いなくなったサンディを探せ。

「ラグナさん。もう一杯どう?」

「あ、はい。いただきます」


 はあ。美味しい。

 今日もまたトイレの回数が増えそうだ。


「なに!?」


 突然、店内に大きな音が響いた。これは、ガラスの割れたような音?

 店内には、さっきサンディが――。


「サンディ。何かあったの?」


 ウェンディが慌てて立ち上がり、中の様子を見に行った。


「きゃあ! これはっ!?」


 店の方から、ウェンディの悲鳴が聞こえた。


 なんだどうした?

 お茶を置いた私たちは、急いでウェンディの元へと向かった。


「ウェンディさん。大丈夫ですか?」


 座り込んだ彼女のそばに、アリスが駆け寄る。

 その先には、割れたいくつかのガラス瓶が転がっていた。


 あれは、ポーションの小瓶だ。それがいくつも床に散らばっている。

 中身の液体も飛び散っていて、床の木を濃い色に染めていた。


「これはまだ整理前の……。なにがあったんです? サンディちゃんは?」

「わからない。来てみたらこうなってて」


 店の扉が開いている。

 ははーん。読めたぞ。


 さっきのサンディの様子を見るに……。

 我慢できなすぎて勝手に手伝いを始めてしまっただろう。そして、失敗してポーションを割ってしまった。

 怒られるのが怖くなったサンディは、咄嗟に外に逃げてしまった。


 そんな所だろう。実に名推理だ。

 流石、私。


「とにかく、サンディちゃんを探さないと」


 必死な様子でアリスが言った。


「ここは私が片付けておくから、サンディをお願いウェンディ」


 お店のことはウェンディの母に任せて、私たちはサンディを探しに外へ出た。


 うーん。とりあえず店の周辺にはいないな。もう少し範囲を広げてみるか。

 私たちは、手分けして街の中を探し始めた。


「ラグナさん。いました?」

「いや、どこにも。ウェンディさんのほうは?」

「ううん。見つからない。あの子、いったどこに……」


 しばらく探してみたが、ぜんぜん見つからなかった。

 というより、この街広すぎ。これは本腰入れてちゃんと探さなければ。街の外に出ていなければいいけど……。


「私は向こうを探してみます!」

「皆さん迷惑かけてすみません。私はこっちを」


 私たちは、それぞれの通りに分かれて奥まで探すことにした。

 うーん。子供が行きそうな所か。まだこの街に来て間もないから、細かい所は分からないんだよなあ。


 私は、ゲームで記憶している街のマップを脳内に広げた。

 確か街の景色を一望できる、静かな広場があったような……。


 主人公のアリスが攻略対象と一緒にその場所に行くと、一緒に景色を眺める特定のイベントが発生する場所だ。

 一枚絵でアップになるキャラの横顔、どれもよかったな。今でも脳内で完全に再現できる。


 ちょっと行ってみよう。聖地巡りだ!




 あ、いた。

 ベンチから、サンディの頭がひょっこりはみ出している。

 まさかこんな所まで来ているとは。子供の行動力はとんでもないな。


 でも、ど、どどど、どうやって連れ戻したらいいのだ。いきなり抱えて連れて行くわけにもいかないし。

 こういう時、コミュ障はつらい。なぜ私が先に見つけてしまったのか。


 しょうがない。


 私は静かに、サンディの隣に腰を下ろした。

 伏せっていたいたサンディの頭がピクッと動く。


 さて。これからどうしたものか。

 こういう時、なにか気の利いたことでも言えればいいのだが。


 前を見ると、私の目に街の景色が飛び込んできた。

 すごい。素晴らしい。これがヴェルオール王国の城下町。街の屋根が、あんなに遠くまで続いている。


 ほわああ。あっちは教会か? あ、あそこは武器屋だな。なんだか豪華そうな知らない建物もある。

 おおお。あっちにはオシャレっぽいカフェも見える。今度行ってみようかな。今の私はイケメンだし、許されるよね。


「ふ、ふふふっ。ふくくく」


 隣から、サンディの漏れ出る笑い声が聞こえる。

 見ると彼女は、その小さな体を小刻みに震わせていた。


 どうしたんだろう。なにか急に面白いことでも思い出したのだろうか。


「ラグナお兄さん、おかしいよ」


 な、なにが?

 どこがおかしかったのか。私は普通に隣に座っただけだ。

 もしかして、小さな女の子の隣に座る私、きもい?


「な、なにか変だったかなあ?」

「うん。いきなりキョロキョロしだして、顔もコロコロ変わるし。変だよ」


 ガーン。

 変という言葉が、私の頭の中に鳴り響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る