王子の側近、アシェルからの呼び出し!?
はあ。この前は楽しかったなあ。
この街にあんな良い雑貨屋があったとは。暇な時は通ってもいいかもしれない。
ウェンディの妹、サンディも可愛かったなあ。
まさしく妹の王道と言える良キャラだった。母の代わりに面倒見てもらっていた姉に懐く。よくある話。
小さい子はどう扱ったらいいか分からなかったが、最後の方は私にも構ってくれた。
あそこでお茶している時は穏やかだったのになあ。
今日もこれから授業か。学園では、私だけ穏やかじゃないんだよなあ。あんなに楽しみだった学園生活。どうしてこうなった……。
「あ、君。少しいいか」
校舎に向かう途中、ふと誰かに声をかけられた。いや、誰かではない。この声は……。
アシェル! なぜここに? そしてなぜ私に!?
声かけられたの、私だよね。間違いないよね。
近くにアリスは……。いない。
「ラグナ君だったか。君と少し話がしたいのだが」
なんてことだ。これは夢ではなかろうか。あのアシェルが、私と話したいなんて。
「はははは、はい。大丈夫です。何用でしたでしょうか!?」
「急に声をかけてすまない。そんなにかしこまらないでくれ。よければあっちで話さないか」
アシェルはそう言って、人気のない方を指さした。
えええ、何が起こるの!? これ告白イベント!? ゲームクリア!?
落ち着け落ち着け。そんな訳ない。私は主人公ではない。告白対象ではない。
「先日のヴァンとの戦いのことなのだが」
ああ、あの事ね。人気のない所に連れてこられた私は、がっくりと大きく肩を落とした。
調子に乗るなよって話だろうか。それとも、まだお仕置きが足りなかったのだろうか。それで人気がない場所へ?
「先日は、ヴァンがすまなかった」
アシェルはそう言うと、私に向かって頭を下げた。
なんと。これは予想外だ。あのアシェルのつむじを見ることになるとは。ふむふむ。右回りか。
「あいつは、熱くなると止められなくなることがあってな。あの時、きっと君は巻き込まれてしまったのだろう? だが、悪い奴ではないんだ。どうか悪く思わないでいてやってくれ」
全然! 悪くなんて思うはずがない。熱くなると止められない。ヴァン様は、そんな所が良いキャラなんだ。
「いえ。大丈夫です。お互い怪我も無かったことですし。私は気にしてません(むしろご褒美でした)」
「それなのだが。君はいったい何者だ? 流石にあいつも本気ではなかったと思うが、あの魔法を食らって無傷とは一体……」
「あれはですね、あれは……。自分、けっこう丈夫なんですよ!」
私は変なポーズで誤魔化した。
「そうなのか。いずれにしても、君は少し不思議な人物だな。ヴァンがああなるのも、中々に珍しい」
「そ、そうなんですね」
なんか複雑な気分だ。あれは私にだけ見せてくれた、ヴァン様の特別な態度ということで受け取っておこう。
「これからも迷惑かけるかもしれないが、あいつをよろしく頼む」
そんな。迷惑なんてありえない。こちらこそよろしくお願いしますですよ。
アシェルからこんな風に言ってもらえるとは思ってなかった。ゲームでは真面目で落ち着いたキャラだったが、ヴァン様思いのいい人だなあ。やっぱり頼れる兄貴キャラだ。
「もしかしたら、君ならあいつのいいライバルになれるかもしれないな」
アシェルはそう言って、去っていった。
ライバルなんておこがましいが、あのアシェルに期待されるのは光栄だ。鼻血出そう。私、頑張ります!
はああ。それにしても、夢のような時間だったなあ。他のキャラとも、もっとイベント発生しないかな。
「あ、ラグナさん。この前は楽しかったですねえ」
あれはアリスさん。今日もいい笑顔だ。
でも、きっと今日は私の方がいい笑顔のはず。朝からあのアシェルに声をかけられて――。
「おいお前。そこ、どいてくれないか」
「すすす、すみません」
ヴァン様あああ。なんと、彼からも声をかけられてしまった。
奇跡は続けて起こるものなのか。
私の横を通り過ぎる時、彼のカバンが肩にぶつかった。物理的接触。嬉しい。
ああ。朝日が眩しいなあ。今日は良き一日だった。
「なんか、ヴァン王子ってラグナさんに当たり強いですよね」
「あ、ウェンディさん。そうなんですよ。ラグナさん、とっても良い人なのにひどいです」
私と彼のやりとりを見ていたのか、後ろからウェンディも現れた。
「全然大丈夫。それより、この前はお邪魔しました」
「いえ、こちらこそありがとうございました。妹も楽しんでました」
「サンディさん、可愛かったですね。また会いたいです」
うんうん。ゲームに出てこないキャラでも、色んな魅力的なキャラがいる。この世界、もっと好きになったよ。
「そういえば、今度はお店の整理をするって話してましたよね。私も手伝っていいですか? ね。ラグナさんも一緒に」
「ええ? それは悪いですよ。けっこう大変ですし」
私のいない所で、そんな話をしていたのか。
雑貨屋の手伝い。ちょっと興味ある。
「大丈夫。やったことないけど、やってみたい」
「じゃあ、決まりですね」
そうしてまた、ストーリーとは違うイベントが発生したのだった。
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