人で来たら漏らすやつだ。


 狐に似た大きな獣は、腹に響くほどの大きな叫びとともに立ち上がった。

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