不思議な雑貨屋の女一家。
「おねえちゃあああん!」
店の奥から、元気な声を上げて小さい子供が飛び出してきた。
なんだなんだ? 何者だ?
「サンディ!?」
驚いたウェンディに、子供が勢いよく飛びついた。
サンディ。どうやらこの子供の名前らしい。背は小さいが、ウェンディにそっくりだ。きっと彼女の妹なのだろう。
「可愛い! この子は?」
またアリスの瞳の星が踊りだした。
「サンディです。騒がしくてごめんなさい。私の妹なの」
やっぱりね。私は分かってたよ。
それにしても可愛いな。十歳ぐらいだろうか。コロコロして人形みたいだ。持って帰りたい。
「サンディ。友達来てるから、奥に行っててくれる?」
「えええ。私も一緒に遊びたい」
のどかなやり取りだ。よくある姉妹のやりとり……。和むなあ。
そういえば、前世でも友達の家に行った時にこんな光景があったことを思い出した。あの時は幼い子の扱いが分からず、結局私が放置されてボッチになった感じだったが。
「全然大丈夫ですよ。サンディちゃんも一緒に遊びましょう」
「ええ? いいんですか?」
もちろん、とアリスは頷いた。私も深く頷いた。
今世でも前世でも一人っ子だった私には、妹が羨ましい。
私たちは、改めて店内を歩き回った。
「おわあああ」
店内は、素敵な雑貨でいっぱいだった。
お土産屋にあるような小物。買った後、どうしたらいいか分からなさそうな可愛い小物。アンティーク調のアクセサリー。普通に道具屋に置いてあるアイテムもある。
楽しいな。こういうお店は、いつまでいても飽きない。何も買わずに開店から閉店までいける。
あ、これは!? 超レアアイテムだった青の短剣! 超低確率だけど、誰も装備出来なかったアイテムだ。それがこんな所に普通に置いてあるなんて。
あっちにはドロップアイテムの確立を上げることが出来るとされる、伝説の落とし玉まである! なんなのだこのお店は!?
「あのお兄ちゃん、すっごい楽しそうだね」
「ホントだね。色んな噂ある人だけど、意外と楽しい人かも?」
「そうなの。ラグナさん、とっても面白い人なの」
いけないいけない。つい以前のノリで夢中になってしまっていた。
ラグナはなるべくクールなキャラにしなければ。ところで色んな噂ってなんだ?
「ウェンディ、お友達?」
店の奥から、また別のキャラが現れた。これまたウェンディに似ている。
綺麗な人だな。今度はあれだ。きっと姉だ。三姉妹かあ。ラブコメ漫画に出てきそうな構成だあ。
「あ、お母さん。学園で一緒のクラスの人たちなの」
「あら、娘がいつもお世話になってます」
ほげえ! お母さん!? 若っ!
なんでこう……、この世界は見た目が良い人が多いのか。良くない人もいるにはいるけど、割合をもうちょっとこう前世と合わせてもらってもいいのでは。
イケメンに転生したというアドバンテージが霞んでしまう。
「よかったら奥でお茶でもいかがですか?」
私たちは、ウェンディの母に奥へと案内された。
中には大きめのテーブルと、椅子が四つ並んでいる。コンロに乗せられたポットからは、ユラユラと湯気が昇っていた。
なるほど。ここは生活空間にもなっているのか。
揃えられた家具のセンスがなんとなく良い感じだ。さすが雑貨屋。こんな所でのんびりお茶なんて、いい感じだあ。
ほっと一息ついていると、女の子たちの女の子たちによる女の子たちのための会話が始まってしまっていた。
なにやらキャッキャと盛り上がっている。前世では私もそちら側だったのに、なぜうまく入っていけないのだろう。
まあいい。ラグナはクールキャラなのだ。無駄な会話はしないのだ。
「それにしてもウェンディが人を連れてくるなんて珍しい。皆さんに迷惑かけてないですか?」
「全然そんなことないです。私とも仲良くしてくれるいい人で」
「えええ、おねえちゃん。こんな綺麗な人と友達なの?」
まあ、いきなりアリスみたいな子を連れてきたら普通びっくりするよな。アリス本人は、すごい勢いで否定しているが。
自己評価低い子だなあ。私だったら……。いやいやいや、何度同じことを考えるのか。
「うちはこの三人家族なんですけど、ウェンディに色々負担をかけてしまっていて、これまであまり友達いない子だったんですよ。よかったら、これからも仲良くしてあげてください」
「ちょっと、やめてよお母さん!」
この家は女性しかいない家なのか。なにか事情があるのかな? まあ、他人の家庭の事情には突っ込まないでおこう。
しかしウェンディは、やっぱり見た目のままいい子そうだな。これならアリスの友人としても安心だ。
「アリスお姉さん。こっちに可愛い人形あるの。見て見て」
「わあ。見たいです。ウェンディさんも一緒に行きましょう」
そう言って若い三人はお店の方に行ってしまった。
のどかだなあ。学園にいる時とは大違いだ。心が癒される。
それにしてもお茶がうまい。どれ、もう一杯いただこうか。
「うちは主人が昔、仕入れの時に魔物に襲われて帰ってこなくなってしまって。まだ、二人とも小さかったんですけどね。でもウェンディがサンディの面倒をよく見てくれてたんですよ。それからあの子には、ずっと面倒をかけっぱなしで」
「そ、そうなんですね」
こんな時、なんて言ったらいいのか分からない。私には難易度が高い話だった。
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